【第333話】お仕事2
「さーさーさー」
守山さんがわたしの背中を押して、ずんずんとホテルの中を進んでいく。迷わず進んでいくけど、守山さんここ来たことあるんですか? わたしは入ったことないので全然どこに何があるのかわかってないんですけど。
「大丈夫、大丈夫」
そう言いながらも守山さんはわたしの背中を押していく。押されてエレベーターに乗り込んで、守山さんが階を選択する。
「ついたよ」
向かった先は控え室のような場所。なるほど、ここで守山さんが着替えたり、メイクしたり準備するんですね。
わたしと守山さんは二人でその部屋に入る。中にはすでにいつものメイクさんがスタンバっていて、トルソーには守山さんが着るだろうウェディングドレスが二着、飾られている。
うん・・・?
「二着あるけど?」
途中で衣装替えとかするんですかね? いまいちどういったカットを撮るのか分かってないんですけど、二着も用意する必要があるんですかね?
「そっちはねー」
「リンさんの分ですよー」
守山さんとメイクさんが二人でわたしに言ってきた。この二人、ほぼ固定で組んでいるからか息がぴったりですねって・・・
「は?」
いやいやいや、なんでわたしが着るんですか!? 両方とも可愛い感じのウェディングドレスですけど、わたしが着る意味が分からないんですけど。
「今回のカットなんだけど、一度別会場に入るっていうのがあってねー」
「その別会場でやってる結婚式をリンさんにやってもらおうって話になってるんですよ」
聞いてないんですけど。
「そりゃ言ってないし」
「言ったらリンさん出てきてくれないだろうしねー」
佳織ちゃんグッジョブ。とメイクさんがわたしの肩をつかんで離さない守山さんに言う。この二人というか社長含めてグルだったってことですよね。いつから仕組んでたんですかねぇ・・・
「ささっ、リンさん着替えましょーねー」
「大丈夫!! 撮影は後ろ向いていてもらうだけだから!! 顔写らないし!!」
えぇー・・・それ女優さんとか暇そうなアイドルさんとか使ったらよかったんじゃないですかね。
「まぁまぁ」
守山さんにメイクさんの方に押された。
===>
「このホテルでいいのか?」
木村君の案内でホテルの車寄せに車を入れながら聞く。ここ相当有名なホテルなんだけど、本当にここで撮影してるんだろうか。
「はい。今日はここですね」
ふぅん。室内の撮影なのにセットじゃないのって珍しいんじゃないか?
「で、駐車場ってどこだ?」
「あそこじゃないですか?」
地上駐車場か、確かここ地下もあったと思う。出来れば地下に停めたい気もするけど、まぁいいか。
「なぁ俺って一緒にいたほうがいいのか?」
「お願いします」
一人だとまだ不安で・・・と木村君が言う。まぁ一緒にいるのはいいんだけどさ。
「俺、リンほど慣れてないぞ」
リンはこういったマネージャーっぽいことはよくやってるけど、俺は全然しないから要領分かってないんだが。
「それでもいてくれるだけで心強いんで、お願いします」
分かった。分かった。居てやるよ。まずは車停めないとな。
*
「木村さんこっちです!! こっち!!」
ホテルのロビーで一人の男性が木村君を見つけると手を振って呼び寄せた。きっとこの人が急遽木村君を呼び出した人なんだろう。
「おっ君が遥斗さんだね。僕はディレクターの山田といいます。今日はよろしく」
「え? あ、はい。よろしくお願いします」
なんで俺の名前知ってんだこの人? 少なくとも俺は知らないんだが・・・
「それじゃぁ、控室のほう案内します」
こっちです。と先を行く山田さんを追いかけて移動し始めた。俺達もついていく。
*
「じゃぁこの部屋で着替えとメイクやりますね」
どうぞ。と山田さんが扉を開けて案内してくれる。そういや、木村君が今日どんな撮影なのか聞いてなかったんだけど、どんなカットを撮るんだろうか。
「えーっと、じゃぁ木村さんはこっちに着替えてね」
と、山田さんは木村君に、ハンガーにかかっていたタキシードを渡した。ブラックスーツに白のシャツとかで、後ろが長いから燕尾服っていうのになるんだろうか。それなりに絵を描くときに資料は見てるけど、そこまで詳しくはない。多分祐樹のほうが結婚式で着る物についてしっかり調べてたから詳しいはず。
「あと、遥斗さんはこっちな」
そういって俺にも、山田さんが黒い服を渡してきた。
「えっ?」




