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第百四十二話 画面越しのあけましておめでとう

「いやーすっかり明けましたね、新年。そんな新年、ここ毒蝮港では、マグロの初競りが行われています。新年には、皆がこたつに入って蜜柑やお餅を食べてまったりしているわけではありません。御覧ください。天気は良けれどもこの寒空の下、港にはマグロを求める海の男達が集結しております……ああっ、一部、女性の方の姿も見られますね」

 人気ニュース番組「毒蝮お元気ステーション」の人気女性アナウンサー内田美依愛うちだみいあは、マグロの初競り現場の実況中継を担当していた。

「まぁ、なんと大きなマグロなのでしょう。私達が日々お寿司として食べている元の姿が、まるでこんな怪獣のようだとは予想だに出来ないことです。それではここで、このマグロを引き揚げた漁師の方にお話を聞いてみましょう。今年のマグロ、ズバリ活きは良いですか?」

「へへっ、もちろんです。今年は体調不良者が出まして、そんな人手が心配な中でも、海からは容赦なく勢いのある刺客が放たれます。こいつは例年以上に活きが良い。上物ですよ。即席チームで事に当たりましたが、良い仕事が出来て満足ですよ」マイクを向けられたボスが答えた。

「そうでしたか。大変でしたね。そんな良い仕事が出来るなんて、これは漁師冥利に尽きますね」

「いえいえ、私の本業は漁師ではないのですがね」

 ボスの言った通りである。大物を仕留めた4人のパーティーの内、ボスとイケさんは引っ越し屋、甲本は龍王院家の使用人、そしてこれぞうは学生であった。

「言われてみれば、皆さんはなんだか他の漁師とは雰囲気が違っていますね。おや、こちらの方、随分お若い……年齢はいくつですか?」

「はぁぁ……内田アナだ……はぁぁ……」内田にマイクを向けられてこれぞうは興奮していた。芸能人にあまり感心のないこれぞうだが、その中で内田アナだけは別枠。彼女のことは前々からテレビを良く見て知っていた。内田は、これぞうの支持を得る数少ない芸能人の一人であった。

「あははは、緊張されているようですね」

「ええ、ソレはもう!しかし、緊張に屈する僕ではない。あ、僕は現在16歳です。もうすぐ17になります」

「ええ!ということは高校生で?」

「ええ、その通りです」

「これはお手柄高校生ですね!」

「はは、これはこれは照れるなぁ」

「では、大物マグロを揚げたお手柄高校生、カメラに向かって勝利のコメントをどうぞ!」

「先生!やりました!暴れるマグロに海に引きずり込まれそうになりましたが、先生にもう一度会う!それを胸にやり過ごしました。待ってて下さい!こいつを土産にして会いにいきまーす!」これぞうはカメラに向かって満面の笑みで言った。

「はい、ありがとうございました。美しい師弟愛ですね。テレビを見ている先生も鼻が高いでしょう」

「ええ、ええ、先生はまるでハーフの方のように鼻筋がスッと通ってますからね。実際に鼻の高い方です」

「はは……という訳で、お次はそろそろ始まる競りの映像をお届けしますからね~」

 内田アナのインタビューが終わり、ここで番組はCMに入った。


 この生放送は水野家のお茶の間にも届いていた。

「お姉ちゃん!今の見た?」姉に向かってみすずが言った。

「……見たぁ……」みさきは手にしていた蜜柑をこたつ机の上に落とした。

 水野姉妹が家でたまたまテレビを見ていたら、知っている顔が出てきた。これぞうのことである。

「これぞう君、最近姿を見ないと想ったら、海に出てたのね」

「ええ、驚いたわね……」

「どう?お姉ちゃん。お姉ちゃんのこと言ってたよ」

「先生、としか言ってないじゃない?」

「どう考えてもお姉ちゃんのことでしょ。鼻の話とかね」

「うーん……」

「これぞう君、しばらく見ない内に逞しくなったと思わない?」

 確かにこれぞうは背も伸び、体付きもしっかりしているように見え、前程幼い感じはしない。みすずの問いかけに対してみさきはそのように想った。

「まったく、変わらないわよね、あの子」みさきは笑って答えた。

「そこが良い所なんじゃない?」とみすずも笑顔で言う。

 しばらくして番組が再開した。競りの場面が移っている。メガホンを片手に競りを仕切っているのは、なんと桂子であった。競りを取り仕切るのは龍王院グループであった。姉妹はこれにも驚いた。

 これぞうは、今年もまた三時間かけて製作した年賀状をみさきに送っていた。その年賀状は今、みさきの目の前のむこたつ机の上に置かれていた。

 みさきは心の中で明けましておめでとうを言った。無論、これぞうに向けてのことである。

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