第三十二話 龍、ソニックオロチの地に舞い降りる
今回は新キャラがでます。
お盆も過ぎた8月の中旬、その日の昼、ソニックオロチシティの上空に彼女はいた。
「ソニックオロチの上空確認!やっと来たわね、全く空から見てもしっかり田舎な所ね、甲本!降りるわよ!」
その女はソニックオロチシティ上空を舞うヘリコプターの中にいた。
「オッケーお嬢様、ちゃちゃっと飛んで下さい!」
甲本はいつも通りの軽薄な感じのする物言いで合図を出した。
「ではでは、アイ・キャン・フライ!」
そう言うとその女は、フライするでもなく空高くから地上に向かってただただ落ちていく。
そして彼女が目指す落下地点に対して絶妙なタイミングで落下傘が開かれた。
その時、これぞうはもちろん自宅にいた。
「ああ~暑いな~これだけ暑いのに、どうしてこうも夏の青空と雲は僕の心をウキウキとさせるのだろう。夏には夏にしかない色と匂いがある。15年も自然と付き合っていればそんなことも分かって来ちゃうんだなぁ」と、叙情的とも取れ、その一方でアホな独り言とも取れることをほざきながらこれぞうは窓から空を見上げた。
そしてその瞬間、彼の視界が塞がった。
「ふごぅ!!」と言うと彼は畳の上に後ろ向きに倒れた。
これぞうの部屋から「ドシン」と大きな音がしたので、隣の部屋のあかりは驚いて様子を見に来た。
「これぞう!何今の音?」
そこには仰向けに倒れたこれぞう、そしてその上にはフルフェイスヘルメットを被り、軍人が着てそうな暑苦しいジャケットを着た謎の人物がいた。
「ああ!あんたはぁ!」とあかりは謎の闖入者を指差して叫ぶ。
「わぉ!これぞう!私の迎えに出てくれたのね!嬉しい!!」と謎の人物は言う。
これぞうはそれに対して「ふごぉ……ふごぉ……」とのみ答える。彼の顔の上には謎の人物の股間が乗っていたから喋れなかった。
「ちょっと!降りなさいよ!」
そう言うとあかりはこれぞうに跨る人物を押し飛ばした。
その衝撃で謎の人物のヘルメットが取れ、中からはふわっとした黒髪が姿を現した。その美しいロングヘアーがふわっと浮く様は、まるで蝶の羽ばたきのようでもあった。次いで大きな瞳、やや高い鼻、ぷるんとした唇が見えた。中々整った顔立ちの女だ。目にかかった髪を片手で後ろに払い、その女は口を開く。
「ふふっ、ご挨拶ねあかり」
「あんたねぇ、どこから入って来てんのよ」
二人は睨み合う。
そしてやっとこれぞうは起き上がる。鼻が赤くなっていた。
「ややっ!桂子ちゃんじゃないか!姉さんの言葉を真似るけど、一体どこから入ってきてるんだ、ここは二階だよ」
「ああん、これぞう!会いたかった」
これぞうの問いかけは無視して桂子と呼ばれる少女はこれぞうに抱きつく。
「ああ~ちょっとちょっと、桂子ちゃん!再会の抱擁もいいけど、それそれ!窓からスゴイ出てるパラシュート片付けてよ。外からどんな風に見えてると想う?」
「これぞうったら照れてる!」
「あたり前じゃないか、自分を一体いくつのお姉さんだと想ってるんだよ。従兄弟といっても男に抱きつくと色々あるとか考えないのかい」
「まぁ色々考えても、結果的には私がしたいと想ったことをやるのみよ。それで抱きつきたいと想ったからそうしたの」
「桂子ちゃんってば、本当に我が道しか歩かないんだから、他所の道も散策した方が良いよ」
「これぞうは相変わらず理知的なことを言う文学青年ね。そういう所が好きよ」
そう言うと桂子はこれぞうの右頬にキスをした。
「おい桂子、これぞうから離れなさい!というか、出ていきなさい」
やや怒り気味であかりは言う。
「ふふ、ブラコンあかりがヤキモチ焼いてる」
お忘れだろうか。あかりと桂子、二人はかつてラムネの早飲み競争で引き分けた仲である。つまり円満な仲ではない。
「まぁまぁ姉さん、久しぶりに幼馴染三人が揃い踏みなんだ、そう怒るものじゃない」と言いながらこれぞうは姉を抑える。
「本当に信じられない。空から来る奴がある?」
「本当だよね。バカと煙と桂子ちゃんときたら揃って高い所が好きなんだから」
「えっへん、空は私の領域よ」
腕組みをして桂子は答える。
この桂子は五所瓦姉弟の従姉妹である。本名は龍王院桂子。あかりとは同じ歳で一緒に高校に通っていた。卒業後は何をしにかは良く知らないが、アメリカに留学した。そしてこの度、十分な学習を終えたと言って日本に帰ってきた。と言っても本当の理由は飽きた、というものだったが、そこは体裁を保つための方便ということでご理解頂きたい。ちなみに実家は引くほど金持ちである。
「というわけで今日泊まるから」
屋根にかかったパラシュートを部屋の中に引っ張りながら桂子が言った。
「あっ、これぞうと寝るから」と付け加えた。
「やれやれ、お盆が終わって次のイベントがやって来たね姉さん」
姉の顔を覗き込んでこれぞうは言った。
「ええ、日本がまたうるさくなるわね」
腕組みしながら呆れた顔で姉は答えた。




