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第百十三話 全てが笑い話と振り返れる過去になることを願って今日を生きる

 父ごうぞうがみさきを車で送って行った後、水浸しになったこれぞうは風呂に入った。そして風呂から上がると姉のあかりの部屋へと向かった。


「はっは~これぞう、今日はやっちゃったわね。風邪引くんじゃないわよ」

「姉さん、そのことだけど。何もあんな大きなバケツ一杯に水を入れることないじゃないか。コップ一杯分でもかければ酔いから冷めるものを」

「あら、バケツに水を汲むように言ったのはお父さんで、かけたのもお父さんよ」

「いやいや、お父さんもあの量はびっくりしてたよ。酔いから冷めてお父さんの顔を見てわかったもん。想像以上に僕も床もびしょ濡れなんだから」

 実はあかり、どうせならバケツひたひたにまで水を汲んでやろうと想っていた。それを受け取った父も厳しいことを言った手前、あの状況で水を少し減らせなんて言えないものだから全部ぶちまけた。その量5リットル越え。


「まぁあんたが悪いわ。私にもお父さんにもバケツにも罪はないわ」

「むむ、言われたらそうだけど……」

 これぞうが口先で姉を凌駕することは生涯なかったと言う。

「さぁさぁ、まだまだ懺悔し足りないでしょう。お姉ちゃんの前で好きなだけ懺悔するといいわ」

「まったく姉さんは、他人事だからって。反省なら十分にしたさ」

「あらあら、私は、可愛いこれぞうの人生のあれこれを他人事になんて想ったことないわ」

「もう姉さんったらいじめないでくれよ。僕は今日、心に重いのをもらったんだよ。こんなことを言ったら不謹慎だけどお祖父さんが墓の下で良かったよ。生きいてたら本当に殴られていた」

「そうねぇ……しかしあんたって子は、また次から次へとそこらの小説を軽く凌駕するような奇妙な目に会ってるわね」

「うん、そう想う。ずっと寝てたけど、今は疲れてるよ」

 これぞうは覚えていないが、酔っている間に愛の告白という一仕事を終えていたのでその疲れが出たようだ。

「今回のことは失敗とも言い切れないわね。意外にも雨降って地固まるだったかもしれない」 

「へっ?と言うと?」 

「これぞうは情けないところを晒したけど、恋愛ってのは格好つけてばっかじゃダメだからね。そういうところも知っていかないといけないの。そこであんたは先にネタばらしして、自分はこういう人間だって教えたじゃない」

「な~る(なるほど)。付き合ったり、結婚してから嫌な所が見えて冷めるカップルもいる。そういうのがないように、予め欠点まで見せて、その上でまた恋人として絆を固め合うというわけだね。さすが姉さん、考えることが色恋の素人の僕の頭じゃ及ばない内容だよ。しかし、あのような醜態は見せて問題ないものだったのかな?」

「大丈夫大丈夫あれくらい。みさき先生を何だと想ってるの?数滴の酒に酔ってヘロヘロになったということ一点のみで男の好き嫌いを決めるような人じゃないわ。ただしねぇ……」

「ん?なんだい?」

「ちょっとひっかかるのよね。あんた、酒で記憶が飛んでるのよね?」

「うん、高く行っちまってるよ」

「そこよ。あんたが知らない、そして先生が語らないだけで、あんたが酒を飲んで家に帰るまでの間、何かあったかもよ」

「何か!あった!いや、しかし先生は何もないと……」

「それは口ではなんとでもいえるわよ。あんたがもしそこでとんでもない失礼をしていたら……よくないことかもね」

「ね、姉さん……まさか、脅かさないでよ。僕が、そんな……酒に酔ってやる失敗……ああ、考えたくないが、考えたくないことしか思いつかない」

 これぞうは頭を抱え、考えたくないことした考えつかずにいた。

「うん、その考えであたりね。何かセクハラめいたことしてないでしょうね?」

「記憶がない。そして、今となっては自信もない。僕は姉さんからジェントルマンとしてのエチケットを教え込まれて、日々それを実践出来ている。しかし、それは意識と理性ある間のみのこと。それらがなかったあの間は、この僕自信が僕の行動がアウトでなかったかどうか信用できない」

「酒って本当に危険ね。普段は紳士的で素敵な男性でも、犬畜生以下のケダモノになっちゃうこともあるんだもの」

 姉のこれを聞いてこれぞうはゾッとした。

「どっどうしよう、なにかやったのか僕。思い出せない。というか、眠い……」

「これぞう、今日はもう寝なさい。あんたの懺悔を完璧なものに出来るよう、お姉ちゃんの方で考えておくわ」

「姉さん、ありがとう。やはり持つべきものは優しい姉さんだ。いや五所瓦あかりという女性だな」言いながらこれぞうは姉の両手を取る。

「では姉さんお休み。今日のことが笑い話になることを願って」

 そう言うとこれぞうは部屋を後にし、自分の布団へと向かった。布団に潜って3分と経たない内にイビキをかいて眠ってしまった。

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