【第327話】海2
「あ、あの!! 写真良いでしょうか!!」
海で皆で一泳ぎしてお昼ご飯のために海から上がって海の家に向かっていると、伊佐美さんが声をかけられた。多分ファンの人だろうか。
まぁちょっと変装していると言っても海だからしっかり変装しているわけじゃない。水着だし、海に入るからメイクもがっつり出来るわけじゃないし。まぁ見つかるよな。
「ええよー」
伊佐美さんもそれに答える。まぁ伊佐美さんは結構ファンサービスいいからな。むしろ悠里は悪い。悪いというか、ファンと出会う機会が少なすぎてファンサービスすることが殆どないといったほうがいいと思う。
「伊佐美さん有名だなぁ」
平日の昼間でもこうやって声をかけられるぐらいだしなぁ。知名度は俺らの中じゃトップクラスだ。
「いや、鈴木も知名度凄いから・・・」
皆気が付かないだけで。とアカネ君が言う。そうは言ってもなぁ。実感湧かないな。
「一回あっちの姿で出歩いてみたら?」
「ちょっとそれは勘弁」
悠里の姿で外を出歩くつもりはない。悠里はイベントと仕事用だ。
「伊佐美さんと負けず劣らずの人気だと思うよー」
うんうんと言いながら遥さんは腕を組む。
「後滅多に出会えないってのも、レア度高めですよね」
とアカネちゃんまで言ってくる。まぁ悠里はレアキャラ感あるのは分かる。
「おまたせ!! 行こか!」
伊佐美さんのファンサービスが終わったようだ。じゃぁお昼ご飯食べに海の家行きますか。
*
「すみません。写真良いでしょうか?」
「ええよー、ご飯食べ終わったらなぁー」
また伊佐美さんが声をかけられた。本当に伊佐美さん人気だなぁ。でも、ご飯食べてる時にそう頼んでくるのはどうかと思う。比較的伊佐美さんのファンはマナーがいい方だと思うけど、ひどい所は酷いんだろうなぁ・・・
「ちと失敗したかなー、平日やけん大丈夫やと思ったんやけど」
伊佐美さんが苦笑しながら言う。まぁ平日は人が少ないと思うよな。多分休日に比べたら少ないんだろうけど、学生が休みだしなぁ・・・
「断ったらどうなんです?」
「せっかくうちのファンになってくれとるけんねー」
出来るだけ応えたいんよ。と伊佐美さんが、真剣な顔をして言う。ほんとこんな感じだから人気になっていったんだろうなとは思う。ファンサービスだけじやなくて、実力もあるし、美人と言える容姿、ワンポイントとしての関西弁。すべて合わさって伊佐美さんの人気があるんだろう。多分一つ一つだけだとほかの声優にもいるし、全部が揃うことで人気声優の伊佐美となっている。
「どっかの誰かさんは声だけでがっつりファン掴んどるみたいやけどなぁー」
こいつーと、ほぼ俺がリンのノリで伊佐美さんが来る。祐樹として会っていて知っている人は声優の中では姉さんを覗けば伊佐美さんが一番付き合いが長いってこともあるだろう。
「本当声だけであの知名度ですからねぇ」
「一人特徴的ですからねー」
アカネ君と遥さんまで伊佐美さんに便乗して、俺の方を見ながら言ってくる。
俺だってまさかこんな風になるとは思ってなかったんだよ・・・
「まぁどっかの多声類さんは置いといてうちはちょっとファンサしてくるわぁー」
「あっ、僕もついていきます」
「おっけー」
食べ終わった伊佐美さんとアカネ君が席を立って、さっき声をかけてきていた人たちの方へ向かっていった。アカネ君は伊佐美さんの後ろに控える感じだ。なにかあったら前に出ることが出来る距離感でついていった。
「本当に伊佐美さんファンサいいよねぇー」
「トップ張ってる人だしな」
俺はアレは真似できないなぁ。
*
「ちょっとお手洗い行ってきます」
「いてらー」
「あっちの方にあったよ」
昼食を食べ終わって海の家から、レジャーシートを敷いて確保していたところに戻ってくるとアカネ君がお手洗いに行った。さっきの海の家にもあったが、まぁ移動している間に催すのはよくあることだろう。遥さんが教えた方は駐車場の近くのお手洗いだ。ここからだとそっちのほうが近い。灼熱の砂場を歩いていくアカネ君を見送る。
「じゃぁうちはなんか飲み物買ってくるわ。みんなの分も適当に買うてくるけど、リクエストある?」
「俺は冷たいので」「私も冷たいのでお願いします」
「流石にこの時期にホットはないやろ・・・・。まぁ適当に買うてくるわ」
「お願いしまーす」
と伊佐美さんも移動していく。自販機は海の家のほうにある。
「私達は食後の休憩でもしようかー」
「だな」
二人でレジャーシートに座って、日傘をさす。この日傘はアカネ君が持ってきていた奴だ。日焼け対策らしい。アイドルは大変だな・・・流石に人の中を歩くのには邪魔になるから置いていったから使わせてもらっている。二人で日陰に入って、波打ち際で元気に遊びまわる子供たちを見ながら二人が帰ってくるのを待つ。平日に来れたおかげかそこまで人はいない。子供連れの母親が大半で、友達で集まってというのはあんまりいない。いるのは平日休みの人達だろう。少ない人たちの中でも知名度の高い伊佐美さんは流石だと思う。
「元気だよね」
「だな。こんなに暑いのに」
「先に大人がダウンしてるし」
と遥さんが笑いながら、視線を砂浜の方へ、そっちにはパラソルまで用意してあの子供たちの親と思われる女性がうちわで扇ぎながらダウンしていた。本当子供のエネルギーは凄いなぁ。
*
「俺らと一緒に遊ばねー?」
「俺らジェットスキー持ってるんだ。一緒に遊ぼうぜ」
・・・なんか一昔前のナンパみたいな男の声が聞こえてきた。それは少し離れたところでジュースを片手に帰ってきていた伊佐美さんが声をかけられている。この人が少ない中で、ナンパを決行するって結構勇気があるんじゃないだろうか。風下なのか意外と声が聞こえる。
チャラい感じの見た目で、伊佐美さんが有名人ということを知らないような感じだ。知らない演技かもしれないけど、見た感じ伊佐美さんを知っているといった感じではない。というかよく一人分じゃありえない量のジュースを抱えているのに、声をかける男たちも男達な気がする。明らかに一人じゃなくて複数人で来てますって感じなのに。
「あんなの絶滅危惧種だと思ってた」
「絶滅はしてないと思うけど、声かけるのは間違ってるよな」
あとこの付近ジェットスキーは禁止だったはず。そもそも関係ないからしっかりは見てないけど、そんな風に書いていた気がする。
「うち友達と来とんや、他あたりや」
伊佐美さんは慣れたようにあしらう。足も止まることなく、声だけで制しようとしているが、
「そんなこと言わずにさぁ」
「さっきの人たちとは写真撮ってたじゃん。俺らとも撮ろうぜ。それに一緒に遊ぼうぜ!!」
こいつら伊佐美さんを知らないのに写真を撮ってもらおうとしている。なんだろう。あれだ。知らない芸能人でも一応写真はって感じだ。さっき撮っていた所を見ただけで、俺達が一緒にいる場面は見ていないらしい。
「せやから、うち友達と来とんよ。他あたり」
「まぁまぁ」
諦めの悪いナンパ男達だな。男達は伊佐美さんの腕をつかんだ。仕方ないし、俺達が呼びに行って止めるしかないか。遥さんと頷きあって動こうとする。
「すみませんが、僕と来てるんで。伊佐美さん大丈夫ですか?」
そんな声が聞こえてきたから、立ち上がるために足元に向けていた視線を伊佐美さんの方に向けると、走ってきていたであろうアカネ君が伊佐美さんの腕をつかむ男の腕をつかんでいた。
「その手を放してもらえますか?」
「ちっ、男連れかよ!!」「行くぞっ」
男達は立ち去っていった。さっきまでの勢いは何だったんだろうか。
「ありがと」
「どういたしまして」
アカネ君のお手柄だな。
少しアカネ君の男らしさを垣間見る一コマって予定だったんですが、ナンパ二人組が書けない。。。




