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第三十六話 いつだってモテるのはジェントルマン

「はぁはぁ、全く私としたことが目的そっちのけであかりと戯れていたとは、不覚を取ったわ」

「確かに、はしゃぎすぎたかもね」

 あかりと桂子は現在公道を駆けている。これぞうの尾行をするつもりが、ゲームセンターでいちゃつくのが楽しくなってきた二人はこれぞうからすっかり目を離してしまった。その間にこれぞうはゲームセンターを出て、行方が知れなくなってしまった。おマヌケな二人のお姉さんはこれぞうと水野姉妹を探索中だったのであった。

「でも、あかり。これぞうもだけど、あなただって十分可愛いわ」

「はいはい、ありがとね」

「ふふっ、海外にもいい女はたんまりといたけど、やはりあかりは上物ね」

「あんたねぇ、私のこと好きなの?嫌いなの?」

「どちらもあてはまるわ。あなたは美しく可愛いくて私の情欲を唆るけど、私が最も欲するこれぞうの一番近くにる権利を勝ち取ったために憎らしくも想っているわ」

「あんたってやっぱり変態ね」

 二人の少女はどちらも体力と肺活量があり、大きなアクションを取りながらも息を整えて会話することが可能であった。クロールで5メートルと息が持たない筆者としては羨ましい限りである。

 二人がとある角を曲がると、お目当てのこれぞうを発見することが出来た。

「いた!どこへいくのかしら。私のこれぞうにあんなにたくさんの荷物を持たせて……」

「あんた失礼なこと言わないでよ。あれはね、姉の私がジェントルマンエチケットとして、女性の荷物はささっと持つようにって教えた結果よ」

「さすがあかり、抜かり無いわね。ジェントルマンってのは結局いつの時代でも女性の気を引く不朽のコンテンツよね」

「桂子だって理解があるじゃない。ジェントルマンに造形の深い私ならではの弟の導き方ってわけよ」

 二人はジェントルマンが大好きだ。

「どこにいくのかしら?」と桂子が言った。

「多分みさき先生の家よ。すごいボロいんだから。あんたの家の倉庫以下よ」とあかりが言った。

 桂子の家はかなりの金持ちなので、離れの倉庫であってもみさきの住むオンボロアパート「メゾン・オロチ」よりも良い作りとなっている。

 二人がしばらく尾行すると、先程話題に上がったボロアパートが姿を現した。

「なによここ。本当にボロね。これでも電気が通った建物だっていうの?」

「桂子、それは言いすぎでしょ」

「だってあかり見てよあれ。あなた、例え愛する彼と結婚しても新婚生活がここでスタートだったら実家に帰っちゃうでしょ?」

「え、う、うん。確かにね」

 奇しくも桂子の問いと同じ内容を、かつてあかりはこれぞうに話したことがあった。(数話前参照) 

「もうだめね。尾行はここまでよ」

 そう言うと桂子は隠れるのを止めてこれぞうに歩み寄る。

「ちょっと桂子、どうする気?」

「そこの女、ちょっと待ちなさい!」

 アパートの階段の第一段目に足をかけようとしているみさきに向けて桂子はそう言い放った。

「はい?私でしょうか?」

 みさきは変な女が来たと想いつつも応対した。

「あ!桂子ちゃん、どこに行ってたんだよ」

 これぞうが桂子に歩みよって来る。桂子はそれを捕まえて離さない。桂子はこれぞうの右腕に自分の両腕を組んでこれぞうが逃げられないようにしている。

「あなた、名前を言いなさい。相手に先に名乗らせるのが私流の自己紹介よ。さあ早く」

「桂子ちゃん、桂子ちゃん流は一般的にはすごい失礼にあたるんだよ。ましてや相手は僕の先生だよ」

「だまりなさいこれぞう、これは私とこの女の問題よ」

 みさきは階段の一段目にかけた片足を降ろし、桂子と向き合った。そして話し始める。

「私は水野みさき、五所瓦君の通う大蛇高校で体育教師をしています」

「体育教師ですって、いやらしい!」

 桂子が体育教師に対して抱く偏見に対して、桂子を除くこの場にいた全員が「え、何が」と想っていた。

「ちょっと、桂子ちゃんお願いだから先生に失礼は……」

「だまりなさいこれぞう、私は同じことを二度言うのは、別に大した手間だとは想っていないわ。ただムカつくから嫌いよ」

「え、それって大らかな人に見せといて結局はせっかちな人ってことでは?」

「もう一度言わせる気?」

 これを受けてこれぞうは黙ることにした。

「私を前にしてよくぞ名乗ったわね体育教師みさき!」

(肩書と合わせた変な呼ばれ方になった)とみさきは面倒臭く想っていた。

「私は龍王院桂子りゅうおういんかつらこ、龍王院財閥の一人娘よ」

「あれ、それって学校の経営にも関わってるとかっていう……」

「あなた、自分の勤める学校のことも知らないの?父も私もあそこの卒業生よ、竜王院グループは莫大な寄付もしていれば経営の方もあれこれと関わっているわ」

「それはどうも」

 みさきはそう返した。

(この女、この私がこれだけの圧をかけているというのに、私から視線を反らさないし、姿勢も真っ直ぐ崩さないわ。心身ともに取り乱した様が見られない。これぞうが気を許すだけあって、やはりタダ者じゃないみたいね)と桂子は思った。

 みさきは五所瓦姉弟と関わる内に変人に慣れてきたようであった。桂子に対してもかなり落ちついて対処出来ていた。

「ここ、アパートの階段だし、よかったら皆さん中でお話しません?」とみさきは切り出した。

(この女!敵の私を自分の本拠地に招き入れようというの!これ以上になく地の利を得ることができるのが本拠地、でもそれだけに万が一崩されることを考ると敵を最も遠ざけたい場所でもあるのが本拠地!この女、かなり肝がすわっている。いいじゃない受けて立つわ)ここまで頭で考えると、桂子は「いいじゃない。そのお招き受けてやるわ!」と返した。

 そして一同は階段を登っていく。この問題に関して、外野であるあかりとみすずの二人は内心では面倒になったと想いつつも、同時に面白い暇つぶしが出来たと考えていた。

 これぞうはというと、桂子に捕まったまま恐る恐る階段を上がっていくのであった。そして「これ、一体どうなるのだろう」とつぶやくのであった。

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