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第百十六話 地雷は掘り起こさない

 という訳で3人は龍王院家のリムジンに揺られて初詣へと向かった。

 今はリムジンの中。


「わー、桂子ちゃんちの車に乗るのも久しぶりだね」

 これぞうはリムジンの座席から窓の外を見てご機嫌である。

「これぞうったら、うだうだ言ってもまだまだ少年ね。大きな車に乗せたらもうご機嫌なんだから」

「そりゃ僕は少年さ。それに楽しむことを第一に生きてるよ。でも桂ちゃん、あまり子供扱いしてほしくないな」

「みさき先生にもそれ、言ったことある?」とあかりが口を挟んだ。

「さぁ、言ったかな?でも先生にそ子供扱いされたくないとは想うけどね」

「じゃあ、これぞうの今年の願い事はさっさとダンディな男になることね」と桂子が笑って言った。

「う~ん、先生から立派な男として見てもらいたいけど、それでもゆっくり老けたいね」

 

 ここで龍王院家の使用人の甲本がやって来た。

「は~い皆さん。向こうに着くまでの間はお菓子でもパクついてくださいね」

 三人にクッキーが出された。

「わーいクッキーだ。クッキーはいいなぁ。あの世にでも持っていきたい食べ物だよ」

「やだこれぞうったら、縁起の悪い褒め方をするのね。たーんと召し上がれ」

「うーんおいしいなぁ。高級感があるじゃないか、桂子ちゃんところのクッキーだからさぞ良いクッキーなんだろう?」

「ああ、それはホラ、今丁度通り過ぎたあのスーパーの特売で買ったもので、庶民の味を極めた安い品ですよ」と甲本は返した。

「なるほど、庶民の舌に合わせたものを甲本さんが選んでくれたと言うわけか。それは良いですね。僕なんて安いので慣れてるから急に良いクッキーを出されても胃がびっくりしてしまうとことろですよ。はっは~」

「これぞう……我が弟ながら、なんとも図太いわね。そしてなんか言ってることが貧乏くさい」

「良く味わえばこれは、保育園のおやつでも出たやつだ。ホラ、小さい頃に姉さんと桂子ちゃんがビンタを飛ばしあって最後の一枚を争ったクッキーがあったでしょ。それがコレだよ」

「ふふ、そんなこともあったわね。あれは、無駄に執着心の強いあかりならではの出方だったわ」

「そういうあんたこそ、お嬢様のくせに100円もあれば買えるクッキーに、よくもあそこまで本能剥き出しで食らいついてこれたものね」

 着物を来た美女二人の視線はバチバチとぶつかっていた。

 甲本がこれぞうの耳元で言う。「これぞう君、埋めてある地雷をわざわざ掘り起こすことはおすすめしませんよ。ささ、埋めて埋めて」

「ははっ……そうだね甲本さん。二人共ほら、美味しく、仲良く分け合おうじゃないか。せっかく美人な姉さん二人に囲まれているのに、そうして怖い顔をされたら僕が恐縮してしまうじゃないか」

「まぁまぁ、これぞうが私をお姉さんと、美人と言ったわね。いい子いい子、じゃあアーンして。これぞうの美人なお姉ちゃんが食べさせてあげるから」桂子はこれぞうにちょっと褒められると機嫌が直る。

「いいのいいの、こっちには本物のお姉ちゃんがいるんだから。これぞうは姉さん大好きっ子よね。こっちであーんしようね」そう言うとあかりもこれぞうにクッキーを食わせようとする。

「さぁこれぞう、桂子お姉ちゃんの方を食べて、でないとひどい目にあわせるから」

「いやいやこれぞう、あかりお姉ちゃんの方を食べるのよ。そっちの偽お姉ちゃんのを食べたらもっと酷い目にあわせるから」

「え、え、困ったなぁ。二人一度に……二人共僕をいじめないでくれよ」

 こうしてこれぞうは二人から人気を集め、おもちゃにもされる。そして、二人を敵に回すと本当に後で怖いと知っているので、二人の姉さんにはどうやっても敵わないのだ。


「これぞう君、モテモテっすね。これは羨ましい限り」

「お望みとあれば甲本さんにもどうぞ」あかりは甲本にもあーんして食わせようとする。

「あかり、それは駄目よ。勤務中の使用人に餌を与えることは禁止事項なの」桂子は使用人の食事を餌とか言ってる。

「まったく酷い規則だ。クッキーの一枚くらい食わせてほしいもんだ」仕えるお嬢様を前にして甲本は平気で文句をたれる。態度は良くないが、仕事はしっかり出来る男だ。

「ところで甲本さん、車の運転は甲本さんの仕事なのでは?」とこれぞうが尋ねる。

「違いますよ。というか僕は免許なんて持ってません」

「へぇそうだったんですか!僕はてっきりいつも甲本さんが運転しているものかと」

「はは、免許など取得せずとも車の運転くらいできますよ」

「なんだって!あなたはこの日本へ来て無免許運転をしているのですか!」

「はっは。まさか、それは冗談。僕は運転したこともないですよ。運転手は別にいます」

「ふ~甲本さん、ジョークがキツイよ。桂子ちゃんの家に無免許運転者がいるのかと想ったよ……」

「シゲ爺という老齢の運転手がいます。彼は運転を専門に雇われています」と甲本は説明する。

「これぞうも小さい頃に何度か会ってるじゃない?」と桂子が言う。

「ああ、そう言えばそうだ。あのお爺さんだったのか」


「おっと、楽しい話をしている間に目的地に到着だ」と甲本が言うと、桂子は「どこがよ?」と返した。

「それでは皆さん、足元に気もつけてもらって一人ずつ順番に降りてもらいましょう」

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