第百八話 Loves Report~by 輝美~
「はい、コレ。先輩と私が柔道してた時の写真」
輝美は二人の思い出の写真を保存したスマホをこれぞうに見せた。
「ああ!柔道着の天使!」とこれぞうはコメントした。
「いやだ、これぞう君ったら。褒めても何も出ないぞ」言いながら輝美はまたこれぞうの肩を叩く。
「ううっ、肩への強打というおまけが出たじゃないですか」
これぞうと輝美は結構相性が良い。
「じゃあ次は私が聞きたいわ。先輩って学校でどうなの?生徒に人気?」
「それはもう!」これぞうは即答する。
「だねよ。高校生から見たら理想のお姉さんって感じ?」
これぞうはウンウンと首を縦に振る。
「ねぇ先輩。やっぱり生徒から告白とかされたりするの?」
「え!」みさきは急な質問に驚く。そしてついこれぞうの顔を見てしまう。これぞうもこの話が出ると思わずみさきの方を見てしまい二人の視線が合う。絡み合う視線は熱となってお互いの頬に届き、微熱漂う頬はすこしずつ赤く染まっていく。
長いこと乙女をやっている輝美は二人のこの反応を見逃さない。輝美は「ははぁん」と何かに納得した声を上げる。
「まさか二人……」
「違うわよ!」とみさきが返す。
「何も言ってないんですけど、何が違うんです?」
「え……」みさきはここで黙る。
「やめましょう先生。輝美さんは熟練の乙女。こういったことを見抜けない人ではないでしょう」
「なんかその言い方だと若さが足りないみたいじゃない。熟女みたい」と輝美は不満げに言う。
「まさかそんな失礼は言いませんよ!さっきので輝美さんの若さは十分に、あっ……」
これぞうの言う「さっきの」というのは輝美のおっぱいにヘディングをかましたことである。それを思い出して話が止まった。
「さっきの?」みさきが問う。
「いえ、何でも……」
これぞうには入学式の朝にみさきのおっぱいにダイビングした過去がある。みさき以外の女とも無駄に体がお近づきになったことはみさきには知られない方が良い。
「これぞう君、何を考えているの?」輝美は笑って言う。
「輝美さん、からかわないで下さい。僕はその……僕の心は分かっているのでしょう。そして先生が側にいるのですから」
「はぁ?輝美、これどうゆうこと?」みさきは知らない。
「先輩、実はですね。これぞう君のことなんですけど」
輝美はへばって倒れたこれぞうの面倒を見て、その後おっぱいにヘディングを食らったことまですっかり話してしまった。
「うーん……」みさきは良くない反応を示す。
「先生、分かったでしょ。事故ですよ。あれは悲しき……ことはないけど、とにかく事故ですよ」
もちろん先生のおっぱいの方があらゆる観点から良かった。彼はそれを告白したかったが、それはセクハラになるので口に出すことは出来ない。それに彼には自分はどちらかと言うと尻派という誇りがあった。だからおっぱいに執着した会話運びはしたくなかった。
「これぞう君。ここで男らしく告白でもしたら?」
「言うぞ、先生が好きだと、これから僕は言ってやるぞ!」
焦ったこれぞうは先にネタバラシをしてしまった。
「これぞう君、もう十分男らしいよ。合格ね」
「へへっ、よく言われます」
彼はとにかく調子の良い男である。
「という訳です先生。拾い物を届けて芽生える男女の恋なんてのは漫画でよくある話ですが、僕は輝美さんに定期券を返し、おっぱいにヘディングをかます栄誉に預かったとしても、先生一筋です。いいですか、ちょっとおっぱいをなにしたくらいで純情な男の恋心は揺れやしません。そりゃ、輝美さんの胸は僕が頭をぶつけて揺れていましたよ。しかし僕のハートは強固、ヘディングぐらいじゃびくともしやしませんよ」
「五所瓦君、君ねぇ……分かったから、さっきからそのおっぱいばかりを口にするのを止めなさい」
「すみません」
あの先輩が、男子と何か良い感じで喋っている。私にはそう見える。これはあまり見ない光景。これぞう君がトリッキーで面倒臭い接し方をしているようで、その実みさき先輩が自然に振る舞えるリラックスを与えている感じが確かにある。良い組み合わせだと想うわ。
バレーでも男でもアタックを受けたら跳ね返すばかりの先輩が、受け止めはせずとも跳ね返しはしない。やっぱりこの子は不思議。先輩にとっても私にとっても人生において初めてのタイプのおかしな男の子、だからこそ簡単に跳ね返すことが出来ずキープするのね。これは先輩にとってきっと良い傾向だと想う。この二人、ありかもしれない。
以上が歳は若くとも熟練の乙女輝美の考察である。