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第百三十五話 歯に衣着せぬ乙女の語らい

 待っていれば春はやって来る。それは誰にでも言えること。例えこれぞうの気持ちが冬でも春は予定通りやって来るのだ。

 五所瓦家が引っ越しを終えて早一ヶ月。これぞうは高校二年生となり、この春からポイズンマムシシティの毒蝮高校に通っている。転校生といえども、丁度クラス替えを行なう4月の始業式に合わせて入ってきたので、これぞうが特別目立つこともなかった。これぞうは在校生の多くから、入学から一緒だったけど、去年はクラスが違っただけの人と認識されていた。そんな訳で、彼がイメージしていたような転校生の特別感を味わうことは無かった。

 しかし、転校生だとか何とかを抜きにしても、これぞうの変人っぷりは分かる者にはしっかり分かる。春の段階からでもそこに気づく者はちらほら見られた。皆は簡単には話かけなかった。何せまだ安心な相手かどうか分からないからだ。高校生にもなれば、意外と対人関係に慎重に当たるもの。自分にとって有害な者かどうかを判断できない内は、迂闊なことは行わないのだ。現代の子供は意外と警戒心が強い。


「はぁ~、こんなに良い天気だというのに、僕の心はどうしてこうも晴れ晴れとしないものか~」

 こんなに良い天気の中、愚痴を吐きながらこれぞうは下校していた。

「まだお姉ちゃんのこと考えてるの?」

 その横を歩くのは水野みさきの妹みすずであった。春からこれぞうとみすずは学校も学年もクラスも同じになった。そして水野家の4つほど向こうにこれぞう達が暮らすマンションがあった。ご近所さんである。なので帰り道も同じだった。

「ああ、いつまでだってそりゃ考えるさ」 

「これぞう君の一途な愛もいいけど、こうして別の街にくれば別の出会いに素敵な何かを求めてもいいと思うの」

「素敵な出会いね~」

「そうそう、世界は広いし、女はお姉ちゃんだけじゃないわ。なにせ分母がいくつあるか分かんないくらいの数いるんだから」

「みすずちゃんは現実的なようで、現実の外でもあるような点を突くね。しかしだね、そういうことは理屈が分かっても、その理屈に従えないんだよね、この頭がそうなんだ」

「お姉ちゃんもこんなに愛されてるのに良い反応してくれないんだから罪よねー」

「仕方ないね。惚れた方が悪いさ」

 みすずとこれぞうは並んで歩いていたのに、いつしかこれぞうの方が少し先を歩いていた。みすずはそれに気づく。

「これぞう君、もしかして大きくなったかな?」

「え?そうかい?自分じゃ分からないなー」

「だって、歩幅が」

「え?歩幅?」

「うんうん、これはだめね。男の子の方が大きくなったら、その分大股になって、歩くと女の子より早く進めるじゃない?」

「う~ん。考えたこともないなぁ。しかし君の理屈を聞けばどうやらそれで当たりみたいだね」

「でしょ。だから私を置いていくことになる」

 これぞうはここでやっと自分が少し先を歩いていると気づいた。

「ほぅ、それも気づかなかった。ジェントルマンなら、そこは女性のペースに合わせないとだよね」

「うんうん、これぞう君はヒントをあげたらすぐに気づくね。そういう気遣いが出来ないとね。お姉ちゃんを落とすにはそういう細かい所にも注意しないと」

「なるほど、勉強になるなぁ。あれ?というか女子と並んで歩くのもいつぶりだろうか。以前がいつだったか記憶にない。ここ最近はみすずちゃんと歩くことがあるが、思えばその他の女子とは、前の学校の時だってあったかな?」

「これぞう君。女子とはあまり付き合いがないのね?」

「いやいや、そこを考えると、性別に問わず一緒に道を歩いた友なんていたかしら……?」

 これぞうは過去を振り返った。そういえば彼は友人が少ない。一緒に学校に行く仲間もいなかった。現代にたまにいるのだが、彼は友人を必要としないタイプの人間である。

「これぞう君……これぞう君は友達がいなくてもいいタイプの人間なんだろうけど……一人でも何か楽しそうだし。それって才能だと思うけど、たまには友達と遊んだりしたら?」

「ふむふむ、見聞を広めよと。やはり先生の妹さんだ。ためになることを言ってくれる」

「まぁ、そんな大したことでもないけどね」

「しかし、今は読みたい本もあるし、去年から継続中の在宅ワークでも依頼が入ったりするからね。友との交際の時間を作るの難しい。青春ってのは何故こうも忙しいのか……」

「もう、本の虫なんだから。じゃあ、お近づきの印ってことで、さっそく私と遊んでもらおうかしら。あそこの店に入ってアイスココアかパフェでもご馳走してもらおうかな」

「え、お近づきと言ったって、君とは確か去年の5月の段階で会ってるし、下校途中に喫茶店でお茶なんて感心しないなぁ。それにココアとパフェって、また振り幅の広い二択だね。値段も絶対にパフェの方が高いし」

「これぞう君ってよく喋るよね。去年に会ってても、ご近所さんとしては今月からの付き合いよ。細かいこと言わないの」

「え、だって君が細かいところも注意しないと先生からモテないと……」

「それはそれ、これはこれなのよ。乙女心の理解は難しいの。一つのアドバイスに頼る一辺倒じゃ勝利は掴めないわ。物事は多面的に見なきゃ」

「君は陽気なマイペースギャルかと思えば、時にドキリとするような核心を突くところがあるね。やはり水野の血が入ってるだけあって侮れない」

「だめだめ、今まで侮っていたってのがもうダメなのよ。ささっ、行きましょう」

「あ、ちょっとみすずちゃん、引っ張らなくても逃げやしないよ」

 この日、これぞうはお近づきの印にパフェをご馳走させられた。こんな具合でみすずと仲良くし、新たな学校生活もまったりと送っていた。

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