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第三十八話 台風一過ってこういうことと気づいたある日

「ああ~みさきはお腹も引き締まっていて、二の腕もぷにぷに。でも良質な筋肉がついているように見えるわ。玄関にあったあのダンベルによってこのボディが作られたのね。いいわ~、本当にずっと見て触っていたい」

 前話に引き続き桂子はみさきへのセクハラを怠らない。新たに発見した美少女を心底楽しんでいる。

「そうね、それから妹のみすずちゃんも可愛い。あと2、3年待てばもっと良くなるわ。先生とよく似てるから未来は明るいわね。高校生に入ってからの2年3年は大きいからね、本当に一気に女らしくなるんだから」

 そしてこちらでは桂子に負けじとあかりもみすずを両手で抱きしめることで、若い女子の温もりと柔らかさを味わっていた。可愛い女子が好きな桂子とあかりのコンビは水野姉妹を堪能していた。そしてそれを目の前で見せつけられているこれぞうは、一人悶々としていた。

「お姉さんも良い匂いがする~」と返したみすずは、あかりに絡まれるこの状況を意外にも楽しんでいた。

「桂子ちゃんも姉さんも失礼じゃないか、二人は猫や犬とは違うんだよ」

「あらあら、これぞうったら焼いてるのね。あなただって触らせてもらえばいいんじゃない?それにこれぞうは今朝、桂子お姉ちゃんのおっぱいを触ったじゃない?」

 桂子の問題発言を聞いて、一同の目がこれぞうを向く。

「違うよ、あれは桂子ちゃんが勝手にですね、先生違うんです。僕には先生だけですからね!」

「何を言ってるんですか、知りません!」

 みさきは頬をやや赤くしてそっぽを向いた。  

「それにしてもみさき、あなたはどうしてまたこんなに狭くてボロい部屋を借りたの?そんなに給料がない仕事をしているのなら、家の使用人にならなくて?今、家には甲本というのがいるのですけど、あなたみたいな可愛い子が来てくれたらアレには暇を出すから」

「え……いや、私には学校があるし、そんなことをしたらその甲本さんが気の毒だわ」

 桂子は、これぞうとみさきの関係についての問題に片がつくと、次にはみさきを龍王院家で働くようスカウトしにかかっていた。

「いいのよ甲本なんて、アレは実家が漁をしてるとかなんとかで、首になったって次があるのだから。みさき、今のあなたの月給の5倍は出すわ。どうかしら?」

 節約をしている身のみさきからすると「月給の5倍」というワードはちょっと魅力的に思えた。

「ちょっと桂子、みさき先生が困っているでしょ。先生には明日にも非行に走るかもしれない少年少女達を教え導くという高尚な役目があるの。あんたみたいなワガママで扱いにくいお嬢様の世話で人生を消費するような方じゃないのよ」

 あかりがそう言うと、桂子は「そうね、甲本とは違うものね」と返した。

 桂子がそう言い終えると、みさきの部屋の窓がガラッと音を立てて開いた。

「お~いお嬢さん、俺を解雇するかどうかは旦那さんの判断次第ですよ。使えずとも肩書は使用人、というわけで仕事をさせてもらいます。お嬢さん、旦那さんも奥さんもさっさと帰ってこいって言ってんるで帰りますよ~」

 一息にそう言ったのは先程話題に登った男甲本であった。

「え!誰!ここ二階だけど!」甲本に驚いてみさきが言った。

「ああ、これはマブいレディだ。お嬢さんやあかりさんにも負けず劣らず……お嬢さんには勝ってるか」

「コラ、甲本!あなたは相変わらず態度がなってないわ」

 甲本は壁を駆け上がり窓に手を駆けて、普通に部屋を覗いていた。

「お姉ちゃん、あの人ぶら下がってる。ここまで登ってきたってことだよ」

 みすずは面白超人を見つけたことにはしゃいでいる。

「じゃあ失礼します。あ、靴は脱いでホラ、あそこの地面に置いてるので」そう言いながら甲本は窓からみさき宅に侵入する。

「またこれは狭い部屋だな。俺の実家の部屋の方がまだ広いわな」

 みさきの部屋は訪れる人皆に酷評されていた。

「さぁ桂子お嬢さん帰りましょう」

「嫌よ、みさきをスカウト中なの」

「何をワガママ言ってるのですか、聞いたでしょう。その先生には、非行に走る若者が生まれないよう教育を広めていくという重要な任務があるんです。お嬢さんは、明日にでも非行に走る若者がこの街に溢れても良いって言うのですか」

「私には関係ないわ」

「やれやれ仕方ないぞこれは、お嬢さん失礼」

「コラ、何をするの甲本!」

 甲本は片手で桂子を担ぎ上げた。桂子の腰に手を回してガッチリ固定している。

「は~い、ワガママお嬢様一丁あがりだ。今日中に連れて帰れというのが旦那さんからの命令です」

 甲本に担がれても桂子は上で暴れている。甲本はそのまま窓まで戻ると窓枠に足をかけた。

「では、皆さん失礼します。あかりさん、これぞう君、帰ってお母さんに会ったら今朝の鮭は美味かったとお礼を言っておいてください」

 そう言い残すと、甲本は桂子を担いだまま飛び降りた。そして地上に置いて来た靴を履くと、道を駆けていった。あまりの速さに彼と桂子の姿はすぐに見えなくなった。

「二階でも道具なしに登ってくる人がいるのだから、泥棒の心配がないと安心できないわね……」

 去りゆく甲本を見てみさきが言った。

「うるさい桂子が帰ったし、私達も帰りましょう」

「えっ姉さん、僕はまだ先生に触れていないよ」

 これぞうのこの発言を聞いたみさきは「あなたには触れさせません」ときっぱり答えた。

「これぞう、気持ちは分かるけどあんたがそれを言うと普通にセクハラだから。そういうことがしたいならもっと関係性を深めてからよ」

「そうかい、では先生、僕たちもこれで失礼します。今日はお騒がせしました。姉さんと桂子ちゃんが……」

「これぞう、余計な一言を足さないの」

 こうして五所瓦姉弟も退散していった。

「お姉ちゃん、これから色々と大変だね」

 みすずは笑いながらそう言った。

「本当ね……今日は刺激的な休日だったわ」

 みさきはおかしな奴らが家に押し寄せたことで疲れていた。

 呼んでもないうるさい客が全部帰ってから、みさきはいつもの部屋の静けさを愛しく心地よいものだと思い始めた。

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