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第百七話 聖夜の三人飲み

「あ!久しぶり~先輩」

 輝美きみは懐かしの先輩水野みさきに抱きつく。

「ちょっと、これは一体どうゆうわけよ」

「先輩……相変わらず大きい」

 輝美はみさきが、中でもたわわに実った二つの果実の部位が好きだった。

 これぞうは思う。(これは僕もノリで抱きつきにいくか)

「先生~」と言ってこれぞうもみさきに近づく。

「ちょっと待ちなさい!」

「はい」これぞうは止まる。

「とりあえず座りましょう」


 これぞうは輝美の案内で、みさきの待つちょっと良い飲み屋「蛇頭だず」にやって来た。輝美は移動中にみさきに電話してこれぞうとのことを簡単に話していた。

「まったく君は、こんなところまで来るなんて」

「私は家から近いですよ」

「輝美じゃなくて、そっち」

 みさきが君と言えば、後輩の輝美が反応するのでややこしい。

「先生、こうして輝美さんを横に置いた状態で僕のことを君と呼ぶとややこしいではありませんか。この際、以前から提案しているこれぞうと呼ぶのを採用すれば」

 これ幸いと想ったこれぞうは、愛する女とファーストネームを呼び合う仲になろうとした。

「五所瓦君」

「はい」

 みさきはこれぞうとは呼ばない。

「うう~ん、これは何という偶然……どうしよう」

 みさきは何をどう考えても今日の宴にこれぞうが来るとは想えなかった。なので困った。

「まぁいいじゃないですか先輩。この子も混ざれば。この子は帰り道が分からない上にお金も持ってないし、それにさっきからお腹が減ったって泣きそうなんですもの。放っておいたら警察に保護されるのを待つだけよ」

「まったく高校生にもなって……」

「すみません。僕としたことが後先を考えずに輝美さんを追いかけ回してしまって。携帯電話もない始末で全く困り果てていました」

「だいたい輝美もおっちょこちょいよ。よくそんな勘違いをしたわね」

「あはは、ごめんなさい。先輩の生徒を倒れるまで走らせてしまって……」

「しかしこれはとんでもなく良き巡り合わせ。良かれと想って知らない女性の落とし物を拾い届けたら、その先にはクリスマスをご一緒したかったみさき先生がいた。僕はサンタなんていたとしても南半球に出るくらいで、日本には関係のない話と想っていました。しかしこうして聖夜に願い事が叶ったとくればその存在は日本にもあると言えるのかもしれない」

 これぞうは感激していた。

「最初からそうだと想ったけど、面白い子ですよね。先輩の一番弟子だとかいう話ですよね?」

「知りません」

 

 みさきと輝美は久しぶりの再会をゆっくり楽しむために小さな個室を取っていた。

「はぁ、まぁ何か頼みましょうか」

 みさきがベルを押すと店員がやって来た。

「私たちはこれで。これぞう君は何にする?」

 輝美にはこれぞう君と呼ばれていた。

「店員さん、カツ丼、ありますよね?」

 あって当然のテンションでこれぞうは問いただした。

「はい、出来ますよ」

「ではそれで、大盛りでね」

 金も持ってないのに大盛りを頼みやがった。これぞうは遠慮を知らない若者ではないが、そんなことを気にしていられないくらい腹が減っていた。なにせ彼にはオーバーワークな長距離を駆けたのだ。昼に入れた飯などもう腹には残ってなかった。

「五所瓦君は本当にカツ丼が好きね」

「はぁ、また五所瓦君、せめてごっちんとか可愛いあだ名ならどうですかね?」

「なにそれ~これぞう君、おもしろーい」これぞうの変な言動が輝美にはウケた。


「ところで輝美さんは先生のご学友だったということですが、どうでした?学生時代の先生は?」

「ええ~知りたいの?」

「ええ知りたい!広辞苑にも大辞林も載っていない水野みさきという人間の全てを知りたい」

 これぞうは熱をこめてちょっと気持ち悪い問い方をした。

「ちょっと輝美、余計なこと話さないの!」

「えー先生、いいじゃないですか。僕は先生のことなら何でも知りたいのです」

「あらあらこれぞう君は先輩のファンなのね」

「ええ、そんなところです。まぁ正体はそれ以上のものですがね」

 輝美はアルコール度数控えめの酒をグビリと飲む。

「そうね……先輩はすごかったわ。私ね、最初は先輩のことを、その何というか、敵視していたの」

「へぇそれは何でまた?」これぞうは興味津々で聞く。

「だって先輩は可愛いし男子の注目の的だったの。まぁ男子共はみんなその的をはずすか届かないかだったけどね。まぁそれはそれで良いのよ。ただ先輩は私の専門としていた柔道が鬼のように強かったの。同じ柔道をやっていてもアイドルみたいな先輩は、柔道一筋で汗臭かった私にとってちょっと鼻持ちならない存在だったのよ。男にモテるから最初はちゃらついた人だっていう先入観を持っていたわ。でも組み合ってみると実力は本物だった。袖を掴むことが出来なかったんですもの。そのくせ先輩は強さを鼻にかけない。だから負けてもスッキリと力不足を納得できたわ」

「へぇ先生はやはりお強いのですね」

「うん。そうして先輩に挑んでは投げられる内に好きになっちゃの!」と言うと輝美はみさきと腕を組む。

 投げられる間に芽生える愛もある。畳の上で経験しなければ分からない。

「ちょっと輝美!酔ってるの?」

「へへ~まだだまです。大学で私と先輩は団体戦に一緒に出て優勝したのよ。先輩が大学柔道からいなくなった後は、私が個人戦で優勝出来るようになったの」

「へぇ輝美さんが優勝。その割にはなんというか、小柄で細いですよね」

「やだ、これぞう君ったら口説いてるの?」言いながら輝美はこれぞうの肩を叩いた。

「うぅ!鍛えていない僕には柔道家が軽く叩いても響くぅ……」

「情けないぞ。もっと鍛えなさい。先輩に指導してもらえば?あのくらい走っただけで倒れるなんてダメよ」

「先生の熱烈指導。手とり足取りの……」想像してこれぞうの顔がニヤける。

「柔道は勝利までの手数が様々、体格の大きい小さいだけでは勝敗は決まらないの。お分かり?」輝美は柔道の奥深さを説いた。  

「しかし、みさき先生の柔道着……見たい」

 これぞうは人一倍豊かな想像力を用いて、見たいその景色を頭に思い描いていた。

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