【第50話】司会のオシゴト
「そういやこんなメールが来たんだが」
そういって近藤が見せてきたのは、この前投稿した動画サイトの運営からのメールだ。
内容としてはオフ会イベントするから来ませんか?というお誘いメールだった。
あー・・・それねぇ・・・悠里にオファー来てて、露出したくないといったら天の声でいいですから!!と言われて渋々オファー受けた。
というか社長が乗り気で、受けて受けてと目線で訴えてきた。仕事中にイベント参加出来るなんて最高!!とか言ってたけど、社長ついてくるんですかね。
「どうする?」
「俺バイト」
そのイベントのな!!遥さんが俺の内心を感じ取ったのかまさか。といった顔をしている。そのまさかなんだ。
女子二人は行けるっぽい。というか行けないのは俺だけか。
早乙女さんは別口からの招待を受けているらしい。まぁ早乙女さんは色々やってるからな。
「1人居ないけどどうなんだろ?一回聞いてみるか」
*
「今日はお願いします。悠里です」
この前買ったボーイッシュな服と前の公開収録で使ったロングウィッグをかぶって、社長の車で会場入りする。普通に社長がマネージャーっぽく付いてきた。
わたしは車の後部座席に放り込まれているコス衣装なんて見てない。見てないったら見てない。
声は少しハスキーな女声でとりあえず固定。
「今日はよろしくお願いします」
スタッフの人が駐車場から案内してくれる。
社長車から取り出したそのスーツケース何が入ってるんですか。
「遠藤さんもコスプレ参加ですか?」
「あぁ。あとこの子の付き人だな」
社長に付き人されるアルバイトってどうなんですかね。あとスタッフの人と社長は知り合いですか。そうですか。
やっぱり社長コスプレしに来てるんじゃないですか、わたしの付き人があととか言っちゃってますけど。きっとおそらくそのスーツケースの中身はコスプレ用品ですよね。
「ここが悠里さんの控室になります」
「あっ、はい。ありがとうございます」
意外とちゃんとした控室だ。こういったイベントだったらただ大部屋に間仕切りだと思っていたけど、普通に個室だった。
「ここで着替えていいか?」
「別にいいですけど、女子の部屋で着替える男と思われても知りませんよ」
わたし普通に女子と思われてるみたいなんで。
「あー、そうか。そうだったな」
あーでも。と社長は持ってきていたスーツケースを開けた。
やっぱりコスプレ用品満載じゃないですかそのスーツケース。車の中には他にもコス衣装ありましたし。
「リンちゃんメイクお願い」
えー。なんでわたしなんですか。
わたし女装メイクは出来ますけど、今日社長がコスプレしようとしている渋めのおじさまメイクは出来ませんよ。
*
「おはようございます。本日天の声で司会をさせて頂く悠里です。
本日は皆様よろしくお願い致します」
一応今日の主演者に挨拶しておこうと思い、スタッフの人と出演者である動画投稿者の控室にやってきた。こっちは大部屋なんだ。
「まじ!?まじ悠里ちゃん!?」
「はい。悠里です。本日はよろしくお願いします」
ころころと声を変えながら答える。
あまり露出していないから声で判断してもらうしか無いけど、色々声を変えすぎていてどの声が悠里なのか判断つかないとは良く言われる。
ざわざわと控室のあちこちでまじで、まじっぽいという話がされている。
意外と出演者多いなぁと思いながら、全員を見ていると遥さん達が居た。いや、なんで近藤と柊さんは女装と男装してるんですかね。普通に馴染んでますけど。
遥さんが小さくこっちに手を振ってくる。小さく頷き返しておく。一応わたし悠里として来ているんでね。
あと、3人でも参加可だったんですね。
「じゃぁ一旦段取り確認させてもらいますので、グループの代表の方はこちらの方にお集まり下さい」
スタッフの人がバインダーに挟んだ紙を見ながら人を集める。
遥さんのグループからは近藤が代表で、早乙女さんも代表の集まりに居る。早乙女さんはボカロPの合作グループの代表らしい。
なんか早乙女さんがこっちみて頭を傾げている。
「では、まず悠里さんから天の声で開始を合図していただきまして・・・」
*
――トントン
代表の集まりが終わり、サインを依頼された数人にサインをしてから、さてわたしも控室に帰ろうと動画投稿者の控室を出て控室に向かって歩いていると肩を叩かれた。
「はい?」
振り返るとそこにはにやにやとした顔の早乙女さんが・・・あれ?なんか嫌な予感がする。
「すずっちでしょ?」
わたしの素とリンの関係に勘で気がついた早乙女さんだ。流石に悠里の姿だったら即バレレベルですよねぇ・・・男に寄せる関係で素に寄ってるし。
「正解」
「やっぱり!!リンの方と似てたし、そうじゃないかなーとは思ったんだけど」
えぇ・・・リンの方に似てますか?
「内緒で」
「分かってるよー」
じゃぁ仕事頑張ってーと早乙女さんは控室に戻っていった。




