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第百七十一話 外野たちの宴 

 あんなことがあっても、当然これぞうとみさきはそれまで通り学校で顔を合わせる。互いが、互いの認識を改めたことで、それ以降どう接すれば良いか分からないでいた。でも互いに不自然性を出したくはない。だから二人は当たり障りなく挨拶し、会話し、互いの間に橋をかけるでもなければ溝を生むこともしない。周りからすれば普通のことを行っているように見える。だが、この状況にある当人達がこれを行うことは、ある意味で高度なコミュニケーションを実践しているとも言える。

 そんな普通のようで、その実ぎこちない二人の関係を、二人のことを良く知る友人達は見ていられないでいた。


「ああ~私、かなりダメなことしちゃったかなぁ~」両手で顔を抑えてひよりが言う。

「ああ、でも六平ろくだいらには六平が優先しないと行けない感情がある。それの非難は誰にも出来ないよ」

「久松!あんた良い事言うわね。うんうん、確かに、私は水野先生にあれを言わずにはいられなかった。これぞうに泣いてもらうことになっても、やはりわが道を行くことしかできないもの」

「ひよりちゃん、大分逞しいよね」と松野が言う。

 ひより、松野、久松の三人は屋上にいる。近頃普通なようでちゃんとおかしいことになっているこれぞうとみさきの関係を心配し、昼休みに三人だけで集まって会議を行っていた。ここ一ヶ月の間に何があったのかは、三人とも良く知っている。


「しかしあの五所瓦が大人しいのは気持ち悪い」両手を組んで久松が言う。

「一年の時から、あの二人のあれこれは俺の意志に関係なく見てきたことだからな。あんな感じのあいつを見ていると複雑だ」

 久松は友人想いである。

「これぞうも一途よね。それをいつまでもキープする水野先生ってやっぱり良くないわ」とひよりが言った。

「でも、先生だからね。好きだ嫌いだって、どっちでも言えないよ」と松野は返す。

「まぁこうして外野三人があの二人がちょっと変って気づいたことの確認が出来ただけでも良かったけどさぁ。にしても、当人達で何とも動かないところを俺たちが心配してもどうにもならんなぁ」

「ちょっと久松。私はまだ外野に回ったと認めてはいないわよ」

「六平も物好きだよな。五所瓦これぞうなんかを気に入るとは」久松は何故かフルネームで言った。


「時が解決するのを待つしかないかぁ~」空を見上げながら久松が言う。カラスが飛んでいるのが見えた。

「うん。はやくその時が来るといいね」

「こういう時に早送りが出来たらねぇ」とひよりが言う。

「止せよ。貴重な青春を早送りで飛ばすなんてことが出来るかってんだ。てか早送りって何か久しぶりに聞いたぞ」

「そうね、DVDとかだったらスキップって言うよね」と松野が言う。

「私はギリギリVHS世代だからね」ひよりは両手を腰に当てて言う。

「まったく何の話してんだかな~」脱力して久松が言う。


「あ、てか久松。その購買のパン美味しそうね。ちょっと分けてよ」

「はぁ?がめつい女だなぁ。これで文学少女なんて名乗るんだから平成も末ってわけだ」

「何言ってんのよ。本を読むのってカロリーを持っていかれるのよ。食べなきゃ活字を相手取れないわ」と言って久松が分けてくれたパンを手にするとひよりはそれにがっつく。

「ふふ、ひよりちゃん面白いよね。本好きって変わり者が多いのかな?」

「まぁ良く分かんないけど、そもそも変わってる人じゃないと本を書こうとか想わないんじゃない?だったらそれを読みたがる人も……って松野さん、これぞうならともかく私まで変人扱いなの?」

「いやいや、お前も絶対変わってるって、常識人のものさしを持つ俺が測れないでいるんだから、それで決定だよ」

「失礼な久松ね。でも、パンはありがとう。美味しいわコレ」

 

 ゲームを動かす肝心な役割は投手と打者間で行われる。外野はあくまでも外野。球が飛んでこないと仕事はないのである。

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