第三十一話 夏はガリガリ君をガリガリいくに限る
これぞうの姉あかりが、家にいながらリンゴ飴を食べたいと思いつき、みさきを出汁に使ってこれぞうが祭りに行くように水を向けたところ、これぞうは大人しく祭りに行くこととなった。そしてめでたくみさき先生と会うことが出来、おまけに盗人を捕まえる手柄も立てて帰ってきた。これは忘れっぽい奴でもそうそう忘れることが出来ないメモリアルな夏となった。
祭りから家に帰ってきたこれぞうは、祭りで起こったことをあれこれと姉に報告した。
あかりはリンゴ飴を舐めながら「ね?だからお姉ちゃんの言った通りに行ってよかったでしょ。私があんたに何かを勧めて悪い結果だったことなんかこれまでになかったじゃない」と言い、これ幸いに威張ることで、弟にとっての自分の地位を更に高めることに成功した。
「それから姉さん、ふふっ…あのね、姉さん」
「何よ気持ち悪いわね。笑ってないで早く言いなさい」
「あのね、去年に姉さんと桂子ちゃんが夏祭りで喧嘩騒ぎを起こしたあのラムネ飲み大会ね、ぷぷっ、姉さん達が騒ぎを起こしたせいで永年中止になったらしいよ。今年からは祭りのプログラムから消えたのさ」
「ちっ、そんなこともあったわね。アレは完全に私の勝ちだったわ。VTR判定があればねぇ」
「あんな場末で行われる規模の狭いお祭りにVTR判定なんて無理を言っちゃいけないよ」
あかりと桂子、この二名が騒ぎを起こしたことによって、それまで25年の歴史を持っていたお祭り恒例のラムネ早飲み競争は永久にこの街から消え去ったのであった。そして初めて物語に名前が登場した桂子というのは、五所瓦姉弟の従兄弟にあたる人物である。
そして楽しかった夏祭りから数日が経ち、街では盗人を捕まえたお手柄師弟コンビとしてこれぞうとみさきは有名人になったのである。中でもみさきは華麗なる一本背負投で盗人に止めをさしたことから大変な話題を集めた。みさきが目立ちすぎて、これぞうなどはおまけ扱いだった。何せ彼がやったことは水鉄砲で盗人の股間をひたすら撃ちまくったという、聞くと下品な仕事だったからである。街のちびっ子達は、親しみとちょっとの揶揄をこめてこれぞうのことを「チ○コスナイパー」と呼んでいた。
地方新聞ではあるが、みさきのことは大きな記事に取り上げられ、そのタイトルは「美人教師、夏祭りで盗人を背負投げ~~~!!!」であった。どこかのカリスマ女装家の決めセリフ兼ギャグを臭わす一風変わったタイトルであった。
そんな訳で8月に入ったくらいにみさきを取材するために学校にテレビが入ったことがあった。
これぞうもインタビュー対象となったのだが、かくかくじかじかなワケでコイツをテレビで喋らすとマズイと教師陣の総意でもって決まったので、これぞうを除外してのインタビューとなった。これぞうはこの日は登校日でもないのにもちろん学校に駆けつけ、閉まっている校門の前でぴょんぴょんしていた。みさき先生に会いたいのはいつものことだが、取材陣の中には今一番キテいる女性アナウンサーの内田アナもいたので、それも目的として学校に駆けつけた。多くの芸能人に興味を示さないこれぞうが珍しく好いた芸能人、それが内田未依愛であった。
「姉さん!内田アナに会いたかったよ!この街にいて内田アナに会えるとしたら泥棒を捕まえるか、泥棒になって捕まるかくらいしかチャンスがなかったのに。その前者の方をクリアしたのに学校に行ったら追い返されたよ」
「まぁまぁ、アンタにはみさき先生がいるでしょ」
「へっ、えへっへ、そうだったね」
これぞうは気持ち悪い照れ笑いを返した。
「それと姉さん、手紙が来てたけど、そろそろ桂子ちゃんが帰ってくるというじゃないか。こうなると日本が騒がしくなるね」
「へえ~あいつ帰ってくるの」
外では淑女然と振る舞うことを常としてるあかりが、この世で唯一「あいつ」呼ばわりする人物が桂子であった。
「はぁ……夏休みが長いねぇ……学校が始まれば毎日みさき先生に会えるのにね」
「あんたも変わったわよね。去年までは二学期が来るのを本当に嫌がってたのに」
「ふふっ、何も二学期だっていつまでも僕の忌むべき敵というわけじゃないさ、去年の敵だが今年は僕の味方になってくれたよ」
「あんたって本当に人生楽しそうね」
「そうでなきゃ人生でないと僕に教えたのは、他でもない姉さんだったじゃないか」
「ああそうだったわね。でもあれは先にお祖父ちゃんから教えられたのよ」
「全く、ためになることしか言わないお祖父さんだったなぁ。あのお祖父さんもお盆になればここに帰ってくるね」
「さぁどうだか、あの世の方が居心地が良くて帰省しないんじゃない?」
「お祖父さんならそれはありえるな~」
そんな話をしながら仲の良い姉弟は自宅の居間でガリガリ君を齧っていた。それはガリガリとね。夏はこれに限る。




