第百四十話 水野姉妹による美しき姉妹愛
みさきは正月に実家に帰って来た。忙しい仕事を離れ、実家で穏やかに過ごすことで昨年の疲れを癒やし、それと同時に今年の活動を行なうための英気を養うのだ。
水野家の両親が買い物に出かけた後、リビングには姉妹だけが残った。二人はコタツに足を突っ込んでいる。
「ねえ、みずず」
「なーにお姉ちゃん」
みさきは妹に話しかけておいて、その続きを言い出すのに5秒程の間を置いた。
「みすずってさ、まさか五所瓦君と付き合ってるの?」
「え?」
これを聞いてみすずは読みかけの雑誌を閉じた。
「何で?」
「最近のみすず、五所瓦君のことを良く話すし、ドーナツやパフェを食べに行ったとかって写真も送ってくるでしょ。そういうのって、かなりの仲じゃないとって想ってね」
「うーん、これぞう君ね……やっぱり私達そう見えるのかな」
「どうなの?」
「うーん、付き合ってはないよ」
「ああ、そうなの……」
「でもね、よく分かんないけど、好き、なのかもしれない」
「はぁ?」みさきの声は裏返った。
「これぞう君は、面白いし、一緒にいても楽しい、いい人だよ。素直で明るいしね」みすずは笑って答える。
「それは……知ってるけど……」みさきはこれぞうのことを嫌というくらい知っている。
「で、どうなの?本当の所は?」
「だから良く分かんない」
姉妹は少しの間無言になる。
「お姉ちゃん、心配?これぞう君の心が離れていくの」
「え……」
「こないだね、私がお姉ちゃんと同じくらいの長さのカツラを被ったら、これぞう君は私が本物のお姉ちゃんだって錯覚したのよ。あの時のこれぞう君の目、やっぱり違ってたよ」
みさきは黙って聞いている。
「これははっきり言えるけど、これぞう君はやっぱりお姉ちゃんしか見えてないよ。私に対してキラキラした目を向けた時は、私を通してお姉ちゃんを見ている時。私に対してじゃないわ」
みすずはあくまで笑顔で答えた。
「みすず……」
「これぞう君の愛の炎はマジだから。半年や一年じゃまだ消えなかったみたいね。やけちゃうな」
「……」みさきはどう返事すれば良いか分からなかった。
「みすず、コタツにいるばかりじゃダメね。どう?一歩きして、たい焼きでも食べよっか?」
「何それ、結局甘い物食べるのに運動の意味あるの?」
「食べたくないの?」
「欲しい。行く」
水野姉妹は近所でも有名なくらいに仲良しな姉妹である。みさきは妹が可愛くて仕方ないし、妹も姉が大好きだった。これぞうのような変人男がここと関係を持てるのが不思議な話であった。しかし、人と人との出会いなんてものは、全て運命めいたようでもあり、また偶然なるものでもある。どれもこれもが不思議な縁と言えよう。
「カスタードと餡こ、どっちが良い?」
「どっちも!」みすずは迷うこと無く、迷いが生じる二択を消しにかかった。どっちも食えば話が早い。
「欲張りね。まぁ良いわ。買ってあげる」
「やったー。お姉ちゃん大好き」
それは姉を本心から好いた妹の言葉であった。