第三十九話 学校がどういう所なのか、その捉え方は人それぞれである。
今回は、学校の休憩時間をダラダラ話して過ごす生徒の会話を羅列しただけのお話です。
捉え方によっては興味深い点もあると想いますが、まぁ大概は下らないことを話していると言えます。
いつにも増して特に何も起こらないお話なので別に読まなくても大丈夫です。
夏休み、それは少年少女達が校舎という名の牢獄からしばしの間解放される癒やしの期間である。学校ではまるで隊伍を組むがごとく、皆揃って右向け右、あるいは左向け左、といった毎日を送っているが、この夏休みの期間はそれぞれが学生の肩書を背負いながらも何をするも自由。法律にでも触れなければ大概のことは許される。
行動範囲と価値観を狭める校舎の中での生活を一度は抜けた生徒達だが、夏休みの期間を終えると、再び青春の監獄たる学校へとその身を投じるのである。
そして、そんな監獄の中の一室の机に頬をつけて実に楽な格好で座っているのが我らが主人公これぞうであった。
「はぁ~、終わった。遂に終わった夏休み。う~ん、こうしてみさき先生に会える毎日がまた帰って来たのは良いが、どうにも学校という所は暑いし退屈だ」
これぞうにとってみさきのいない夏休みの日々は長かった。しかしこうして学校が始まると、それはそれで今までの好き勝手出来た約一ヶ月の日々が愛しくもなる。この心理でもって多くの子供達は9月の登校日が憂鬱になるのである。
「おい五所瓦、お前は相変わらず大きな独り言を漏らすやつだな」
ダラダラしているこれぞうに声をかけたのはこれぞうの隣の席に座る男子生徒である。
「うぇ?どうした在校生。僕の独り言がそんなにうるさかったのかい?」とこれぞうは返す。
「おいおい、在校生ってのはよせやい」
「と言っても、君の名前は一体なんだったか……。この暑さか、僕の他人への興味の無さか、それとも君に他人に覚えられるだけの特性がないのか、おそらくこれら3つの理由のどれか、はたまた全部に引っかかって君の名前を呼ぶことができないんだ」
「あのなぁ、俺は入学の頃からずっとお前の隣に座っている久松だよ。クラスの中ではお前とかなり口を利く方だと思うけどなぁ。夏休みの間に名前を忘れられるとは……」
「ああ久松君かい。知ってる知ってる。君とはいつか話しをしたね。時に君、随分久しぶりじゃないか。夏休みだからということを抜きにして、それよりももっと長いこと会っていないような気さえする。一体何話ぶりの登場だい?」
「何だよ、その何話てのは?また本の話か?」
これぞうは興味がない相手であれば基本的に半月くらい合わないと忘れてしまう。
一時間目が始まるの前のわずかな時間に二人が話して過ごしているところへ松野がやって来た。
「五所瓦君、はいこれ学級日誌ね」
「やぁ松野さん久しぶり。しかし君、何だってこんなものを僕に?」
「今日は私と五所瓦君が日直だからよ」
「なんてこった!新学期第一日目がコレかい。幸先良しとは言えないぞ」
「ふふっ五所瓦君ってまた面白いこと言ってるんだから」
二人が普通に明るく話しているのを久松は珍しがって見ていた。二人が出会った時の最初の会話ときたら、これぞうが松野の下着がシャツの上から透けていると指摘したものであった。考え方によると最悪の出会いだった二人が今はこうして笑いを交えて仲良く話している。久松にはこれが不思議に思えた。そして不思議と言えばもうひとつ、どうしてこれぞうが自分の名前は忘れて松野の名前はさっと出てきたのかということもそうであった。
これぞうと松野は談笑を終え、松野は自分の席へと帰っていった。
「なぁ五所瓦、お前と松野さんとはどうゆう仲なんだ。仲良さそうに見えたけど」
「見たままの仲良しさ、なにせ僕たちはあのギラつく太陽の下で共に汗を流した仲間、まぁそれも元だけどね」
これぞうは元陸上部を名乗っているが、彼がどこかの部に籍を置いた記録はない。それもそのはずで入部、退部のどちらの届けも出していないからだ。
「そう言えばお前、いつぞやは松野のいる陸上部に出入りしていたよな。辞めたんだ」
「まぁね。2、3日の間だけのことさ。人には得て不得手がある。それが分かれば次の行動を取るべしさ。僕には不得手だったから、長く居座る理由はなくなったのさ」
「お前ってさ、やってることはバカっぽいのに、いちいちインテリ風に論理立てて語るんだな」
「まぁ見え方ってのは人それぞれさ。君には僕がバカにも見えればインテリにも見える。つまりはそのままってことで、僕って人間にはどちらも備わった二面性がある」
「お前と話していると内容の薄い話でもどういう訳か興味深いよ。話してて飽きないヤツだな、たまに疲れるとも思うけど」
「ふふ、姉さんにも似たようなことをよく言われるさ」
ここで一時間目のチャイムがなった。
「さぁ久しぶりに田村先生のありがたいお話がきけるじゃないか」
そう言ってこれぞうは初老の担任教員田村薫の登場するのを待っていたのである。




