第三十七話 激突!桂子とみさき
みさきの住む狭いアパートの一室にこれぞう、みさき、みずす、あかり、桂子の5人が寿司詰め状態になっていた。
桂子の隣にこれぞうが座り、二人の後ろにあかりが座っている。そして三人と向かい合って水野姉妹が並んで座っていた。
桂子は闘志むき出しでみさきに食ってかかったのだが、家に入って5分もしない内に状況は変わってきていた。
「ああ~スベスベ~。みさき、あなたとっても肌が綺麗なのね」と言いながら桂子は両手でみさきの右手を触っている。指先まで細かくチェックしている。
「ああ、こんなに小さな手なのね。それにあなた、顔立ちも良いし、そしてこの髪ね」
そう言うと桂子はみさきの髪を撫でる。
「サラサラね。あ~良いわこの子、あかりあなたもそう思うでしょ」
桂子の後ろに立っていたあかりは「あんたねぇこの子って、先生はあんたよりも年上よ、呼び捨てにするんじゃないわよ」と言い、みさきの隣まで移動して座った。そして「でも確かにサラサラ……ああ、先生やっぱり可愛い」と言いながらあかりもみさきのさらさらヘアーを味わう。
「あの……なにこれ、どういう要件でしたっけ?」と美少女二人に囲まれて困りながらみさきは言った。
「何か用があったのだけど、今はみさきを味わっていたいわ」
「あんたはまた危険発言をするんじゃないわよ」と言いながらあかりもみさきから離れることはしない。
これを見てこれぞうが「二人ばかりずるいじゃないか!僕だって!」とここまで言うと、桂子はこれぞうを振り返る。そして「僕だってなんだっていうのかしら?」と言った。
「え、えっと、僕も髪がサラサラになりたいって想ったって話さ」
咄嗟に話を変えたが、当然これぞうだってみさき先生にお触りしたいと想っていた。
「そうね、話はあなたのことよ体育教師みさき。危うく私まで籠絡されるところでした。この色香でこれぞうをたぶらかしたってわけね。まったくもうけしからない胸をして……」と言いながら実にナチュラルにみさきの胸を揉んでいる桂子であった。結局話が始まらない。
「先生、この子は可愛い女の子を見るとこうしておかしなことになるんです。本当に困りものなんですけど、病気の可哀想な子と想ってしばらく辛抱してください」と言いながらあかりはみさきの二の腕のぷにぷに感を楽しんでいた。
「あの、あかりさん、それはあなたもなの?」とみさきは問う。
「はっ!私としたことが、こら桂子離れなさい。あんたいい加減に捕まるわよ」
正気に戻ったあかりは、桂子をみさきから引き離した。
「ああ、体育教師みさき、恐ろしい子!この私を籠絡するだなんて」
一段階は正気に戻ったものの、それでもまだ乱心中の桂子が言った。
「よし言ってやるわ、みさき!あなたとこれぞうは一体どうゆう関係なの?私はこの子のお姉ちゃんだから丸っと全部知っておく義務があります」
「桂子ちゃんは従姉妹であって姉さんでは……」
「黙りなさいこれぞう。この話数でのあなたのセリフは今のでおしまいよ」
桂子がこう刺したので、実はこの話数でいくつか用意してあったこれぞうのセリフはさっきのを最後にこの先はもうありません。
「五所瓦君は学校の生徒で私は教師、それだけです」
「嘘よ!いい?この子は女子を猿と近しい何かと認識するくらい異性に興味がいかなかった変人よ。そんな状態の者をここまで惹きつけるには、計算高い性悪女特有の策を弄したはずよ。あなたはこれぞうに何かをしたはずよ。ただの関係ではないでしょう?」
「いや、何もしてないと思うのだけど……」
「あかり、あなたは何かを知ってるんじゃなくて?」
ここであかりはため息を一つし、次のように言葉を続ける。「桂子いい?見ての通りこれぞうはみさき先生にベタ惚れてるわ。でも先生は何も策を弄してなんかいないわ。これまでこれぞうがみさき先生以外の女性に興味を示すことがなかったのは本当よ。でもね、同じくこの子が先生を一目見て全身全霊をかけて愛すに相応しい女性だと想ったのも本当のことなの。今までがどうであろうが、一目見ただけでビビッと来てこの人だ!となって恋におちることもあるの。私は恋多き女として定評を集めているわ、そんな私でも人が人を好きになる理由とかきっかけとかは理屈でもって全てを証明することはできないの。だからこれぞうが急にこうなったことにについては、何から何まで説明することができないけど、納得できる点もあるの」
「すると、みさきはこれぞうにとっての運命の相手だと言うの。運命によって、これぞうは私ではなくみさきの下に導かれたというわけなの?」
桂子はうなだれてそう言った。
あかりはそんな桂子の肩に手を置き「それで合ってると思うわ。あんたがこれぞうを好きなのは分かる。でもね、私達のこれぞうが、運命の導く先へと歩いて行く必然性もまた分かるわよね」と言う。
「そんなことは分かりたくない。でもね、私、頭が良いの……」
桂子は全てを理解していた。その上で理解したくないと考えていた。悲しいことだが、優秀な頭脳を持つ彼女にそれは無理な話であった。
「これぞう、あなたが龍王院家に入る準備は出来ていたのよ。でも、あなたが、あなたの運命がみさきを選んだなら、あなたが歩いていく先はもう決まったわね」
「桂子あんた……昔から言ってたこれぞうを婿にもらうっていうあれ、マジだったのね」
「恋する乙女に二言はなし、私は本気だったわ。従姉妹はね、お姉ちゃんにも、お嫁さんにもなれたのよ」
この時、あかりも桂子も目に涙を浮かべていた。
桂子は正座をしてみさきの手を取った。
「みさき、これぞうを頼むわ。私のこれぞうが選んだ女よ。あなたは私達の誇りだわ」
桂子はそう言うと頭を下げた。
次にはあかりも桂子の隣に座り、桂子とみさきの手の上に自分の手を乗せて話しはじめた。
「先生、私からもお願いします。そして早く私の妹になってね。あっ、それと家なら部屋が余っているから、こんなところいつでも出てお嫁にくればいいからね」
二人のお姉ちゃんの言葉を受け、これぞうも目に涙を溜め、正座したままでみさきに向かって深く頭を下げた。
頭を下げた三人を見て、水野姉妹は揃って「何これ?」と想った。しかし二人のテンションはそれぞれ異なるもので、姉のみさきは「お願いしますって何を?」と困っていたが、妹のみすずの方は「なにコレ、すごい面白いことになってる」とワクワクして楽しんで見ていた。
こうして桂子の暴走は終わりを迎えたのであった。




