【第9話】もう一組2
なんでわたし達は近藤達とファーストフードにいるんだろうか。
同じときに出たけど、別れればいいのに。
晩御飯はいらないと親に連絡して、『お土産ー』と返ってきた。
どうせ仕事場だろうし帰りに肉まんでも差し入れてあげよう。
「えーと、何から話せばいい?」
近藤が小声で話す。
まぁ女声出せないなら仕方ない。
「それを始めた理由からかなぁ」
ズズーとジュースを飲みながら遥斗は聞いた。
さらっと遥斗はわたしの注文を奢ってくれた。
ありがたいんだけど、わたし本当は彼氏なんで、出来ればこちらが奢りたいんですが・・・リンの時は受け入れろですか、はい。
「最初は文化祭で女装して、これが俺ってなって・・・」
おおぅ、本当ですか。
わたしが原因ですか・・・
遥斗がポンポンとわたしの肩を叩いて慰めてくれた。
でもあの企画は遥さんが決めたんですけど。
「わ、私も・・・」
へ?近藤と一緒にいた男装の人もクラスメイト?
わたしと遥斗の視線がその人に向く。
一見では女子だと見抜けないが、少し真剣にみると骨格をうまく服で誤魔化しているのが分かる。
本当に誤魔化し方がうまい。
ポイント付近にマフラーや腰巻き、鞄を持ってきて、骨格自体に視線が行かないようにセンス良く配置している。
正面から見て・・・わたしは分からない。あまりクラスメイトと関わりないし。
遥斗はわかったらしく声をあげそうになった所で、隠れて太股を抓っておく。
睨まれたけどわたし達の正体は教えたくない。
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いてぇ!!
リンの奴、抓りやがった!!
俺だってギリギリで声は出さないようにはするって!!
でも、この男装女子が誰か分かった。
この子、千里だ。
柊 千里。私の前の席で遥斗の事を聞いてきた女子だ。
もしかして遥斗が私だったら声を教えてとかだったのだろうか。
でも、千里は文化祭では調理班だったはず・・・男装はしていないはずだ。
「わ、私、あの文化祭の後に友達のメイク見てやってみたらできちゃって・・・」
ま、まぁ千里は指先器用だから、メイクぐらい問題ないと思うが。
「で、なんでわたし達に話した?」
リンがさっさと教えてと言った感じでポテトを摘みながら聞いた。
「えっと、そっちの人がトイレで俺のことを見慣れてるって言ってて、
女装した人に詳しいのかなと思って、知っているようだったら声を教えてもらおうかと・・・」
俺たちがカラオケに行くのって声の練習のためなんで。と近藤君と千里はもう行くところまで行こうとしているようだ。
行くところまで行くのは別にいい。もう少しメイクの練習と仕草さえなんとかできれば問題ないと思うし。
声は頑張れば習得は出来る。
でも、一つ気になるところがあって・・・
「君達は同性愛者?」
「「違いますっ!!」」
そっかぁ。
「じゃぁ二人はカップルか?」
どうなんだろうか。
二人は付き合っているんだろうか?
「「ち、違うっ!!」」
じゃあ何だろう。
じゃあなんで二人は一緒に行動しているんだろうか?
「た、ただの友達?」
「そ、そう!!」
ふーん。今はそういうことにしておこうか。
「えっと、声の出し方とか分かるのであれば教えてください!!」
・・・話変えたね。いいけど。
「声ねぇ・・・」
俺たちが声を変えている本人だからなぁ・・・でも教えるとしたら俺達の正体がバレる可能性がある。
リンは色々声を変えられるとしても、私はほんの少し変える程度しかできない。
でもなぁ、色々完璧にした二人を見てみたい。
リンと目を合わせる。
「うん。じゃあこうしようか」
<===
「す、鈴木ちょっといいか?」
俺が弁当を一人でつついていると近藤に声をかけられた。
来たか。
隣の席の遥さんと視線が合う。
あの時、君のクラスに両声類がいるから聞いてみればと俺の名前を教えておいた。
別に俺は両声類であることは隠すつもりはない。
普通に君のクラスと言ってしまって遥斗が冷や汗を流していたが、近藤達にはスルーされた。
「あー、聞いてる。場所変えるか」
他人(遥斗)から聞いた体でいく。
うちの高校は屋上を開放しているし、屋上でも行くか。
*
「で、女声を教えてほしいって?」
「あ、あぁ」
まだ寒くて屋上に人影はいない。
途中で合流した柊さんも交えて屋上に来ると俺は遥さんに連絡。
あとで合流予定だ。
「こんな声でいいのかな?」
と、俺は声優としてたまに使うアニメ声を出した。
二人して固まる。
というか柊さんは俺が姉の声真似できるの知ってたでしょうに。
「悠里の声!!」
あぁ・・・そういうことか。確かにこの声はアニメで使ったことがある。
多声類の声優として『悠里』は有名だから知っていてもおかしくはない。
「こんな感じの声?」
リンの声とはまた違う女声をだす。
この声は文化祭で使ったときの声だ。
「ど、どうやるんだ!?」
二人共興味津々だ。
「えーと、二人はどこまでできる?」
と二人に・・・って柊さんはどうしようか。
柊さんは遥さんが合流するまで待っておいてもらおう。
遥さん遅いなぁ。
近藤の女声は裏声を基本としたキンキンとした声だった。
文化祭以降で練習したにしては・・・うーん。微妙。
---ガラガラ
「ごめんごめん。遅れた!!」
やっと男声の先生が来た。
「遥!?」
「千里が男声覚えようとしているとは思わなかったなぁ」
遥さんはそういって俺に抱きついてきた。リン状態ではよく抱きつかれているが、素で抱きつかれるのは初めてだ。
「えっえっ!?」
柊さんは俺と俺に抱きついた遥さんを交互に見ている。
「私達実は付き合ってるんだよねー」
「おぅ」
これは昨日、付き合ってることぐらいはこの二人には教えるという話はしておいた。
こっちが二人の男装、女装という秘密を知っていて、近藤達は何もこっちの秘密を知らないというのはフェアじゃないという気持ちと、俺達の女装、男装は教えたくないということでこれぐらいはという二人で話し合った。
「「えっ!?」」
あっそうですか。受けいれられないですか。
まぁ俺と遥さんが学校で話すようなことはあまりないからな。
「そして本日の男声の先生でもあります」
あえて女声に変えて、
「はい。男声の先生でーす」
にししと俺に抱きついたまま、遥斗の雰囲気をちらりと出した遥さんが昨日二人で調整した遥斗にも神社であったときの声とも違う男声で言った。
「「えぇぇぇ!!」」