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第百六十一話 到来、修羅場な午後

 時刻は昼過ぎ。これぞうとひよりは図書館の外のベンチに座っていた。

 それを物陰から見ていた人物が二人。

「はわわぁ……真昼の情事見たり……これぞうに新たな女の影が!いいえ、影どころかしっかり実態が見えるわ!これはどうしましょう!」

「ちょっと、うるさいわよ桂子!」

 図書館敷地内にある大きな木の陰に隠れていたのは、これぞうの姉あかりと従姉妹の桂子。二人は木に身を隠し、顔だけを覗かせてこれぞうを覗き見していた。あかりは屈み、桂子は立っている。これぞうのベンチから見れば、木の横に人の顔が縦に二つ並んで見える。

「ああ……暇だからあかりを訪ねると、私よりもっと暇な女あかりが、暇だから弟のお出かけの後をつけようと言う。そして後をつけてくれば、こうして暇から脱却できるとんでもスクープを拝むことが出来たわ。しかし、これはこれで困るわ。みさきという者がありながら、これぞうが休日の午後に他の女と会ってるなんて……」と桂子は事の経緯を説明してくれた。

「しかし、あのこれぞうを相手にああして普通に喋ってる女の方も物好きねぇ……」弟は変人、それを一番知る姉が言った。

「さすがに話の内容までは聞こえないわね。でも楽しそうに喋ってるのは見て分かるわ……ん、くんくん……」桂子はくんくんし始めた。

「ああ~いい匂い。あかりの髪はやはり良い匂いがするわね。私の送った高級なシャンプーを使っているみたいね」

「え?あれね、私よりもお母さんが気に入ってるわ。て、ちょっと、鼻を近づけるな」

 桂子とあかりはよく言い争いをする仲だが、こんな感じで仲良しだ。

「おい桂子!あんたやっぱりユリっ気があるわね。隠れてるのに、こっちでハッスルしてどうするのよ!」

「ええ?私はハッスルなんて庶民の隠語なんか知らないわ。さて、一体どんなことを意味する言葉なのかしら」と言うと桂子は後ろからあかりの腹に両手を回して密着する。あかりの、いや美少女の美少女たる所以である豊満な肉質をその身で感じているようだ。美少女ってのは顔だけではない。その身もまた美なるものであった。

「ちょっと、もう、くすぐったいっばぁ」あかりの体は全体的に敏感であった。

「ふふ、よいではないか~。こういう時、庶民はこれを言うのよね?」

 二人は楽しそうだ。

 犬の散歩をしている中年男、杖をついて散歩しているおじいさんは、木に隠れて楽しいことをしている女子二人を見て頬を赤らめるのであった。美少女二人が仲良くいちゃついている光景は、多くの人にとって目の保養になるし、男性からすれば男性の男性たる部分を刺激するものであった。


「二人共、そんな木の傍で何してんのさ?蟬取りしようってんなら時期が早すぎるよ。ヤツらはまだ土の中さ」とこれぞうが言った。今はまだ4月である。

「あ!」と言うと、美少女二人は二人してこれぞうを見上げた。

「二人しておでかけかい?本当に仲が良いなぁ」 

「これぞう!あなたこそ、女と二人してお出かけとはどういうつもり?みさきを諦めたと言うなら、桂子お姉ちゃんと遊びなさい」

「え?何をいってんのさ桂子ちゃんは……」


「これぞう~」

 これぞうがベンチを離れたのでひよりもこちらにやって来た。

「げ!ちょっとこれぞう、誰よこの女達?」ひよりは失礼にも「この女達」とか言ってる。

「は!まさか、これぞうの好きな人……このどっちかがそうなの?」

「え、いやちょっと待ってよ六平ろくだいらさん」

 ここで桂子が黙るのを止めた。「いかにも!私はこれぞうに想われる女達の片割れよ。あなたこそ、私のこれぞうの一体何だって言うの?返答の時間をあげるからちゃちゃっと言ってみなさい。さぁどうぞ子猫ちゃん」

「むっ、私はこれぞうの同志……魂を共有した女。六平ひよりよ」

「なっ、じゃああなたがあの六のきみ!」あかりが驚いて言った。これぞうは図書館に現れる六の君の話を姉にしていたが、後に出会ったというその続きは喋っていなかった。

「え、何でそれを?」と六の君。

「これぞうから聞いたもの」あかりは当然のように答える。何せこの姉弟は何でも話し合う。

「これぞう、私のことをよその女にペラペラ喋るとか、ちょっと違うと想うの」ひよりはこれぞうを睨む。

「え、あ、ごめんよ。君の存在があまりにも不思議だったからさ、つい人にも話してしまったよ」

「ふふ、所詮あなたは、これぞうがあなた以外の女と合う時に噂されるよその女なのよ。この意味お分かり?」桂子は勝ち誇った意地悪な笑みを浮かべて言う。

「これぞう……これぞうって随分気が多いのね。私、これぞうのこと何か勘違いしていたみたい……」彼女はこれぞうのことを勘違いしているという間違いを起こしている。

「ええ?ちょっと、なにこれ、どう収集するんだよ」これぞうは修羅場にあたふたするのみである。彼は頭が切れる人間ではあるが、こういった事態の処理は不得手であった。

「六平さん、君こそ勘違いしている。僕らは先程、互いの喜びを分かち合ったばかりじゃないか。仲違いはよそう」

 これぞうに弱者の勘が働いた。ひよりを不快にさせて怒らせると武力をもってして復讐される気がしたので、とりあえずなだめることにした。彼女が本気になれば自分は勝てない。

「なによこれぞう、私よりもそんな女のご機嫌取りをしようって言うの?魂どころか、体まで触れ合う仲の私を置いてそんな女をかまうなんて」桂子の言う触れ合いは、深い意味なく本当に言葉通りの触れ合いということであった。

「これぞう!この高慢な女と関係を持っているって言うの?信じられない。けがれた似非えせ文学青年よ!」と言うと遂にひよりの強力な突きがこれぞうに飛んできた。腹に一撃食らった彼は地面にひっくり返って綺麗な大空を見ることになる。

「バカぞう!」ひよりの口にしたそれは、「バカ」と「これぞう」の二つのワード合体させて縮めたものであった。言い終えるとひよりは反転して走り出した。

 この場を去るために走ったひよりは、角を曲がった所で柔らかい物に打つかった。走って打つかったにも拘らず、ひよりは柔らかいそれに競り負けて尻もちを着いた。

「六体さん!大丈夫?」

「あ、水野先生!」

 みさきは倒れたひよりに手を差し伸べる。彼女が打つかった柔らかき物の正体は、みさきの体で最も柔らかいあの部位であった。

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