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第四十四話 その浮遊感、異議あり!

 これぞうはムキムキになって学校へ戻ったが、肝心なその筋肉が活躍の場を迎えることはなかった。


 これぞうが参加する競技「空き缶リレー」には、三宅君という男とコンビを組んで出場することとなった。この競技は、横倒しにした空き缶4個をくっつけ、その両端を選手が持ち、20メートル先のコーンをグルリと回って返り、次の組に空き缶を渡すといった内容のものである。各チーム三組6人が出場する。

 これぞうの相棒の三宅君というのは、これぞうと同じくクラスで浮いた存在であった。しかし同じ「浮く」でもその浮遊感には違いがった。これぞうはあんな感じなので、極めて明るく話術に長けながらも周りと足並みが合わない、また年相応に周りに興味が行かない故に好んで一人でいる、というか群れるという概念に乏しい頭の構造をしている。対して三宅くんというのは、いわゆるボッチ、それもなるべくしてそうなったという典型的なそれである。現実的にクラスの隅っこにいる、これぞうよりもずっとリアル路線のボッチである。あまり突き詰めた説明は可哀想になるので、ここまで言ったら後はどういう奴か察して欲しい。

 二人ともクラス内において排斥を受けたということは決してない。ただ、好んで彼らと関係を持とうとするクラスメイトはあまりいないというわけである。これぞうなんかは一部の女子には怖がられている。

 クラスの浮いた存在二人がチームを組むことになった。これぞうは入学式の日から毎日三宅君と一緒に授業を受けているが、彼のことは知らない。


「やぁよろしく頼むよ級友」

 これぞうは笑顔で三宅君にそう言った。

「ああ当日に選手変更か。変更前の人は僕が嫌になったのかな」

 これぞうよりもずっと小柄な三宅君はボソっと言った。

「はっは~何を言ってるのさ級友、君を捨て置いた元相棒を見返す程の働きをこの僕と共にすればいいじゃないか!過去のことは忘れて逃した魚はデカく立派な哺乳類だったと証明してやろう!」

 これぞうはデカい声でそんなことを言いながら三宅君の背中をパンパン叩いていた。そうして騒いでいるから、入場門で選手の点呼を取っている教員の一人に「うるさい」と注意された。

「これはすまない御仁、この血と筋肉がさわいでしょうがないんですよ」

 教師を御仁呼ばわりしてこれぞうはご機嫌に答えた。

 しかし、ご機嫌なのは入場前のここまでで終わり。これぞう・三宅ペアはチームの第一走者であった。なるたけ速く次の組へと空き缶を繋ぐのが彼らの仕事、彼らなりにそれを頑張ってはみたが、彼らがその役目を終えた時には、他のチームの第三走者、つまりはアンカーは全員ゴールしていた。二組目に空き缶が渡った段階でもうドベが決まっていたが、ルール上、そして学校教育上勝敗に関係無く最後まで競技は行われる。負けが決まった中、他の生徒を待たせる状態で走った二組目と三組目の選手は随分と惨めで恥ずかしい想いをした。

 これぞうと三宅は、いくら当日にペアを組んだといってもここまで駄目なのか、と誰もが想うレベルで遅かった。空き缶は落とすしこれぞうはコケるし三宅君はちょっと泣いてた。


「ふぅ、いい汗流したね級友、いや相棒……かな?」

 退場門でこれぞうは三宅君に握手を求めた。しかし三宅君はそれを無視し、うつむいたままその場を去って行った。そしてこれを最後に三宅君がこの物語に登場することはない。彼は物語からも去ったことになるのであった。

「ふっ、青春は甘くないってね」

 これぞうはヘラヘラしながらそんなことを言っていた。


 競技に参加しない生徒たちは校庭のテントの下で待機している。久松の下へと足を運んだこれぞうは「で、久松君。僕は次には何に出て勝利を掴めばいいんだい?」と尋ねた。

「さっきので勝利を掴んでもらう予定だったけど、後はないよ」と久松は返した。

「え?というと?」

「いやいや、お前は参加競技を決める時に何も声を発しなかったじゃないか。でも、一人一種目は必ず出ないといけないから、最後まで枠が余った20人21脚に登録したけど、変更してさっきのに出たからそれで今日は終わり」

「うん?じゃあ明日も運動会をやるのかい?」

「いや一日しかやらないよ。お前は元々一種目のみ参加なの」

「何!じゃあ僕はいきなり敗退して、それで終わりなのかい?」

「そう、それで終わりなの」

 クラスで出場種目を決めたのはある日の学活の時間。その時これぞうはバッチリ寝ていたのでそんなことがあったことも知らない。

 こうしてこれぞうは、チームの足を引っ張るのみで体育祭での仕事を終えたのである。

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