【第68話】執事喫茶
「執事喫茶にいってみたいんや」
「はい?」
伊佐美さんなんでその話題でわたしに振ってきたのでしょうか? 正直なところ、わたしそういったお店は詳しくないんですけど。
「一人で行けませんか?」
「行けへん」
そんな自信満々に答えなくても・・・
「しかし何故?」
「なんか妹がそこでバイトしとるらしくてなぁ」
そういうのは身内に来てほしくないんじゃないですかね。
「何処?」
「ここらしいんや」
と伊佐美さんのスマホで見せてもらったのは前に遥斗がアルバイトしていた執事喫茶。ここなら女性のスタッフも多いらしいので安心といえば安心ですね。
そういえば遥斗のアルバイトは春休み限定だったのだろうか。最近土日に誘っても断られることがないからバイトはしてないものだと思うんだけど。
「行く」
「一緒に来てくれるん?」
「ん」
伊佐美さんにはいつもお世話になってますし、それぐらいならいくらでも付いていきますよ。
*
「お帰りなさいませ。お嬢様方」
執事喫茶でそう言って迎い入れてくれたのは執事服を着た女性の人だ。
「ん。よろしく」
わたしは遥斗がいる時に一応作った会員カードを渡す。その後席に案内してくれて、椅子を引いてくれる。
わたし達が座ったのを確認した執事さんはわたしにメニューを渡して、別の客の接客に向かった。
「何食べます?」
「えっと、おすすめで」
じゃっパンケーキですね。わたしはハニートーストで。
伊佐美さんはキョロキョロと店内を見回す。多分妹が居ないか確認してるんだろう。ちなみにシフトは確認して来てるんですか?そもそも出勤日でないと居ないと思うんですけど。
わたしもチラリと店内を見回して・・・いや、なんで遥斗がいるのか。まだバイトしてたの? 遥斗と一瞬目が合う。あっちもこっちを見て一瞬固まる。まぁ今回はわたしいつも通りのリンの姿ですからね。伊佐美さんには眼鏡で少し変装してもらっていますが。何しろ色々顔出ししている人なんで場合によっては騒がれるので。
机の上に置かれていたハンドベルを鳴らして待機していた執事さんを呼ぶ。
さっき選んだ注文と、適当にドリンクを注文しておく。
「かしこまりました」
執事さんが丁寧に頭を下げて裏の方へ引っ込んでいく。
その時に一瞬伊佐美さんの方を見て固まる。ファンと言った固まりかたではなく、何と言ったら良いんだろうか。知り合いを見かけて驚いていると言った感じだった。
ということはあの人が伊佐美さんの妹さんか。伊佐美さんは気が付かずにそのまま店内を見回しているけど。
「節穴」
ぼそっとつい呟いてしまった。まぁ伊佐美さんには聞こえていないようですけど。
「はい。リンどうぞ」
注文していたパンケーキとハニートースト、ドリンクを遥斗が持ってきた。
折角なら執事らしくしてくれませんかね。まぁわたし達は執事目当てじゃないのでいいですけど。
「あれ?遥斗君?」
「どうもこんにちは」
もう遥斗も慣れたね。昔は伊佐美さんの前で固まってたのに。
「遥斗君もここでバイトしとったんや」
「はい。今日は臨時ですけど」
今日はホールが少ないとヘルプが入っちゃいまして。と遥斗と伊佐美さんが話しているのを聞きつつ、いただきますと一度手を合わせてから、わたしは細かく切られた温かいトーストをフォークに挿してアイスを乗せて頬張る。温かい食べ物は温かいうちに食べるのが美味しいんですよ。
「んー!!」
温かいパンの上に乗った冷たいアイスが溶け出してパンに絶妙な甘みを加えて、少しビターなチョコソースが甘みを引き立てる。
うまいっ!!これは執事目当てじゃなくても通いたくなりそう。ただ家から遠いからあんまり来れないけど。
なんで二人はわたしのほうを見て固まってるんですか?
「いや、ねぇ?」
「ねぇ?」
二人してなんですか・・・
*
「で、伊佐美さんは妹さん見つかった?」
わたしはこっちから離れて給仕をしている多分伊佐美さんの妹さんを目で追いながら向かいに座る伊佐美さんに聞いてみる。
「ぜーんぜん。やっぱりシフト違ったのかな」
あってますよ。バレたくないからこっちに来たくないだけだと思います。たまにこっちを見てやばーといった顔しているんで逃げているだけかと。
というか伊佐美さんも妹さんをさっさと見つけてあげてくださいよ。
*
「お姉ちゃんなんで今日お店に来たの!!」
結局店で見つけることが出来ずに伊佐美さんが妹さんをスマホで呼んで、妹さんが待ち合わせの場所に来た。服装は執事服じゃなくてよくいるようなパンツ姿の女性だ。一緒に来た遥斗みたいに男装じゃない。まぁ遥斗は見慣れてるけど。
んー、やっぱりあの逃げてた子ですね。
「加奈バイトいたん?」
「してたよ!!お姉ちゃんからは逃げてたけど」
「ひどっ!!」
普通家族にバイト先の様子は見られたくないですよね。
わたしは家族と同じ職場なので見られまくってますけど。