【第76話】モデル
「・・・こっち」
スマホのナビを頼りに進む。一応出る前にストリートビューで建物は確認しておいたけど、今回の建物は結構地味だから行き過ぎてしまうかもしれない。
わたしの後ろには正式にうちの事務所所属になった守山さんと、須藤君がついてきている。
「今日って撮影のモデルでしたっけ?」
「ん。そう。卒業式の袴と振袖の撮影」
「あのー僕、声優ですよね。何故・・・」
「男の娘も撮ってみたいと先方が」
うちで依頼を受けた時に言われたらしい。今の時代はジェンダーフリーだ!! とからしい。流石に体格の良い男性だと女性用の袴と振袖が映えないから男の娘がいればというのが依頼だったらしい。
で、まぁ見事にわたしも男だというのはすっかり忘れてそのまま須藤君にオファーという形になったそうな。先方も悠里が大々的に男の娘と言っているのは信じてなかったらしくて男の娘はできれば。という話だったらしいけど。
ところで何故わたしはまた守山さんのマネージャーっぽいことをしているのでしょうか。
今回もわたしはただの付き添いです。
「社長が年齢一緒な方が親しみやすいだろ?とか言ってましたけど」
分からなくもないんですが、わたしアルバイトですよ。この時間もちゃんと給料をくれているのでまぁいいですけど。
「ついた」
本当に特徴のないビルですよね。今回の撮影場所。依頼元もこの時期に結構CMを流す大きめの企業なので大丈夫だと思いますし。
*
カメラマンの人達と名刺交換をしつつ、二人の着替えとメイクを手伝っておく。といっても守山さんの方はわたしが絡むのは色々問題なので須藤君メインですけど。須藤君は着物も着たことがなかったのか手間取っていたから付きっきりでも怪しくはないと思う。
この前母さんにしてもらって自分で締めなおすために覚えた帯の結びをしていると、
「へぇ、上手いね」
着付けの人に褒められた。いや、着付けの人がいるなら手伝って下さいよ。わたしそこまで綺麗にできないですよ。
仕上げは着付けの人が仕上げてくれる。次にメイクだが・・・
「悠里ちゃんお願いできますか?」
・・・そう。名刺交換したからわたしが悠里というのが先方に伝わった。えぇ。すっかり名刺が悠里名義だったのを忘れてました。
やっぱり女の子だったんですね。とは先方の言葉だ。残念ながら違うけど。今日はバリバリにリンの格好なんですよね。
「本職のほうがいいのでは?」
わたし完全に自己流なんで本職のほうが良いと思うんですけど。
「悠里ちゃんのそのナチュラルメイク風フルメイクを須藤君にお願い」
いっ!?
「わかります?」
「うん。でも悠里ちゃんの場合、普通にナチュラルメイクでいいんじゃない?
素顔を見たことが無いので何とも言えないけど。私の経験上問題ないと思うけど」
でも近くで見るまで気が付かなかったよ。と本職の人に言われた。
いや、わたし素顔はあまり自信はないですけど一応男子として通ってましてね。
「大丈夫シミとかそばかすは軽いメイクで消せるから!!」
あっ、これ普通に女子がフルメイクしてると思われてる・・・
「何かマズかったら教えてください」
男子を女子に見せるメイク術は少し自信があるので引き受けますよ。
*
――パシャパシャ
着替えた二人とスタジオに入ると他のモデルさんが写真を撮っていた。
やっぱりモデルさんはスタイルいいですよね。ポージングもしっかり決まってるし、自分が可愛く撮れる角度をよく知っている。
「お疲れ様です」
とりあえずカメラマンの後ろに居た人に声をかける。確かこの前の冬の祭典でうちの事務所の社長と話していた人だ。
「あぁ、お疲れ様。えーと、遠藤さんとこの子だね。確かリンちゃんだっけ?」
「はい」
じゃぁ軽く打ち合わせするからこっち来て。と呼ばれていくつか打ち合わせをする。
というかわたしも聞いておきますけど、二人がしっかりと聞いておいて下さい。わたしは今回モデルじゃないんで。
*
「んー、あと一人欲しいな・・・」
監督がぽつりと呟いた。
監督はさっきわたしが話しかけた人だ。まさかの監督に声をかけていた。ただ面識があったから声かけただけなんだけど。
監督がちらっとわたしの方を見る。
えっと、わたしにモデルをやれと申しますか?
わたしなんかよりスタイルいい人いっぱい居ますよね。あっちのモデルさんのマネージャーさんとか!!
「悠里ちゃん確保!!更衣室にゴー!!」
ちょっ、さっきのメイクさん!?
「絶対、悠里ちゃん振袖似合うと思ってたんだよね!!さっ行こ行こ!!」
この人こんな性格だったんですか!?ちょっと監督!?手を振ってないでわたしじゃない人を指名して下さいよ!?
*
「リーン?これ何かなー?」
・・・遥さん。せっかく黙っていたのになんでわたしがモデルの振袖チラシ持ってるんですか。
遥さんが持ってきたチラシには守山さんと須藤君と3人で一緒に振袖で並んでいる写真の広告だ。メイクでガッツリ顔の印象は変えてみたんですけどやっぱり遥さんには気が付かれますよね。




