【第63話】スカウト
わたしは駅で遥さん、いや今日は遥斗を待ちながらソシャゲをタップ。ここにくるまでにスタミナは回復してるから一回は回れるはず。
ちょっと今日は早く家を出過ぎた。
「すみません。今お時間よろしいでしょうか?」
「ん?」
わたしがスマホをタップしていると、横に人の気配が現れ声をかけられた。もうちょっと待って。今、目が離せないから。
スマホをタップタップ。よし、突破。報酬を確認してスマホを片付ける。
そして人の気配するほうに顔を向ける。爽やかダークスーツ姿の男性だ。年齢は30半ば。少し長めの髪を後ろに流している。
「で、何?」
「お忙しいところすみません。私こういう者です」
そういってわたしに名刺を渡してきた。ちゃんと社名に住所、ホームページまで書いてある。
ふむ。芸能界のスカウトさんですか。名前は佐伯さんですね。
「急で申し訳ないんですが、芸能界に興味ありませんか?」
「ない」
そもそも、わたしは表に出たくない。
「では、モデルとか興味ないですか?」
「ない」
「君ならモデルでも全然いけると思うんだ!!」
何故わたしに声をかけてきたのか知りませんが、どうせなら本当の女性に声かけてください。
あと・・・
「遠藤社長はお元気ですか?」
「えっ・・・社長をご存知なんですか!?」
まぁ同じ事務所ですからね。なんで同じ事務所のスカウトマンが所属済みの声優をスカウトするんですかね? 確かにわたしはリンとして表には出ていませんが、リンとしてはよく事務所には居るんですが・・・この佐伯さんも見覚えが微妙にあるんですよね。芸能部門とは別のビルだけど、社長が基本的にアニメ部門にいるから結構芸能部門の人たちもうちのビルにはよく来る。確か佐伯さんは今年の中途採用の人だったはず。
「社長にはそれなりにお世話になっています」
周りに聞こえない声の大きさで色々と声色を変えて返答する。佐伯さんは目を見開いてわたしを見る。声で気が付きましたか。
「いっ!?悠里さん!?」
「ん。というわけでスカウトは別の人に」
「あぁ・・・これはすみません・・・」
「別にいい」
わたしにはスカウトマンの苦労は分からないけど、こんな休日の駅で張ってるのはどうなんですかね?大体渋谷とかそっち行きません?
*
「君芸能界興味ない?」
別の日、わたしが仕事で少し時間に遅れて待ち合わせの場所の駅に向かうと遥斗が佐伯さんにスカウトを受けていた。男子でも女子でも見境なく声かけてるんですね。
わたしのイメージとしてはスカウトって金の卵を見つけるのが目的で手当たり次第行うものじゃないと思うんですけど。選んだ結果わたしと遥斗に声をかけたのなら別にいいんですけど。
遥斗がわたしに気が付いてヘルプと目線が来る。まぁ遥斗はスカウトに慣れてないですからね。わたしも慣れてませんけど。
「佐伯さん。どうも」
佐伯さんを後ろからちょんちょんとつついて声をかける。
「うぉっ!?ゆ「リン」」
悠里といいそうになったのをリンと訂正しておく。こんな往来の多い所で悠里とは呼ばれたくない。
「あれ?リン知り合い?」
「うちの事務所のスカウトマン」
多分名刺だって貰ったでしょうに。そこにちゃんとわたしの所属先の事務所名が入ってる。
「知り合いですか!?」
「ん。彼氏」
今リンだし、遥斗は彼氏でいいでしょ。
遥斗も頷いている。それでいいんですね。
「あと、既にうちの事務所からCDデビュー済み」
「うわっまたか!!」
はい。また所属済みの人をスカウトしようとしてました。まぁ見た目は全く違いますけどね。
社長に確認したらスカウトにノルマはないはずなんですけど、何故毎週スカウトしているんだろうか。
*
「よろしくお願いします」
仕事ついでに社長に呼ばれて社長室でお茶汲み。なんでわたしがと思ったけど、社長と対面している人を見て納得した。
社長と対面で座っているのはスカウトマンの佐伯さんと、クラスメイトの守山さんだった。
高校名を聞いてわたしを呼んだんだろう。流石にわたしの高校名は言わないと思うけど知り合い?という感じで呼ばれたんだと思う。
知り合いですけど知り合いじゃないです。
「リンちゃんもこっち座って」
社長が横のソファーをポンポンと叩きながらわたしを呼ぶ。
何故わたし?
「同年代がいたほうが安心するんじゃないかな?と」
まぁそういうことなら座りますが。
それにしても最近佐伯さん遭遇率高いですよね。スカウト以外にも両親に弁当を届けに来た際にも会いましたし。
「えーと、守山 佳織さんだね」
「はい」
社長が履歴書を持って色々確認する。
「高校では演劇部。公演を観に行った佐伯君がスカウトしたと」
佐伯さん演劇部の公演まで見に行ってるんですか。どれだけスカウトしたいんですかね。
「うーん・・・うち演劇はやってないんだよね」
「ですが、ドラマではいけるかと」
佐伯さんは守山さんに演技力を見込んだらしい。
「私なんてまだまだです。演劇部じゃないクラスメイトに一回見ただけで完璧に演じられる人がいたので・・・」
それわたしのことじゃないですかね。




