【第72話】冬の祭典1
「じゃ、お先」
わたしは朝に着替えて家を出る。結局家族全員冬の祭典に参加ということになっている。全員行動は別だけど。
遥斗とは飯島家で待ち合わせだ。なんか梨花ちゃんも行きたいと言い出して一緒に行くらしい。遥斗がスペース取れてるからそこを集合場所にして回ってもらえれば良いと思う。
*
「あっリン。おはよう」
まだ暗い時間に飯島家につき、スマホでメッセージを送ると遥斗が出てきた。遥斗の後ろには梨花ちゃんがいる。
「おはよう」
梨花ちゃんも。おはよう。
「リンお姉ちゃんおはよう」
楽しみっという気持ちを隠しもしない梨花ちゃんの笑顔にこっちも既に高かったテンションが更にあがる。
「梨花は昨日から何度も言ってるように18禁ブースには近づかないこと」
「はーい」
前に梨花ちゃんがエロゲーしていたことが発覚して何度か家族会議が開かれて今では年齢制限は守ることということで一応の決着がついたらしい。
「梨花は遥とリンちゃんの言うことしっかり聞くこと。良いわね?」
遥斗のお母さんが出てきて梨花ちゃんに注意している。
「分かってるよぉー」
さて電車の時間も近づいていますし、行きますか。
*
「リンお姉ちゃんあの人達なんであそこに並んでるの?」
会場まで付いてわたしと手を繋いだ梨花ちゃんが聞いてきた。あっちは・・・
「入場待ちの待機列」
前の方は徹夜組じゃないかなぁ。わたし達はサークル参加だから、あっちの列には並ばないよ。
「えーと、あっちだあっち」
腕章をしたスタッフがいる方に向かって進む。
「おはようございます」
「おはようございます。サークル参加の方ですか?」
「はい」
遥斗が色々手続きをしているのを聞きながら、今日参加の知り合いのサークルを幾つかリストアップしておく。タブレットでも見れるようにしてあるから色々捗る。
今年もうちの事務所から企業ブース出してるから近づかないようにしよう。巻き込まれそうだし。
「リン、梨花入るよー」
「はーい」「ん」
さてとセッティングしないとね。
*
宅配便で送っておいたダンボールを受け取ってブースへ行き、テーブルクロスや色々準備して・・・あっ終わった。そもそも遥斗のブースはシンプルイズベストだからそんなに準備に時間かからない。
「なぁなぁ、またあそこにいるの先生じゃね?」
そういって遥斗が指差す方向には華岡先生が居た。今日はR18ではないらしい。こっちから声をかけたりはしませんが。
「私これほしいの」
そう言って椅子に先に座っていてもらった梨花ちゃんが渡したタブレットで見ていたサンプルをわたしに見せてくれる。ふむ。場所的には結構近くですね。始まったら一緒に買いに行きましょうか。
――ザザッ
「リンちゃん確保!!」
「は?」
伊佐美さんが走ってきて、音を立てて止まったかと思うとわたしの肩を掴んだ。急な有名声優の登場に周囲の視線が集まる。
「ちょい来て!!」
一体何なんですか。
「遥斗君リンちゃんを最初の一時間ぐらい借りてもええ?」
「えっと、あっはい」
「じゃぁ借りてくわ!!」
わたしの、わたしの意見は!!
*
伊佐美さんにわたしは引きづられるように事務所の企業ブースまで来た。本当に一体何なんですか。
「お願い!! 今日来る予定の声優の子が遅れるって、やけんこのきぐるみの声がないんや」
だから代役お願いっ!! と頼まれた。伊佐美さんの横にはアニメキャラのデフォルメきぐるみがいる。
はぁ・・・
「そんなことなら先に言って。あと中身は?」
アテレコなら手伝うので先に要件言ってくださいよ。
「中身は今守山さんや、あんな人ようけおるところで言ってよかったん?」
あぁ、そっか。そこ配慮していてくれたんですね。だったらありがとうございます。
・・・え?このきぐるみの中、守山さんなんですか?
「守山さん?」
「リンさん。おはようございます」
きぐるみの中から守山さんの声が聞こえてくる。まだ開場まで時間ありますよ?大丈夫ですか?
*
「あれ? リンがなんでここに?」
開場されて姉さんが企業ブースに来た。
わたしはブースの裏に設けられた小部屋から適当にキャラを作ってキャラの声できぐるみに仕込んだマイクから拾った音に対応して返答していく。わたしの持つマイクに声を入れるときぐるみに仕込んだスピーカーから声が出る。即席のシステムの割にしっかり稼働している。
方法はこっちはスマホのハンズフリーできぐるみ側はスマホのスピーカー音最大にすることで即席システムとしている。ちなみに両方共社員の社用スマホだ。
近くに居た社長が姉さんに説明をしてくれた。
「いよいよ声優の代役務めだしたかぁー」
「緊急時のみ」
余程切羽詰ったときでないと受けませんからね!!
常に当てにされても困るので、本当に緊急時のみですから!!




