【第57話】夏休み4
わたしは自室で姉さんから送られてきたダンボールをあけて固まった。
声優の仕事が終わり家に帰ると丁度宅配便の人が居たから受け取り、宛先がわたしの名前だったからリンのまま開けた。
普通に名字はそのままだからリン宛でも住所さえ合ってればうちには届く。表札も名字しか出してないからね。
「これ・・・」
わたしはダンボールの中からその紺色の布を取り出して広げる。
うぁ・・・まじで姉さんは何を考えているのか。
――ブブブ
リン用の携帯に着信だ。ディスプレイには『鈴木 麻美』。これは狙ってかけてきた気がする。
「はい」
『リンー私からの荷物届いたー?』
「届いた」
本当になんでこんなのを送ってくるのか。
『着た写真送ってくれない?』
「なぜ」
わたしは着たくない。
『私が見たいから!!リンのスク水!!』
えぇ、そうです。姉さんから送られてきた荷物の中身は紺のスク水ですよ。多分サイズもわたしに合わせられてるんだと思う。
「着ない」
着ない。着ないったら着ない!!
『えー、スック水!!スク水!!』
姉さんはスク水に何か思い入れでもあるんですか!?
「着ないから!!」
電話を切る。そしてもう一度スク水をダンボールから取り出して・・・
「まじでわたしのサイズじゃないですか」
確かに姉さんにはわたしのサイズを教えてますけど、スク水はいらない。
――ブブッ
『スク水!!』
なんで姉さんはそんなスク水に執着心があるんですか!?
*
「で、着たの?」
・・・ちょっとね。でも写真は撮ってない!!撮らないから!!小さな胸で寸胴と言えるわたしの体型だと物凄くロリっぽくて似合ってたけど、絶対にあれで人前には出ないから!!
ちょっとリンが出てきたけど今日は素だ。
夏の祭典で早乙女さんと話したようによく集まるメンバーでプールにいく予定で遥さんとは駅で落ち合った。
リンで来たとしても、流石に女子更衣室は入らないし、入れな・・・えっと、あぁうん。ごめん。更衣室入ったことあったわ。リンの時に普通に連れ込まれたことがあった。わたしの意思で入ったわけじゃないし、一緒に居た人もリンが本当は男だと知ってたからノーカン、ノーカン。
「まぁ私はメンズの水着は無理だからなぁー」
ほぼぺったんこと言っても胸を晒すのはね。と肩を竦める遥さん。
俺は着れなくはないけど流石にな。
「ふふーん。この日のために水着新調したんだよーお楽しみにー」
「ほぅ。それは楽しみだ」
俺のは数年前に買った水着だけどな。
スク水は持ってきておりません。
「すずっちー、はるさーんこっちこっちー」
早乙女さんだ。
早乙女さんの他にも近藤と柊さん、ツバサちゃん、真奈ちゃんがいる。ツバサちゃんたちはイベント会場で誘ってみた。皆、ちゃんと性別通りの服装だ。
ツバサちゃんと真奈ちゃんは俺達が屋上で集まっていることを知ってからちょくちょく来るから近藤と柊さんとも面識がある。
須藤姉弟も呼ぶかどうするかというのは考えたけど、一応俺が告白されて振った形になるから止めておいた。アカネちゃんはそもそもライブが連日入ってると聞いているから仕方ない。
「では、プールへ向かってレッツラゴー!!」
早乙女さんそのネタ古い。
*
今日来ているメンバーで俺がリンだと知らないメンツは近藤と柊さん、真奈ちゃんだ。
そしてツバサちゃんや社長の反応からして俺が眼鏡を外すとリンに見えることは明らか、ならどうするか。目を細めてリンのぱっちりとした目とは別の目にすることである程度の印象操作と度入りゴーグルで目を隠す。
これでリンだと分からないはず!!事前に遥さんに確認してもらった感じでは問題なかった。現に着替えたところでは全然ツッコミは貰ってない。
メンズの水着と薄い水色のパーカータイプのラッシュガードで日焼け対策をして屋外プールに出ると、平日に来たお陰かそこまで人はいない。
女性陣は・・・まだか。着替えるのに時間がかかるのは分かってる。この前スク水着たときも思ったより時間がかかった。
あと日焼け止めかな。俺もウォータープルーフの日焼け止めを塗ってきた。
適当にプールに出てきてすぐの見える日陰の下に陣取ろうか。まずは女性陣を待たないとな。
「すみません。背中に日焼け止め塗って頂けませんか?」
ツバサちゃんが日焼け止めを持って頼んできた。おーけー。
「あっ佑樹が彼女差し置いて男の娘に日焼け止め塗ってるー!!」
遥さん・・・分かっててからかってるでしょアナタ。
あと、最近遥さんの自分の男状態の呼び方が名前になった。なんとなく今まで名字で呼んでいたらしく、なんで名字呼びだったんだろう?と首を傾けながら聞かれたけど、知りません。
声が聞こえた方を見ると女性陣が来ていた。
この中だと早乙女さんが一番胸が大きいな。次点で真奈ちゃん。男装組は一応あるという程度。
なんで皆さんビキニなんですかね。目のやり場に困るだろ?近藤が。今も近藤は柊さんとプールにせわしなく視線を動かしている。
「よし。終わりっ」
さて一泳ぎするかー




