【第87話】修学旅行3
パワーウィンドウを開いてホテルのロータリーに既に出て待っていた3人に手を振る。3人の前まで移動して借りてきたレンタカーを停車させる。
意外とわたしと同じ様に4月誕生日の人が居たのかレンタカー屋には同級生が車を借りようとしていた。こっちはネット予約、クレジットカード精算だったからスムーズだったけど、現金だと少し手間がかかるんだろうか。
「じゃ、行く」
助手席には遥斗の姿の遥さんが乗り込んだ。えぇ、わたしの一人称から分かると思いますが、わたし今リンの格好です。
ウィッグはかさばらないからと荷物の奥に入れていたのがあったし、服は遥さんのを借りている。逆に遥さんはわたしの服を着ている。レンタカー屋では男の格好をしてたけど途中で着替えた。ズボンとスカートの着替えは車内でも簡単に出来る。
「ウィッグ持ってきてるとは思わなかったんだが」
イベント用のメイクの早乙女さんが言う。早乙女さんはいつもならこのメイクに黒髪のウィッグだけど修学旅行には持ってきてなかったらしくて地毛のままだ。アカネ君に至ってはそのままの姿だ。
「いや、なんで変装する必要があるんですか?」
ごもっとも。
「イベント参加の癖だなー」
遥斗がナビをセットしながらアカネ君に答えた。確かにイベント=異性装って考えしかなかった。癖って恐ろしい。
「じゃぁ沖縄美味しいもの巡りアンドイベントドライブにシュッパーツ!!」
「「「おぉ!!」」」
もう即売会イベントがメインじゃなくなってるけどね!!
*
「おぉっ、思ったよりサロンパス」
遥斗がルートビアの匂いを嗅いで感想を言った。イベント会場へドライブしている途中にお店を見つけたから寄ってみた。わたしも嗅いでみる。うん。サロンパス。
「んまっ」
早乙女さんはハンバーガーに齧り付いている。あれ?さっき朝食食べたところですよね。
アカネ君も食べてますけど、大丈夫なんですか?
「な、なんとかなるはず・・・」
まぁ基礎代謝は男子ですからなんとかなるんじゃないですかね。
*
即売会イベント会場には駐車場があったからそこに車を停めて中に入る。5月だがエアコンが効いている室内だ。
「意外とどこも変わんないな」
「確かに」
イベント会場には見慣れた風景だった。違いとすれば・・・うん?違いが見つからない。
早乙女さんは自分の欲しいものを探しに、アカネ君はひとまずお手洗いに行った。
あっ、あの人冬のイベントでも見たことのある人だ。沖縄まで来てたのか。
「リン、あれ」
わたしの肩を遥斗が叩いた。
「ん?」
振り向いて遥斗の指差す方向を見るとそこには華岡先生が・・・サークル参加していた。そういや朝から見なかった。
「あの人、仕事で沖縄来てるはず・・・」
「もしかして立候補したのって」
「これかも」
引率の仕事よりもこっちが目的だったんじゃないかってレベルで生き生きしてる。
「あれ、遥斗君にリンちゃん、沖縄まで遠征ですか?」
先生に見つかった。先生には前にイベントでスペースが隣同士になったこともあって名前を教えているし、多分遥斗のことが印象に残ってるんだろうか。
「野暮用のついで」
正直に修学旅行中と言うつもりはない。
先生の並べている本を見ると『R18』と付いている。修学旅行で来た先でイベント参加した上に、頒布本がR18とはこれまたバレた時に色々問題になりそうだ。
「どうですか?」
ペラペラと本を捲って、うーん。嫌いじゃないけど、コレ買って修学旅行中持ち歩くのはちょっと勇気がいる。
「今回は持ち歩くのが難しいからやめとく」
「あー、野暮用って言ってましたもんね」
えぇ、貴女の引率する修学旅行生の一人なので。
*
「あっ」「げっ」
アカネ君がお手洗いから戻ってきて、こういったイベントに慣れてないのかわたし達のところにやってきた。
そしてアカネ君と先生が二人で声を上げた。
アカネ君としては、なぜここに先生が?といった声で、先生はやばいといった声だ。
「お、おお岡崎君もき、きき来てたんですね」
先生きょどりすぎです。
「先生こそ・・・引率はいいんですか?」
確か引率の教師は一部はホテル待機だったと思うのですが。とアカネ君。こっちは至って冷静だ。別にやましい事をしていないからだろう。
「ほ、ホテル待機は一部だけで、それ以外はじ、自由なんです」
・・・だからといってサークル参加するというのはどうなんですかね。
このイベントのサークル参加申し込み時期から考えると、最初から修学旅行中に来る予定でしたよね。やっぱりこのために沖縄引率の立候補したんじゃないんですかね。
「お願いっ!!今日ここで私と会ってないことにして!!」
「えーと、はい。分かりました」
色々わたし達は秘密を持っているから結構口は固いですよ。
*
「でも、岡崎君だけで来たんですか?」
えぇーととアカネ君の視線が泳いでわたし達をちらちらとみる。首を横に振っておく。先生はわたし達の正体を知りません。
「鈴木達も近くまでは一緒です」
今も一緒ですけどね。
「今はお土産でも買ってるんじゃないですか?」
ここで買えるって言ったら同人誌だけですけどね。
*
「はるさん、すずっちここにいたんだ」
先生がアカネ君にイベント参加していたことをさらに黙ってもらえるように何度も頼んでいるのを見ていると、数冊の薄い本を抱えた早乙女さんが合流した。
「さ、早乙女さん!?」
「うぇっ!?先生!?」
わたし達に声をかけてきた早乙女さんを見た先生がまた声をあげた。早乙女さんは普段はウィッグで変装してますからね。今回はウィッグがないのでメイクだけしているから早乙女さんというのが分かる。
「それにはるさん、すずっちって・・・」
先生も早乙女さんが教室でわたし達に声をかけているのを何度も聞いているから、わたし達がそういった呼ばれ方をしているのは知っているはず。
先生がんんーと言いながら、わたし達を見つめてくる。
あっ、これもしかして気が付かれちゃう感じですか・・・?
流石に教師にイベントで女装しているのを知られるのは中々厳しいものがあるからできれば気が付かないで頂きたいのですが。
「えっ、いやっ、まさか!!」
しーと、口元に手をあてて声を出さないようにお願いする。
伝わったのか口を押さえてくれた。




