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第百四話 闇を抜けた先に見たこれじゃない感

「いや~明けた明けた。さっぱり明けたぞ謹慎期間」

 今朝は晴天。これぞうは退屈な一週間を無事に乗り切り、本日を持って復学する。

 これぞうは久しぶりに教室の自分の席に座った。窓から気持ち良い朝陽が入ってくる。それを浴びて彼は両手を上げて伸びをした。

「いや~穏やかなものだな~。明けない夜があったことなどない。待ってればきっと明けるってね。それが今ってわけだ」

 このようにこれぞうは復学に大変満足していた。ありふれた日常がまた帰って来て安心していたこれぞうだったが、実は丸っきり同じではない。これぞうはこんな性格だから周りにあまり注意を向けない。それゆえクラスメイト達から集まる奇異の目に全く気づかない。

 文化祭の時、これぞうは僅かな間だがクラスの中心的立場にいた。そのことによってそれまで彼を敬遠していたクラスメイト達は警戒を解き「五所瓦は想ったより危なくないヤツ」「変人だけど良いヤツ」「面白い人」「少し話してみたい」と思うようになっていた。

 しかし今回の自宅謹慎の処分を受けてからは周りの反応は変わってしまった。この学校には、これぞうのように重い処罰を受けるような荒くれ者はそうそういない。

 話は簡単だ。「警察と揉めて謹慎処分を喰らうようなヤツはきっと危ない」「キレたら何をされるか分からない」「触らぬ神に祟りなしだ」といった事を皆が想い、再びこれぞうから距離を置き始めたのであった。

 人を印象付ける場合、どうゆう理屈からそうなるか知らないが、人は百ある美点よりも一つも汚点の方に意識を引っ張られがちである。これぞうは日々明るく振る舞い、文化祭ではクラスに大きな貢献もしている。それらの積み上げられた確かな好印象も、一回騒動を起こせば一気に失うことがある。人の感情というのは意外にも冷酷に出来ている。


 そんな中でも変わらず声をかけてくれる者もいる。久松少年と松野ななこである。

「よぉ五所瓦、お勤めご苦労さん」 

「やぁ久松くん、本当に苦労したよ。退屈な課題を次々とやらせるんだから」

「五所瓦君久しぶり。何か大変だったね」と松野は微笑みかける。

「松野さんの笑顔を見るのも久しぶりだね。君は見れば安心な顔で笑う」

「へ?そう?」松野は少し恥ずかしそうに返す。

「そうそう」

 軽薄なナンパ男の話術のようにも聞こえる内容をその気なくナチュラルに発するのがこれぞうであった。

 これぞうはその辺のことを深く考えることはないから気づかないが、こういう状況でも変わらずが接してるくれる人達のことを真に友と呼ぶのではなかろうか。


「じゃあそろそろいくか」

「そうだね」

 久松と松野はどこかへいくつもりらしい。

「おいおい、どこに行くってんだい君達。これから1時間目が始まって田村先生のありがたくも眠いお話が聞けるってのにさ」

 久松と松野は「何言ってんだコイツ」と言わんばかりにこれぞうに目をやる。

「どこって体育館だろ」と久松は言う。

「あれ?1時間目は体育だったっけ?」

 ここで松野は気づく。

「あ、五所瓦君もしかして知らなかった?今日終業式だよ」

「ぬぬ!何だって、復学したばかりでもう学校は終わりかい?」とこれぞうは驚いて言う。

「はっは~お前が学校に来ないだけで、俺達はその間にもしっかり勉強して学生の役目を終えてんの。お前にはもうでも、俺達にはやっとの終業式だよ」

「これはこれは、おかしな時期におかしな事件にあって謹慎になったものだ。これで今年の学校はおわりかい」これぞうは拍子抜けした。何せ今日からまたみさき先生と色々お話しようと想っていたからだ。彼女のための弁当だって作ってきた。

「五所瓦君ったらカレンダーで確認くらいしないの?」

「う~ん、これは僕の確認不足だったな。何せ謹慎中にも決して暇なく色々あったからな。カレンダーなんて見る間もなかったよ」

「とりあえずだ、五所瓦には今年が終わった感が無くとも、学校で決めた通りこれできっちり終わりだ。遅れたら面倒だから早く体育館に行こうぜ」

「そうだねー」と返してこれぞうは久松、松野と共に体育館に向かった。


 これにて彼の高校生活一年目の二学期はおしまいである。

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