アナタの本当の姿は？

高校二年生

【第80話】ヘルプ依頼

「お願いがあります！！」

　わたしの目の前で今回のアニメの制作進行の男性が頭を下げている。ここはアテレコスタジオ。つまりは他の人も居るわけですが、気にしないんですか・・・

「今のペースだと動画が間に合いません！！

　リンちゃんと彼氏君にヘルプ入ってもらえないでしょうか！！」

　お願いしますっ！！と頭を下げられる。えっと、なぜわたし達に声がかかったのでしょうか。というかわたし達のような素人ではなくてフリーの動画マンぐらいいるでしょうに。

「僕と他の進行の手持ちカードを全部確認してみましたが、全員他の原画が入っていて手が割けないと断られました」

　だからって素人の人に動画をしてもらうって無理ゲーだと思うんですが。

「リンちゃんのSNSと彼氏君のものだと思われるSNSの絵から問題ないと判断しました」

　いや、まぁ今回のアニメについてはわたしが声あてているのもあって遥さんが気に入って色々描いてますからね。

　うん？

「わたし達のSNSを見てる・・・？」

　わたしのどのアカウントを見てるんですか、佑樹用かリン用か悠里用で3アカウントあるんですけど。絵は佑樹とリン用でしかアップした覚えは無いんですが。

「リンちゃんのアカウント、事務所じゃ有名ですよ？」

　なんでっ！？

　そんな問題になる内容を書いた覚えはないけど、事務所内で有名になる理由が分からない。

「うちのアイドル的存在だからな！！」

　いや、だからそれが分からない！！

　わたしアイドルじゃない。アイドルはうちの事務所にもいるし、アイドル的イベントをしている声優の人だって多くいるんですが。

「それリンちゃんには秘密です」

　どうなってるんですか！？うちの事務所！？

　＊

「あっキタキタ！！リンちゃん、彼氏君こっちこっち」

　遥斗に連絡してみると力になれないかもしれませんが。とスピーカーにした通話で進行の人と話してもらって事務所に来てもらった。

　まぁ生放送していたのは確認してたから起きているのは分かっていたし。

「えっと、リン。ここってアニメーション部の心臓部なんだよな」

　ん。間違ってない。

　わたしは原画室のあちこちに視線を送る。そこらかしこにポスターやフィギア、漫画にDVD、各個人には高性能パソコン。あと端に積み上げられた寝袋とケース買いしているカップ麺。

　途中までは完全にオタクの人の部屋だ。

　ここに居る人数としては20人ぐらいだろうか。他にも自宅で描く人も居るからうちの所属の原画マンとしては50人ぐらいは所属していたと思う。

　原画だけでこの人数で他にも動画やら演出やらの人が他にもいる。兼任もいるけど。

「ヘルプの二人ですね。作監を担当している望月(もちづき)です。本日はよろしくお願いします」

　おぉう・・・ゴシック服の人だ。たまに廊下ですれ違って挨拶することはあるけど話したことはない。

「はい。よろしくお願いします」

　えーと母さんは・・・アレ完全に絵を描くことにトリップしてるから声はかけないでおこう。

　＊

「望月さんはなんでゴシック服なんですか？」

「あぁ、目立って他の人と見分け付きやすいからですね」

　簡単に作画の指示を貰って描きながら遥斗が聞いていた。

　ところで、ヘルプで入った人にキャラクターの動画を描かせるのはどうなんですかね。

「あと最近はデジタルになりましたが前はアナログで汚れて目立たない黒の服がゴシックしかなかったというのもあります」

　あれ？うちの事務所のデジタル移行は結構早かったと思うんですけど、この人いつからここにいるんでしょうか。

　若そうに見えますけど、わたしが入るより前には確実にいましたし。

　まぁ年齢は聞きませんけどね。

「こんな感じですが大丈夫ですか？」

「オッケーです。うちの動画マンより早いですね」

　それに絵も上手い。二人に頼むように進言してよかった。と望月さん。あなたですか。わたし達を推薦したのは。

「リンちゃんもそんな感じでお願いします」

「ん」

　わたしは描くのは遅いですからね。遥斗が早すぎるだけです。

「リンちゃんも十分通用する速度ですよ」

　わたしぐらいのスピードで絵を描く人ぐらい結構いますよ。イベントのスケブを描いている人とか相当早いですし。

　＊

　土日に手伝って初めの方は動画の方を描いていたが最後の方は原画まで手伝っていたわたし達。素人に原画までやさせるってどういうことなんですかね。確かにそんなに重要じゃないカットではありましたけど、少なくともヘルプの人がするような仕事じゃないと思うんですが。

　リテイクはありませんでしたけど、本当にわたし達が描いたので問題ないのでしょうか？

　遥斗はアニメの制作に関わることが出来てテンション上がりまくりだったようですが、わたしは絵は本職じゃないんですよ。描けますけど。

「二人共クレジットに名前載せるけど、なんて名前で載せたい？」

「悠里」

「んー、遥斗でいっか」

　わたしは声優そのままの名前で、遥斗はそのまま遥斗で。同人誌に書いている名前も遥斗ですし。

　そもそもわたし達のリンと遥斗という名前も偽名ですからね。

「それでいいんですか？」

「ん？」

　何か問題でも？

「悠里ちゃんって声優で話題沸騰中ですよね？アニメーターまで兼任してるってなるとまた火に油を注ぐことにならないかと思いまして」

　あー、でもそこまでクレジット見る人いますかね？

「意外と見る人は見てるっぽいけど」

　まぁ良いんじゃないですか。アニメ関係はこの名前でいくつもりですし。