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第二十四話 こんなご時世だからこそレトロゲームをやるのじゃ

(ああ、食べ物に釣られて男子生徒を家にあげてしまった……これって世間的にどうなのだろう。私としたことが、もしかしたらかなりのうっかりをやってしまったのでは……そしてうっかりといえばもう一つあった)

「あっ、お姉ちゃんおはよう。これぞう君も」

「やあやあ、みすずちゃんじゃないか、これは遅めのお目覚めだね。もう太陽はとっくに出てしまってるよ」

(みすずが泊まりに来ているのを忘れていた!)

 みさきは教師である前に腹減る乙女である。好物のオロチ饅頭を目前にすれば思考が麻痺することもある。

「みすず、パジャマで出てきちゃって、着替えてきたら」

「だって着替えるってここワンルームじゃない?お風呂まで行くの?」

 みすずは男子にパジャマ姿を見られることには特に抵抗がなかった。

 これぞうはニコニコして「可愛いパジャだね」と言った。

「やっぱり?気に入ってるの」そう言うとみすずはパジャマの裾をピッと張ってパジャマの柄がよく見えるようにした。

「みすず!」みさきはこれぞうとみすずの間に割って入った。

 そして小さい声で「あんた、下、透けてる。ブラつけてないのにそんなことしたら形が浮くでしょうが」と妹に注意した。

「あはっ、そうだったね。うっかりでした」みすずはそう言うと風呂場に行って普段着に着替えた。


 そして三人は机を囲んで饅頭を食べた。

「いや~おいしいなぁ。僕は生まれてからずっとこの地にいてこれをよく食べているけど全く飽きないなぁ。一日8個はいけるなぁ」土産に持ってきておいて10個中3個をこれぞうが食べた。

「それにこれ、先生が真心を込めて注いでくれたコーヒー。実においしいなぁ。豆本来の味わいも申し分ないが、プラスアルファでおいしくなる要素が入っていますよ」

 優雅に食レポをかますこれぞうに対して「そんなもの入ってません」とみさきは返した。

「お姉ちゃんとこれぞう君って家に来ちゃうくらいに仲が進んでるの?」とみすずは言う。

「うん、まさに今日そのステージに進んだんだよ。部屋に上がったのは初だからね」コーヒーをごくごくやりながらこれぞうは言う。彼は出された物の熱い冷たいを問わず、飲み食いをするペースがいつだって速い。

「ここが先生の部屋、いや~、いいなぁ~」これぞうは幸せ一杯にそう言う。

 みすずは姉の脇腹を小突いて「お姉ちゃん、すごい愛されてる~」と冷やかす。

 みさきは、こんなことが実家の父に知れたらどんなに穏やかでない反応をするだろうかと考えていた。

「それにしても、姉妹揃って和菓子がいける口なんですね。最近は小豆が駄目と言う舌がお子ちゃまな若者がいたりすると聞いたので持ってきて大丈夫なものかと心配していたんですよ」

「大丈夫よ。お姉ちゃんなんて学校の帰りにたい焼きばっかり食べてたし、私はスーパーで500グラムのこし餡を買ってスプーンを突っ込んで食べちゃうくらいに餡こが好きだから」

「それはそれは良い心がけだ」

(みすずって変人の相手に慣れてるから五所瓦君を相手取っても普通に応対できちゃうのよね。侮れない妹ね)とみさきは想った。

 みさきは饅頭を食べ終わって口を開いた。「で、あなたの相談ってのは何?」

「ああ。これなんですよ」そう言うとこれぞうは持ってきた紙袋からある物を取り出す。

「これです。これの相手を探していたんです」

「なっ!これは!ニューファミコン!」みさきはその名を叫んだ。

「そうそう、出力方法が初代のと違うタイプのやつです。こっちの方がテレビに綺麗に映るって姉さんが言ってたな。相談ってのはこれらのソフトを遊びたいのですが、全て二人でプレイしてこそ面白いソフトなんです。そこへ来て僕はどこまでも行っても一人、そういう訳で先生に相手をしてほしかったんですよね。あっ、姉さんは友人とどこかに行くっていうから無理でした」

「ニューファミコン!プレイステーションも遂に4代目が出たっていうこのご時世にニューファミコン!」みさきはやや興奮気味であった。

「これは僕の父がダイエーが無くなる時の最終セールで安くゲットしたものなんですよ。後に僕がもらって遊んでいるんです」

 これぞうが広げたソフトは「マクダフブラザーズ」「アイヌクライマー」「ボヨーンファイト」「バトルトカゲ」「トテリソ」「パンピーキッズ」であった。 

「これはまた、懐かしいものばかりだわ……」とみさきは言った。そして次には(ヤバイ、やりたい)と想った。みさきは今でこそやる機会がなくなったが、その昔は地元の場末の駄菓子屋に行って古い筐体ゲーム機で遊んでいた。そしてクラスの男子の家に行って多くのテレビゲームもプレイしていた。これらのソフトは全て知っていた。

「どうです先生、僕と一番。僕は読書ばかりやってる男ではないのですよ。楽しいことならだいたいやるのが僕です。だったらこんなに楽しいテレビゲームをやらずにおくわけはないじゃないですか。ぼくはその昔には『ハイウェイランナー』を朝から晩まで遊んでいたのですから」

「ハイウェイランナー、あの穴を掘って金塊を集めるやつね。懐かしい」

(ふふっ、まさか先生がニューファミコンにここまで食らいつくとは、実はツインファミコンを持ってこようと想ったのだが、姉さんが『ディスクシステムまでつけるとマニアックで女子は引いちゃうかもしれないわ。女子にはこのスマートなニューファミコンよ!』と言ったのを素直に聞いて良かった。やはり姉さんは頼りになる。一度コントローラーを握ればこちらのものよ。先生との楽しい時間は決して短くはならない)

 ゲームを持ち込んだのはあかりのアイデアだった。彼女が言うには女子は本質的にゲームが好きなもの、ということであった。よく分からないが女子である彼女が言うのだから大間違いでもないのだと想う。

 そしてみすずはというと、ニューファミコンを見て「え、これってドリームキャストじゃないの?」といかにも素人な発言をしていた。 

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