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第百七十九話 現代に広まる高度な趣向

 次の日の学校のことである。これぞうと久松は朝のホームルームを待つ間雑談していた。


「なぁ、最近聞いた話なんだけど、ブラック校則ってのがあるんだってさ」

「へぇ~、まぁそもそもの話、学校なんて組織は何かしら黒々しいもの孕んでいるってのが常じゃないか」これぞうは偏見を交えて学校がどういう場かを説いた。

「はは……そういやお前は元々学校アンチの出だったっけ」

「で、そのブラック校則ってのは一体何なんだい?」

 これぞうはブラック校則に興味を持ち始めた。

「うん。それってのが、生徒が聞けば一発で理不尽とされるようなものなんだってさ」

「へ~、そんなのがあるのか。我が校にもあるのかしらん」

「さぁな。そういや生徒手帳なんて見たことがないからな。知らないだけで探せばおかしな校則の一つや二つ出てくるかもな」

「で、例えばどんなのがブラック校則なんだい?」

「うん。俺が覚えてるのに女子のポニテ禁止ってのがあるんだ」

「へえ?ポニテ?」と言うとこれぞうはクラス全体を見渡す。今は夏で暑いこともあり、ポニテにしている女子生徒は普通にいた。

「教室をぐるりと見れば数人いるじゃないか。この学校ではOKみたいだね。しかし、何でまたポニテが禁止なんだい?まさかそこの校長がその昔馬に蹴られ、それ以来馬の尻尾を想起させるポニテまで怖くなったとか言うじゃないだろうな?」想像力豊かな彼は一瞬でそんなストーリーを作った。

「はは、五所瓦的な発想だな。でも、それじゃないね。理由は別にある」

「ほほぅ、この僕の推理をかいくぐって存在する真の理由とは何なのか。実に興味深い。言いたまえよ」

「それがな、ポニテにするとさ、ほら、ここの部分が丸見えになるじゃないか?」久松は後ろ頭をこれぞうに見せると、うなじを指差して言った。

「うん。そうだね。髪を後ろで結んだなら、当然うなじが露わになるね」

「そこなんだな。俺には分からないんだけど、このうなじって部分は、その手の人間にとってはどうしようもなく興奮を覚えるものらしい」

「はぁ?どうしようもない興奮?何が?」

「だからな、普段隠れてるここが、ポニテにすると露わになる。つまりはそれってチラリズムってやつに繋がるんじゃないかな。普段見えない部分が、条件を加えると剥き出しになる。そこに性的興奮を感じるって人間が少なくない数いるんだよこの現代にはさぁ」久松は丁寧に説明する。

「なるほど、何だか理が通っているね。趣味は、この場合なら性的趣向は人様々。見る人によると、うなじを晒しているってのは、例えばパンツとか胸を丸出しにして道を歩く行為に等しいとまで言えるって訳だ」

「そうなんだよ。価値観は多様化しているからな。その内にはうなじだけでなく、例えばシャツの袖やスカートの丈から覗く肌の部分全てに対しても、それが性的興奮を煽るものとされるようになるかもしれない。そうすると、人類は皆全身タイツで歩き回るようになるかもしれないぜ」

「はは、君だって想像力豊かじゃないか。ああして短い丈のスカートを履く女子生徒が、あと何年かしたら全く肌の見えない格好になるなんて信じられないなぁ。夏なんか死んじゃうよ」


「あんた達、なんて話してるのよ。品がないわね」話が聞こえてたのでひよりがツッコミを入れた。

「やぁおはよう六平さん。君なんかはそもそも後ろ髪がうなじに足りてないじゃないか。久松君が言ったような殊勝な趣味の者がいたら、君なんかは格好の餌食だよ。はっは~」

「それのどこが殊勝な趣味なのよ。でも、これぞうはうなじを見てムラムラするの?」ひよりはくるっと後ろを向いてうなじを見せた。

「いいや、僕にはそういうことは起こらないよ。無論、君の良さはうなじ以外でたくさん見られるけどね」

 自分のうなじには魅力がない。それにどこかがっかりしたような気もするひよりだが、褒められたことには素直に嬉しかった。

「もう、これぞうったら嬉しいことを言ってくれるよね」ひよりは照れ混じりにこれぞうの背中をバンバンと二回打った。

「うげぇ。スキンシップがパワフルすぎるんだよ君は」ひよりのスキンシップはこれぞうにはきつかった。


 ここでみさきが教室に入って来た。ホームルームの始まりだ。

 教壇に立って喋るみさきの髪型はポニーテールだった。みさきが黒板に何かを書いたり、プリントを配るなどの行動を取れば、髪を結んだ先がゆらゆらと揺れる。そうするとみさきのうなじが見え隠れする。

 久松があんなことを言ったものだから、これぞうはやけにうなじを気にしてしまう。そうしてみさきのうなじをじっと見ていると、これはこれで良いものだと思えてきた。これぞうは何だか変な気分にもなりながら、うっとりとみさきを見つめるのであった。


 暑い夏の日にポニテールを揺らすみさきの元気な姿を見て、彼は唐突に想った。

「海、行きたいなぁ……」

 今のように元気にポニテールを振るみさきの姿は海岸でこそ映える。これぞうはそう確信した。みさきと海に行けたらきっと楽しい。きっと良い。

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