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第三十四話 龍は見た、これぞうの想い

 朝飯を終えて、これぞうと桂子は街へと繰り出した。それから時が過ぎ、昼前になった頃のことである。

 ドンドンとうるさい音を立てて、これぞうの家の階段を上がる者があった。

「あかり!あかり!ちょっとあなた起きなさいよ!早く!」

 額に汗し、すごい剣幕で桂子が言った。

「うるさいわね桂子。ていうか起きてるし、あとノックしなさいよ」

 あかりは普通に机に向かっていつもの作業、つまりは勉強をする体で机に向かい、結果的に例のケツアゴ男の落書きを仕上げることをしていた。

「そんなケツアゴを書いてる場合じゃないわ!女よ、女!あれは一体何?」

「ちょっとあんたが何よ、落ち着きなさいよ」

 あかりの机に置いていたペットボトルのスポーツドリンクを目にすると、桂子はすぐにそれを奪い取って残っている分全てをゴクゴクと飲み干した。

「ぷはぁ~、いや、熱くてね。全く日本の夏は蒸し暑くていけないわ。で、女よ」

「まぁいいから、座りなさいよ。あんた全然落ちついてないじゃない」

「そっそうね、この龍王院桂子りゅうおういんかつらことしたことが柄にもなく取り乱してしまいましたわ」  

「これでもお屋敷のお嬢様ってのがおかしな話ね~」

 汗を拭き、桂子は一旦落ちついた。

「じゃあ、順を追って話すわよ。今朝これぞうと私とでデートに出かけたでしょ。で、お互いが普段はまず足を踏み入れることのない遊技場という所に行こうって話になったの。私達は駅の方にあるゲームセンターって所にいったのよ。そこで私は外国旅行にいけば趣味で結構な回数撃ったことがある拳銃、の形をしたコントローラーのゲームを見つけたのよ。あなたみたいな世間知らずでも知ってるでしょ?『バーチャコップ』みたいなやつよ」

「あんた喧嘩売ってるの?『バーチャコップ』くらい知ってるわよ」

「あらそう。それで私とこれぞうの二人でそのシューティングゲームを遊んだのよ。で、これぞうときたら相変わらずゲームが下手でさっさと死んじゃってね。それから数十分は私一人でず~と死なずにプレイを続けていたの。これぞうは私の横ですごいとか、やばいとか何とか言って見てたんだけどね。気づくと私の側にいないのよ。そして後ろを見ると、なんと!女よ、女!あのこれぞうが二人連れの女と、しかもものすごく気安く口を利いてるのよ!これはどういうことなの!?」

 ここまで来ると桂子は再び乱心モードに入り、あかりの両肩を掴んではゆさゆさと揺らした。

「まぁあの子は知った仲でも知らない仲でも話せばます気安い感じで話すでしょ?道でも聞かれたとか?」

「違う!これぞうのことは私が一番知ってる。あれはそんな感じじゃなかったわ。その、なんと言うか……そうね、二人の内、眼鏡をしている女の方をキラキラした目で見てるの。これぞうがあの女に送る視線ときたら、地上なのに星を見ているようだったわ」

「あ、みさき先生だソレ。ということはもうひとりは話に聞く妹さんって所ね」

 女の名を聞いて桂子の握力が増し、あかりの肩に痛みを伝える。そして激しく揺すりながら「みさきぃい!何、その女は!?」

「ああ、そうか。日本にいなかったあんたは知らないで当然ね……なんと言うかみさき先生はね。う~ん」

「言いなさいあかり!知らないと私は謎に潰されて消えてしまいそうよ!」

「だったら、それでもいいと想うけど……うん、言うわ。みさき先生はこれぞうの初恋相手よ!」

「ガ~ン!」

 桂子はドラマやアニメのショックなシーンで効果音として流れそうなその音を自らの喉で鳴らして見せた。

 桂子の手は震え、あかりの肩に食い込む指の力が無くなった。そして桂子の両手は力なくあかりの肩から胸を伝い、最後にあかりの腿へと着地した。

「あんた、何普通に人の胸や足まで触ってるのよ」

「うごぉ……桂子おねえちゃん……ショック……」

 桂子は消え入りそうな声でそう言った。そのまま動かない。

「桂子、桂子!しっかりしろ!」と言いながら今度はあかりが桂子の肩を揺らす。

「信じられない……女の子のことを少し本が読める猿並にしか意識してなかったあの子が、小さい時から私にあんなに懐いていた私の可愛いこれぞうが……あんなどこの馬の骨とも分からない女に……」

「いやいや、みさき先生はあの子の学校の先生で優秀な人よ。二つ向こうの街ポイズンマムシシティから越して来て今年からこの街で先生をしてるの。はっきりと出所が割れてる骨よ」

「ふふ……そんなことが割れても馬は馬よ……」

「先生は馬よりは牛よね。胸もあるし」

「あかり!あなたフザけてるの!これは由々しき事態よ!私達の可愛いこれぞうが訳の分からない女にかどわかされてるってのに!」

 桂子は息を吹きかえした。

「いや、私達のって……私のではあるけど、あんたは関係ないでしょうが」 

「何を言ってるの!従姉妹であっても私もお姉さんよ。これぞうを守らないと!」

 桂子は立ち上がり、胸の前に右の握りこぶしを持ってきた。決意の現れだ。

「はぁ~、まぁこの展開はあるとは想ったけどね。にしてもバレるのが早かったわね」

 あかりは心底面倒なことになったと想った。

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