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第百五十話 袖振り合えばスイーツの縁

「はぁ~甘辛く煮た牛肉に舌鼓を打ったとなると、次には思い切り甘いスイーツでも行きたいね。どうだい松野さん、これでもまだ腹と時間が空いてるなら、次は甘味処にでも行かないか?もちろんご馳走するよ」

「次も100円だけ払うでいい?」

「はは、その100円だっていらないさ。まぁ君が払うっていうなら止めやしないけどね」

 そんな訳で牛丼を食い終わった二人は、次にはそこからそう遠くない甘味処へ移った。

 過ごしたことがある人ならきっと分かると思うが、青春ってのは腹が減る。青春真っ只中の二人は腹減る若者であった。


 そんな訳で二人は甘味処に入った。

「いやーこの店に来るのも久しぶり。うーん、抹茶パフェかクリームあんみつか……それともケーキでもいいなぁ。どうしようか?」

「ふふっ、五所瓦君ったら食いしん坊なのね」

「うん。元々食べる量が少ない方ではないのだが、ここ最近また食欲が増してね、どういうことかしらん?」

「五所瓦君ちょっと背が高くなったじゃない?成長期なのよきっと。体が大きくなる分、栄養を欲してるんじゃない?」

「と言っても、これから食べようとしてるスイーツってのはエンプティーフードなんて呼ばれ方もする代物だ。栄養的なことを言うと、成分が心許ないね」

「ちょっとちょっと、スイーツの店に入ってそれを言わないの」

「ははっ、成分が何だろうが、舌が美味しいと判断すれば何でも良しだね。僕は栄養士でもないし、うるさいことは無しだね」

 そんな談笑の末、これぞうは抹茶パフェを、松野は白玉ぜんざいを頼んだ。


「松野さん、君はまた和風なものを行くんだね」

「五所瓦君は牛丼大盛りの後にしてはボリューミーなのに行くのね」

「はっは、ボリュームってのは、あって困るもんじゃないからね」

 いつもながらの適当をこいて、これぞうはご機嫌にパフェを飲み下す。

「そういえばそれ、いつか二人で食べに来たよね?」

 松野の不意な問いかけにこれぞうは記憶を巡らす。

「ああ、これは……僕としたことが、忘れていたわけではないのだけどスイーツのことで頭が一杯で……もしかして、この店に入るの、君には気分が悪いことだったかな?」

 この甘味処は、遡ること100話以上前にこれぞうが松野の愛の告白を断った場所であった。その際、二人は抹茶パフェを食べたのであった。

「ううん、いいの。またこれて嬉しいよ。五所瓦君、優しいよね。でも、スイーツのことで頭が一杯でって、そこはちょっとデリカシーに欠けるかな~」

「ああ、これはお恥ずかしい……しかし、こいつは美味い」

「ねぇ、転校してからも、こうして一緒にお茶するするような女の子がいたりしたの?」

「ええ?ああ、パフェとかタピオカドリンクを味わうお供として引っ張られたことはあるよ。みさき先生の妹さんにね」

「先生の妹さん?そう言えば会ったことはないわね。どう、可愛い?」

「うん、可愛い人だよ。先生とはちょっと性格が違っているけどね」

「ねぇ、大丈夫よね。妹さんに心代わりとかは……?」

「もう、松野さんまで。僕が浮気心を抱くものか。あくまで先生一途さ」

「五所瓦君、まだ水野先生一筋なんだね」

「はは、まぁね」

「じゃあ、今の私達のコレ。一般的にはデートに見えると思うけど、もし水野先生が見たらどう思うかな?」

「ええ、松野さんと僕が?また君は何を……」

 松野は笑みを浮かべると、窓ガラスの向こうを指差した。

「え?」

 これぞうが何かと想って松野の指差す方に目をやるとそこにはこちらを見る人物がいた。

「み、みさき先生!」

 なんと買い物帰りに偶然通りかかったみさきがこっちを見ていた。みさきは笑顔でお辞儀をすると横断歩道を渡って去って行く。

「あ、ああ!これは、どうしようか!何か誤解を!」これぞうは慌てた末に席を立ってみさきを追おうとした。

 これぞうが机の傍を駆けた時、松野は座席から手を伸ばしてこれぞうの右手首を掴んだ。これぞうの動きが止まった。

「待って。誘っておいて女の子を置いて行こうって言うの?それがジェントルマンに教育された男がすること?」

「え?」

 この時の松野は何だかいつもと調子が違った。圧があった。

「確かに……君を置いて行くのは失礼だ。しかし……」

「まぁ落ち着いて、水野先生はそんなに愚かなの?五所瓦君のまっすぐな気持ちを一番知ってるのは先生じゃない。私とお茶したのを見たくらいで、五所瓦君の気持ちが丸っきり変わったなんて即断する人だと思う?」

「いや、僕は、僕の気持ちが彼女に届いていることだけは信じている。君の言う通りだ」

「そうそう、水野先生は気にしないわ。今度会ったら、久しぶりに友人と会って思い出話に花が咲いたとか言っておけばいいじゃない」

「それもそうだ……取り乱してすまない」

 これぞうは再び席についた。

「ああ、パフェのアイスが溶けるじゃないか。もし店を出ていたら大損だったなぁ」

「ふふ、相変わらずな人ね」

「いや、でも君は、なんと言うか、そんなに大きく構えてものを言うとは、何だか意外な成長をしたようだね」

「女の子は成長が速いわよ。意外とね」

 これぞうは改めて松野を見た。

「そういえば君、髪を随分短くカットしたんだね?」

 これぞうは今更それに気づいた。

「ええ、走る時に邪魔だからね」

 よし、髪型の変化に気づいた。これに気づくのは男としてポイントが高いと姉さんが言っていたぞ。と想ったこれぞうは、まだ変化した点がないかと探してみた。

「それに、絶対に背も伸びたよ。それにあとはね……」

 これぞうの目はついついおっぱいに止まった。松野は完全にそれに気づいた。

「あ、あの……他のね、見えない所もしっかり成長したと思うよ」

「五所瓦君……確かにそこも成長したけど、それは気づいても言わない方がいいと思うの。だっていやらしい」

「アウチ!また失敗した。ごめん、今の無し!」

 女性から食らう「いやらしい」のワードは彼の心をえぐるのであった。そこに目が行くのは男の本能がそうさせたからであるが、それが外に出たのは間違いなく自分の落ち度。これぞうは今一度自分の不出来を恥じた。

 そうして反省し、煩悩に苦しむこれぞいの姿を見て松野は微笑むのであった。

 そんな感じで松野との楽しい牛丼&スイーツデートは終わった。

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