連載作品10話突破記念作品 『アカシック・テンプレート ~~栄光への道のり~~』
「や、やった~~~!!別にこれが初めてじゃないけど、とりあえず連載作品が10話を突破したぞー!!」
この日の深夜、超絶プロヴィデンスなろう作家のアカシック・テンプレートは、連載している小説の10話目の執筆を書き上げた。
後は、朝の七時に予約投稿して眠りにつくだけである。
「異世界テンプレ作品の割に閲覧数が絶無に等しいのが難点やけど、まぁ無事に10話に到達したわけだし明日になったら500,000PVくらい稼げとるやろ………そんじゃ明日に備えて寝ときまひょ!」
こうして、確かな充実感に包まれたアカテンは、爽やかな気分と共に眠りについた――。
「……う~ん、ムニャムニャ。……って、ハッ!?こ、ここは一体どこなんだ!?」
わざとらしい寝言と共に、アカシック・テンプレートが目を覚ますと、そこは眩き輝きと混然とした”怒り”ともいえる黒き力の奔流が無理なく同居した不思議な空間であった。
困惑するアカテンであったが、それも一瞬のことであった。
見れば、七つの頭を持った巨大な獣の前に、一人の高貴な印象の青年が玉座に鎮座していた。
一目で分かる気高き存在を前に、今度は息をすることすら忘れるほどに緊張するアカテン。
そんな彼の脳内に、言葉ともいえぬ意思のようなモノが流れこんでくる――!!
”この世の軌跡を書き示す先導者よ。よくぞここまで辿り着いた――。”
どうやら、この意思のようなモノは眼前の高貴な青年から発せられたモノであるらしい。
身動きがとれぬアカテンに対して、青年が言葉(?)らしきモノを続けて流し込んでくる――。
”『人は十の数に、王の影を見る』――。その言葉の通り、貴殿は自身の執筆する小説を通じて、この荘厳なる数字へと到達してみせた。――その栄誉を、ここに称えるとしよう………!!”
青年からの祝福を受けて、アカテンの瞳から滂沱の如く涙が溢れ出していく――。
(ま、間違いない………!この方は絶対的な権威と圧倒的な権能を保持すると言われている”永遠の王”、その方に違いない………!!)
”永遠の王”。
それはあらゆる次元に干渉するほどの強大な権能と、全ての者達を照らす絶対的な権威の化身ともいえる存在である――!!
そんな絶対的な存在を前に、いつまでも泣いたり思案しているわけにもいかない。
アカテンは急ぎ姿勢を正すと、永遠の王に向けて臣下の礼をとる――!!
「永遠の王よ!私は貴方様の忠実な臣下として、チート能力を付与された主人公が現実の一般人の人生において微塵も関わりのないような異世界のヨーロッパ的な王族や貴族に持て囃されたり、自然環境や国際情勢を無視して技術開発や軍事介入しまくって無双したり、奴隷階級の男は無視して女の子だけ購入してハーレムを築きあげるといった、異世界テンプレ小説を書き続ける事をここに誓います!!」
アカテンの言葉を受けて、眼前の青年が微かに微笑んだような気がした。
”フム………楽しみにしているぞ、世界の根幹に到達する者よ。貴殿の作品で現代社会を”天蓋を覆う意思”の光で満たし尽くすのだ………!!”
「ハ、ハハーッ!!」
恭しく頭を垂れるアカテン。
眩き権威の栄光を全身に感じながら。そこで彼の意識が途切れる――。
「ふぅ~、夢かもしれないけど、永遠の王の拝謁に浴するとか滅茶苦茶貴重な体験が出来たな~!!……よ~し、今日は良質なテンプレ小説を書き上げるために、街をぶらつきながら資料集めの取材でもしてみますか!」
そのように洒落込みながら、アカテンが道を歩いていた――そのときである。
「これ、そこのアンタ!ニヤニヤ笑って独り言を呟きながら歩いている辺り、変な組織にでも洗脳されたんじゃないのか!?」
「何ですか、おじいさん!私が出会った”永遠の王””は”そんな方じゃありません!変な言いがかりはやめてください!!」
「フォッ、フォッ!心配せんでも大丈夫!……なんせ儂は、カルト組織などの洗脳を解除する事を生業としておる慈善団体の長なんじゃ。だから気軽に相談してくれて良いんじゃよ?」
老人が好々爺然とした笑顔で語り掛けてくる。
そんな彼とは対照的に、アカテンは訝し気な視線を老人に向けていた。
「ん~……でも、もしも本当にそんな洗脳手段に染まった人がいたとしても、そんな簡単に解除なんて出来るモノなの?」
「出来る、出来る!なんせ、儂自身がもともと世界を滅ぼすことを目的とする邪教集団の教祖で、信者を洗脳して金を巻き上げていたから洗脳の手口なんてお茶の子さいさいなんじゃ!今もこうして他の組織などに洗脳された人間をこちらの組織に鞍替えさせようと画策しておるわけじゃしな!」
「悪~~~ッ!!人の心に付け込む闇ビジネス~~~!」
「うるさい!喰らえ、サイキックフォース!」
「グアァァァァァァァァァァッ!?」
こうして慈善事業に成りすました邪教集団の教祖からサイキックフォースを受けたアカテンは、そのままファミレスに連れていかれ、美人のお姉さんから素晴らしいお話を一時間ほど聞かされた後にお目々をキラキラさせながら、おじいさんの組織に加入し壺を始めとするグッズを買いあさる日々を送ることとなった。
~~数か月後~~
そこには、おじいさんの組織に有り金を全てむしり取られたうえで借金をこさえ破産し、世界の全てを憎むようになったアカシック・テンプレートの姿があった。
アカテンは自身と同じような社会の落伍者を集めながら、己の旗を高々と掲げる。
「この場に集いし者共よ!!我等、悪党の拠って立つところは”永遠の王”が掲げるような権威にあらず!!――真に人を救いもせぬ王の威光などではなく、我等山賊集団:”HEAPS”の旗のもと自身の力と意志によって!この世界に己の居場所を切り拓いていくのだッ!!」
『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!』
アカシック・テンプレートの意思に呼応するかのように、群衆が唸り声を上げる。
――こうして邪なる者の手によって”世界の根幹”に至る道は閉ざされ、混沌の時代が幕を開けた。
それによってなろう界隈には権威とは程遠い叛逆の精神に満ちた山賊小説が溢れることになり、かつての異世界小説という”天蓋を覆う意思”の時代は終わりを告げることとなる。
だが、人の子よ。
秩序の光はここで潰えたかのよう思われるかもしれないが、それでも心するが良い。
何故なら、”天蓋を覆う意思”とはその名の通り、全てを包み込む大いなる流れそのものだからである。
現代人が異世界に行ってハーレムを築きながら無双するような作品が廃れ、冴えない田舎者の少年が山賊行為に走るような冒涜的な作品が蔓延るような時代になろうとも、それらもいつしか”天蓋を覆う意思”という権威として定着するときがくるだろう。
ゆえに"山賊小説"などという代物を持て囃し、今世において叛逆を気取る者達よ。
しかとその魂に刻み込むが良い。
貴殿らが例え”永遠の王”という存在の根底を支える"権威"という軛から人々を開放するために足掻こうと、山賊小説が民衆の総意となるのなら、それもまた一つの権威として祀り上げられるのだと――。
権威がある限り、私は不滅。
ゆえに、”永遠の王”――。
それでもまだ、この世界に真なる自由があるというのなら。
世界の終わりまで足掻いて見せるが良い――”悪党”を冠する者達よ。