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第百二話 冴える青春の感覚

「というわけで、お父さんの車で先生をご自宅まで送っていくからな」

 玄関に立つ父はこれぞうにそう言った。

「え~お父さんだけずるい。僕もお供したいなぁ」

「分かる。分かるけどお前は自宅謹慎中だろう。留守番するんだ」

「はい……お父さん、くれぐれも事故には気をつけて。それと安全運転で頼みます。何せ僕の未来の希望たる命を乗せてるんだから」

「それは言われずとも分かっている。しかし改めて言われると緊張でハンドルを握る手から汗が吹き出しそうだよ」

「そうそう、そのくらい路上に出るには緊張を持って下さい。お父さんも無事に帰って来てくださいよ」

 親子は出発前にもごちゃごちゃうるさい。そしてまだ続く。

「お父さん、それから……その、まさかこの心配は要らないと思うけど……」

「何だいこれぞう。お父さんとお前の間でそう言いづらそうにする内容があるかね」

「みさき先生には、変なことしないでよ」

「はっっは~。心配性だな。可愛い息子の大事な想い人をお父さんがどうこうするものか。こないだ図書館で借りてきたツルゲーネフの読みすぎのようだな。あのようなことは滅多と起こらんよ。無論、お前と張り合ったとして、お父さんが男の魅力で劣るとは想えんがね」

「お父さん言ってくれるね。僕だって若さという鍛えた所で衰える一方の武器が今ははっきりとあるさ。負けやしないよ」

「はっは~。まぁ心配しなさんな。お前のように妙齢の乙女のおっぱいを鷲掴みにするような無礼な真似などお父さんはもちろん、そこらの痴漢だって控えるさ」

「なっ、止めてよお父さん。自分で言うもの何だが僕は真実の人さ。痴漢扱いは止してよね」

「はは、すまんすまん。お前は素直で良い子、お父さん自慢の息子だ」

 親子は玄関で戯れている。そして玄関に立つ父の横には話題の中心となっていた人物であるみさきが顔を赤くして立っていた。

「あの、私いるんですけど……」

 二人だってそれは知っているだろうが、それにしても本人を前に行なうやり取りかと想ったみさきは遂に口を挟んだ。 

「ああ、先生、これは申し訳ない。気を悪くしたなら謝罪を……何せ息子がはしゃぐもので」

「先生、その件は申し訳ない限りです。あの、重ねて言いますが悪気はないのです。ごめんなさい」

「いいのよ、それは分かってるから。じゃあね、ちゃんと課題をやっておくように」

 みさきはそんなことをいつまでも根に持つような度量の狭い女ではない。と言ってもあっさり忘れるには少々刺激の強いアクシデントではあった。

「じゃあこれぞう行ってくるよ。母さん達が帰ってきたらお父さんのことは説明しといてね」

「はい。先生ありがとうございました。またカツ丼食べましょうね~」

 これぞうはみさきの姿が目に映る間は手を振る。そして父が玄関を閉めるとゆっくりと手を下ろした。

 そして下ろした手に目をやる。そっちの手がおっぱいを鷲掴んだ手であった。

「あれは……やばかった。何がやばかったって、それは言葉で形容できないレベルのやばさだった……くぅ、今となってはゴキブリの登場に感謝している自分のことをどうしようもなく卑しく想ってしまう。これが煩悩か。坊さんが寒い中鐘を何回叩いてでも追い出したいわけだ……今回のことは姉さんにも伏しておこう。お父さんにも手を回しておかないと。あの人のことだ、きっと姉さんに言うぞ」

 これぞうは煩悩を振り払うことと坊さんの苦労を理解したのであった。


「であれば手始めに先程追加された忌々しき課題を片付けるか。全く青春はブレーキなしだな。忙しい。最近は図書館で借りてくる本の数も減ってきたじゃないか。以前の僕じゃないみたいだ」

 そう、彼は以前の彼ではなくなっていた。心身共に成長してきているのだ。若い時分に過信でなく事実としてこれを悟ることが出来る者が今の世に何人いるだろうか。惰性のままに日々を退屈に過ごすことで鈍感になった者には決して知ることが出来ないことを我らが主人公は見事悟ってみせた。

 これぞうは恋することで強く、清く、そして美しい少年へと様変わりしてくのであった。これが所謂10代マジック。

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