【第339話】葵2
「はい。カットー」
お父さんがカットの合図が出して、私はマイクの前から外れて、次の声優さんに変わる。
「葵ちゃん。ますますリンちゃんと似てきたなぁ」
伊佐美さんが、移動した私に声をかけてきた。お父さんと似てきたって言うのは、姿のこと? 声のこと? 私もお父さんほどのレベルじゃないけど声は色々使えるから、いろんな役はやらせてもらっている。
「両方やなぁー姉妹に間違われるんやろ?」
「あー、この前も間違えられたっけ」
ほ、ほら親子は似るって言うし不思議じゃないって。街歩いてたら姉妹によく間違われるけど、私はお父さんに似ているとは思う。
「親子で似るレベルやなくて、双子の方やけどな」
双子ほどにてるかなぁ? まぁお父さんと似ているって言われるのは嫌いじゃない。むしろ嬉しい。だってお父さんに似ているってことは相当整ってるってことだからね。たまにお父さんのほうが妹として思われるのはちょっとどうかと思うけど。身長は家族で変わらないし、服も融通しあってるところがあるから服の趣味も似たり寄ったりでさらに姉妹感が出るんだと思う。
「監督ーここなんですけど、どんな感じがいいですか?」
一人の声優がお父さんに台本を片手に聞きに行った。
「確か、藤堂先生が言ってたのはこんな感じ」
と、お父さんは声色を声優さんの声にして台詞を言って、声優さんも何度か発声して、内容が決まったみたい。
「ありがとうございます!!」
忘れないように何度か発声しながら声優の人は待機のソファーに座った。
藤堂先生と女優の沙苗さんとも私達は付き合いがあって、それなりに親しくしている。最近藤堂先生のお子さんの男の子がお父さんに惚れているとか聞いて藤堂先生から愚痴られた。お父さんは人妻なんだから諦めてとかいうパワーワードが藤堂先生から出て違和感のなさに頷いちゃった。
「ほんま、リンちゃんも監督が様についてきたなぁー」
私の横で伊佐美さんがしみじみという。お父さんは昔から声優に作画、歌に女優のマネージャーをしていて最近監督もするようになった。色々な現場を知っていて伝手もあるからか色々迅速にことが進んでアニメのクオリティもアップ。お父さんの名前はさらに広がった。それでもほとんど定時に帰るし、家だとご飯だって作ってくれる。いつもありがとう。お父さん。まぁいつも言ってることだけどね。
ーーーブブブ
私のスマホがポケットの中で振るえる。この振るえ方はメッセージの方だ。
「葵。動画の方手が空いてたら手伝ってだって」
私より先にスマホを見たお父さんが私に言ってくる。私もちらりとスマホを見て家族グループにお母さんから来てた。
「はーい。もう私の所ないよね?」
「ん。ない」
お父さんはパラパラと台本を捲って言う。というか、私がしなくてもお父さんが代役をすぐ出来るし問題ないか。あと代役で思い出したけど、一時期声優の産休、育休は悠里に依頼とかいうなんか変な言葉が声優の中で流行ったこともあるらしい。
「じゃぁ、下行ってくるね」
「ん。よろしく」
私も昔からお母さんから色々絵も教えて貰ってるからそれなりに自信があるんだよね。
*
「はる兄来たよ」
あっ、はる兄はお母さんのことだからね。なんでそう呼んでいるかはお父さんと一緒な理由。だって、見た目普通に二十代のお兄さんだし。お父さんは女子高生でも通るし、お母さんは年齢詐欺のお兄さんだし、うちの家庭はほんと意味不明。私にも遺伝してるなら、いつまでも私若いままな気もする。それはそれで嬉しい。
「おー、いつものパソコン使ってあとはいつものようによろしくー」
「りょー」
私の今回のカットはどこかなぁー。あっ、さっき声録ってたところだ。録るとき紙芝居だったし、こっちはこっちで進んでたんだ。
「遥斗さん。作監お願いします」
「おー、30分で見るわ」
「お願いします!!」
お母さんも大学生の時からここで働いていて、今は作監でもあって原画描きで私の絵の師匠だ。あとなんかたまに声優もやってるし歌も歌ってる。お父さんとお母さんの職業が分からない。私のアルバイトもどっちがメインかちょっとわからないけど。
「葵ちゃん。早いですね」
ほぼ私の席となっている席の横に座る今年入社の人にに私の作業を覗き込まれて言われる。
「まー、小さいころからやってますから」
実際絵は幼稚園の頃からアニメに使われてた。たまにある子供のころの回想で使われていた子供の描いた絵は一時期私の描いた絵だったし。
「じゃぁ遅れ取り戻しますねー」
さぁ、がんばろっと。貰った仕事は精一杯やるよ。お父さん、お母さん仕込みの声と絵で一芸出来たし私も将来はここに就職って形になるのかな?
*
「ただいまー」
「おかえり」
一緒に家に帰ってきたお父さんが隣から言ってくれる。お母さんはまだちょっと仕事が残ってるらしい。リテイクのフォローとか言ってた。
手を洗ってお父さんに洗面所を明け渡す。お父さんがメイク落とすからね。メイクなくても十分リンねぇなんだけど習慣になってるらしい。昔はウィッグだったらしいけど今はお父さん地毛だしもうリンねぇの姿の方が地だよね。あんまりお父さんが男の格好してるイメージないかも。
「洗濯物取り込んでおいてくれる?」
「はーい」
ベランダに出て洗濯物を見る。私の服とお父さん、お母さんの服が干されているのは良いんだけど、レディースの方がお父さんが昨日着てた服っていうのが笑える。取り込んで畳んで服はクローゼットに下着は分けてボックスに入れておく。服は別に誰のって感じで分けてない。分けたって結局共有するから分ける必要がない。
共有してて思うけど、思春期にお父さんを嫌いになって共有が嫌だとか言う人いるっぽいんだけど・・・私には分からない。だってお父さんであってお父さんじゃないし・・・
「ご飯できたよー」
キッチンからお父さんの声が聞こえる。
「はーい!!」
今日はカレーだ!! やった!! 私はウィッグを外して自分の部屋に放り込んでから1階に降りた。
完結に変更します。




