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第四十一話 郷に入っては郷に従えと言うが、どの郷に入るかは君達の自由

 これぞう達のグループは、体育祭で使うあれこれの道具を用意し、指定の場に指定された数だけを置くという役を担っていた。

 椅子、ハードル、コーン、その他もろもろの小道具を倉庫から出しては校庭へと運んでいく。これっぽっちのことだが、同級生よりも体力的にやや劣るこれぞうにはこれらの仕事がかなりしんどかった。


「はぁはぁ……スポーツマンでもない僕に連日こんなことをさせるからすっかり手足が筋肉痛と来ている」

 愚痴をこぼしながらこれぞうは今日も何かしらの道具を運ぶ。

「五所瓦、お前はあまりにも情けないぞ。元陸上部なんだろう?だったよな松野さん?」

「え、久松君はそう聞いているの?う~ん、まぁ入部したって記録はないけど、きっとそういうことでいいと思うよ」

 久松の問いかけに対して、気遣い屋の松野はそこのところをしっかり気遣った返事をした。

 校庭に出されたテントの下には、体育祭で使う道具が全て出揃ったようだ。今日も上下緑のジャージを着て、髪をシュシュで結わえた格好のみさきがメモを片手に道具が揃っているかチェックしている。これぞうはその姿を目を潤ませて見ている。

「いやいや、こんな何にもならない仕事だけど、掃き溜めに天使ってことで、ああしてみさき先生の素敵な姿が眺められるのだから、まぁ良いかってものだよね」

 これぞううは来賓者用のパイプ椅子を勝手に広げ、そこに座ってから長々とそんなことを喋っていた。

五所瓦ごしょがわらは悪いヤツではないんだけど……何ていうか、集団行動に合わないヤツだよな」

「五所瓦君は独創的だからね、気質からして違うんだと思うよ」

 久松と松野はこれぞうの困った点について語っていた。

 そこへ道具の点検が終わったみさきがやって来る。

「皆ご苦労さまでした。これで作業は終わりでいいよ。あとは明後日の本番まで待つだけね」

 みさきは生徒達に向けて、笑顔で労いの言葉を言った。

「いやいや、みさき先生のためですからね。でなかったら、9月の太陽と喧嘩するようなマネはしませんよ」

 そんな言葉を吐いたこれぞうは、偉そうに股を広げてパイプ椅子に深く腰掛けている。

「五所瓦君、君は競技の練習もサボって、全然やる気がないらしいわね。松野さんから聞いたわよ」

「ふっ、だってその練習ってのが20人21脚なんていう謎の競技のものですよ。僕なら戦うなら一人で十分ってところですよ。どうして20人で徒党を組むのか」

 これぞうは破滅的理論を吐いて競技の面白みを殺しにかかった。

「いやいや、一人で走った方が速いとか、そういうことじゃないからなこの競技は」と久松はツッコミを入れた。

 スタンドプレイの申し子これぞうにとって、20人21脚なんていう競技は、その気質的に言って相性が最悪と言える。

 放課後に練習をしようとメンバーが呼びかけても、これぞうは普通に帰っている。忘れたとかではなく、耳にしてもそんな情報は脳まで届かないので記憶に残らない。彼の体育祭への興味はそれ程までに薄いのである。これだけチームメンバーがいれば一人くらいキレても良いところだが、皆が皆してこれぞうは自分たちとは価値観が異なる他所の次元で生きている変人と認識しているため、どこまで説得を重ねてもこちらの価値観でもって対等な会話が成立しないと諦めている。なので、とりあえずこれぞう抜きで競技の練習を始め、最悪の場合を想定してこれぞうの代えの選手も用意していたのであった。

「五所瓦君、こういうことはクラス皆で協力してやらないと」

「ふふっ、もう義務教育は終わったのですから、科目のことは仕方ないとしても、行事の参加の有無なんてのはこっちに選択させてほしいものですね」

 これぞうはこういう時には生意気にも弁が立つ。とても腹が立つ。

「だめよ。義務教育以降に社会に出るか、進学するか、あなたにはその選択権があるだけで、選択した先では、その組織のルールに従わないといけないわ。で、あなたは高校に進学して今ここにいるのだから、高校で決められたことには従わないといけないの。義務とか選択とか言ってるけど、それの使い所を間違ってはいけません」

「うう……さすがみさき先生。反論の余地無き正論をぶつけてきますね。しかし、こうして議論を交わし合うというのも一つの親交ってヤツですよね」

 これぞうは、とりあえずみさき先生と口が利けるならそれで満足であった。

 その時、これぞう達が話している所に近づく人物があった。

「これぞう、あんたの負けよ。みさき先生の言うことが正しいわ。全くあんたは文句ばっかり垂れて、まだまだ駄目弟ね」

「あ?ああ!姉さん!何をやってるんだい!ここは高校だよ」

「知ってるわよ。あんたの尊敬するお姉ちゃんは、高校と大学の違いも分からないバカ女と想って?」

「いいや、僕の知る限り姉さんレベルの理知的な女性はこのみさき先生を除けばそうそういるものじゃない」

 放課後の高校の校庭に大学生のあかりが現れた。

 あかりを初めて見る久松と松野はビックリしていた。

「ええ、この綺麗なお姉さんがあの五所瓦の姉さんだって!」と思わず久松は口にする。

「あら、あなた……」と言うとあかりは、松野の姿を見て近づいて来る。

「ああ、あなたはいつかこれぞうに見せてもらったクラス写真に写っていた、写真よりも実物の方が……良いわね」

 あかりと従姉妹の桂子、二人に共通する趣味が、可愛い女の子を見るとちょっと気分が盛り上がってしまうというものであった。

「みさき先生も良いけど……これぞう、この子もかなり良いわよ。これはあと2年も経ったらもっと良くなる」

 あかりには、未来に可能性ある女の子に限って、その明るい未来を見ることが出来るというちょっとした能力がある。未来に可能性がある子を対象にすれば当然とも言えることだが。対してただの人については何も感じないし見えない。

「姉さん、松野さんに失礼じゃないか、女性同士でもセクハラは成立すると聞くよ」

 これぞうが注意した時には、既にあかりの美少女を求めての本能による行動が開始されていた。あかりは両手で松野を抱いていた。

「ああ、ごめんなさいね」

「いえ……」

 松野は顔を赤くして返した。

「私はここのOGだからね。運営の方の面倒を見てくれと生徒会の顧問から頼まれたのよ」

「え、なんでまた姉さんなんかに?」

「なんかとは何よ。あんた知らないの?私は去年までここの生徒会長をしていたのよ」

 そう、あかりは去年この学校の生徒会長をしていたのである。

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