【第332話】お仕事
「リンちゃん今日は守山さんのマネージャーについて行ってもらえる?」
「ん」
出社したら、既に総務部の部屋にいた社長に言われた。まぁ出社する前にメールチラ見してるから知ってたけど。
「よろしくねー」
社長と一緒に部屋にいた守山さんも軽く手を挙げながら言ってくる。
「マネージャーさんは?」
「今日は別件頼んじゃったからな」
こういう時、代わり出来る人いるから色々仕事が回って助かる。と社長が言う。まぁ確かに色々出来る人がいたら助かるのは分かるけど、わたしがその役割になるとは思わなかったですけどね。
「何時から?」
「えーっと、午後からだから、朝は私もリンさんの仕事手伝うよ」
えーっと、守山さんに回せるような仕事あったっけ? 今出来ているところまでの確認ぐらい? 確か何カットか上がってきてて確認依頼来てたから頼もうかな。
「おっけー」
「じゃ、お願い」
依頼メール転送しますね。
「えっと、どこでしたらいい?」
「んー、ここでも作画室でも」
作画室にだって予備の机と椅子はあるから守山さんが来ても大丈夫なようになってるけど、女優の守山さんが来てほかのアニメーターさんが戸惑わないかというのがちょっと気になる。仕事に集中してて気が付かれない可能性もあるけど・・・
「じゃ総務部で、やってもいい?」
「ん、じゃ、わたしもここで」
「俺は作画室行ってくるなー、打ち合わせもあるし」
遥斗は作画室の方に行くらしい。
「ん」
「いってらっしゃーい」
遥斗が部屋から出て行った。
「じゃ、リンちゃん午後からよろしくな」
そう言って社長も部屋から出ていく。
「で、私は何見たらいいの?」
はい。教えますから、ちょっと待ってください。パソコン起動したはいいんですけど、まだメーラーが動いてくれないので。
*
「今日ここ?」
「そうそう。ドラマの導入の撮影なんだけど」
助手席に乗り込んだ守山さんがカーナビを操作して指定されたとおりに走って辿りついたのは、とあるホテル。わたしでも聞いたことがある有名なホテルの一つだ。このホテル何階建て何だろう。見上げただけでは階数が分からないぐらい高いし、横にも大きい。
「何のカット?」
「結婚式よ。私がウェディングドレス着るんだよねー」
前の遥ちゃんのドレス姿可愛かったなぁーと守山さんはいう。きっとこの前のわたし達の結婚式を思い出してるんだろう。
「じゃっ、入ろっか」
そういって守山さんがわたしの手を取って、ホテルの中に引っ張っていく。なんか立場が逆な気がするけど、気にしないことにする。
*
「守山さーん。お願いしまーす」
スタッフの一人が楽屋になっている客室に守山さんを呼びに来た。
「じゃ、リンさんも一緒に行こ」
「ん」
といっても、わたしが行ってもやること特にないんですけどね。守山さんのウェディングドレスを着付けできるわけじゃないですし。
「大丈夫。大丈夫。リンさんに頼みたいこともあるから」
そういって守山さんがわたしの背中をぐいぐいと押して部屋から出ようとする。わたしに頼みたいことって・・・メイクとかですかね?
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「遥斗さん。今ちょっといいですか?」
俺が原画室で原画を描いていると、後ろから木村君が声をかけてきた。木村君今日こっちにいるんだ。
「どうした?」
描いていた手を止めて、椅子を回して木村君に向き合う。木村君はちょっと申し訳なさそうな感じで後ろに立っていた。
「遥斗さんって今日時間取れたりしますか?」
「んー、これ描き終わったら明日でもいいカットだな」
振り分けられるカット数は正直多いけど、そこまで無理な量でもないから余裕はまだある。
「じゃぁ、ちょっとお願いがあるんですけど」
「内容によるかなぁー」
流石に俺の手に負えない物だったらどうしようもないんだけど。
「今日急遽撮影の仕事が入ったので、車出して欲しいんですけど・・・」
他の人に頼みにくくて・・・と木村君は申し訳なさそうに言う。あー、ここアニメ部門だからマネージャー擬きの仕事が出来る人あんまりいないし、木村君もそれなりに有名だと言っても、まだ入社一年目だから、全く絡みのない人に頼みにくいんだろう。
えーとっ、残りの原画の枚数はっと・・・
「30分後に出発でいいなら車出せるけど?」
あっ、でもうちの車ってリンがキー持ってるし、今日守山さん連れて行ってるから今車ないんだった。
「車は社有車を俺の方で鍵貰って来ます!!」
木村君の方で車を用意してくれるなら、全然オッケー。
「じゃっ、30分後にロビーで」
「はい!! 鍵借りてきます!!」
木村君はささっと原画室から出て行った。
じゃっ今のこの仕事終わらせちゃおっと。




