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アナタの本当の姿は?  作者: kame
社会人
326/339

【第326話】海

 車の窓から潮の香りが車内に入ってくる。

 助手席に座る遥さんが久しぶりだーといいながら、外の様子を見ている。少し早めに出てきたこともあって、海岸は比較的空いているようだ。まぁ平日っていうのもあるだろう。色々仕事の区切りも良かったから、俺達は二人で有給を取って休んでみた。俺達だけじゃなくて結構な人数が今日は休んでいるはずだ。


「えーっと、駐車場どこだっけ」

「もうちょっと向こうだね」


 俺が聞くと、遥さんがスマホを片手に案内してくれる。今日行こうと思っているところカーナビに入ってなかった。そんなに新しい場所じゃないと思うけど、そもそもこの車もカーナビも元々社用車として使っていたから古いと言えば古い。自分たちで新しく車を買おうとは思うが、引っ越しに結婚式にとお金がかかっているから、ちょっとお金に余裕がない。夏の祭典のためにお金貯めておかないといけないし・・・まぁカーナビはなくてもなんとかなる。車だって十分元気に走ってくれる。


「あのー、僕も一緒してよかったんでしょうか?」


 夫婦水入らずじゃないんですか? と後部座席から、男の声が聞こえてくる。まぁ声の主はアカネ君なんだけど。今日の休みが被ったから一緒に誘ってみた。


「いいよいいよ。私達いつも一緒にいるから、たまには一緒にね」


 と遥さんが振り返りながら言う。


「折角休み被ったしな」


 俺達は基本的に土日休みだが、アカネ君は休日こそ仕事ってことが多いから中々休みが合わない。それで、珍しく休日がかぶったから遊ぼうってなった。最近仕事でもアカネちゃんとしてしか会ってなかったからアカネ君の姿を見るのは久しぶりだ。今日の目的地は海だし素の方でと先に連絡しておいた。


「仕事では会ってましたけど、休みだと会ってなかったですね」


 この前のBBQをどっちに入れるかは微妙なところだけど、誰も素の姿で会ってなかったしノーカンでいいだろう。


「というかこっちの姿で会うの久しぶりだよね?」


 だよね? と遥さんが思い出そうと頭を傾げながらアカネ君に聞く。そうやっても思い出せないぐらいアカネ君のほうとは会ってないっけ?


「えーっと・・・こっちの姿だと多分会ってないですね」


 アカネ君もあまり自信なさそうに答える。


「なんか時々会ってるのに、会ってない気がするのは何だろう?」


 と遥さんが軽く笑いながら言う。それは俺も思う。姿は違っても会ってるはずなのに会ってる気がしない。


「あー、僕もそれ思いますね。リンさんと会ってるはずなのに・・・」


 本当に不思議だよなぁ。会ってるはずなのに。



 *



「じゃーん」


 海の家の更衣室で着替えてきた遥さんが俺の前でラッシュガードを脱いで、この前買った水色のフリルスカート型の水着を披露してくる。


「可愛いじゃん」


 実は一緒に売り場に入ったものの、着ている様子を見るのは初めてだ。言っちゃ悪いけど、遥さんの胸は小さいからフリルが誤魔化しているというのが現状だ。リンでいつもやってるパッドの方が大きい。まぁこれだから遥斗っていうキャラが生まれたんだと思うけど。


「でしょー」


 と遥さんはくるりと回る。見立て通り露出も少ない。あんまり外に出てないのもあるのか遥さんの肌は白い。最近は仕事でほとんど長ズボンだったってこともあるのか足は特に白い。俺のほうが少し焼けているのはスカートを履く機会が多いからだろう。普段は日焼け止め足に塗らないし・・・


「じゃぁ、日焼け止め塗ってー」

「ん。じゃぁ横なって」

「はーい」


 遥さんがレジャーシートに横になったのを横目に日焼け止めを鞄から取り出す。そして遥さんの背中に垂らす。冷たっって声も声も聞こえるけど、まずは背中から塗っていく。程よい肌の弾力が手に返ってくる。そしてきめ細かい肌だからか、日焼け止めが気持ちよく伸びて塗りやすい。


「あとで祐樹も塗る?」

「あー、お願い」

「おっけおっけ」


 ラッシュガードは着てるけど、一応塗っておいたほうがいいからなぁ。

 リンとして見せる肌が焼けてたら嫌だという問題じゃなくて、最近の日差しは強烈だから皮膚に良くないから、男でも日焼け止めは塗っておいたほうがいい。


「アカネ君も塗る?」


 日焼け止めを塗っている横で手持ち無沙汰にしているアカネ君に声をかける。俺達だけが楽しんでいるのは少し申し訳ないとは思うけど。


「塗ってもらえますか? 背中には届かなくって・・・」

「遥さん塗り終わったら塗ってあげる」


 アカネ君こそアイドルしてるし肌焼けるのはまずいだろうしなぁ。俺より前に塗っておこう。


「ならうちが塗ったろか?」


 俺らの後ろから声が聞こえてきた。声が聞こえてきたほうを振り返る。そこにいたのはビキニ姿に眼鏡でカモフラージュしている伊佐美さんだ。あれ? 今日ここにいるって言ったっけ?


「な、なんでここに!?」


 アカネ君が驚いたように伊佐美さんを見る。俺と遥さんも驚いてはいるけど、今日は伊佐美さんも休みっていうのは知ってるし、遊びに来ていてもおかしくはないとは思ってる。


「リンちゃんらが行くって言ってたの聞いてたけんなぁーうちも来たんや」


 アカネの水着姿も見たかったけんなぁーと伊佐美さんはアカネ君の水着姿を見る。もちろんと言っては何だが、アカネ君は男物の水着を着ている。


「うちが誘っても無理っていうしなぁ」


 そうなのか。俺達の誘いには結構する乗ってきたと思うんだが。


「だって、僕こんな感じですし・・・」


 ひょろひょろですし、真っ白ですし・・・男らしさなんてどこにも・・・とアカネ君が小さく俯きながら言う。まぁ今アカネ君ってぎりぎり男って感じだからな。高校の時よりアカネちゃんに寄ってる気がする。


「うちは気にせんっていっとるやろ?」


 あっちの姿も知っとるしな。と伊佐美さんは言う。そういえば、この二人ってどこまで行ってるんだろう。


「それでも彼氏として意地があるんですよ・・・」


 もっと筋肉欲しいけど、服着れなくなるし・・・とアカネちゃんが言う。まぁそうそう簡単に服が着れないほど筋肉はつかないけどな。

 そもそもデートがアカネちゃんとしていってるから今更な気もしなくもないんだが。


「筋肉もりもりのアイドルってのも」


 遥さんが言う。言ってから遥さんは少し考えて・・・


「ないわ」


 まぁパロメロはそういった方向性は似合わないだろうしな。


「そんなん気にせんでええって」


 分かっとるしな。と伊佐美さんは言いながら、アカネ君の背中から押して横にさせる。アカネ君も急に現れた伊佐美さんに困惑してはいるものの嫌がっているってわけじゃなさそうだ。


「リンちゃん、日焼け止め頂戴」

「はい」


 普通にリンって呼ばれたけど、まぁいいか。どっちも俺だって認識されてるってことだし。


「塗ったるでぇ」


 現役アイドルに日焼け対策してあげてくださいな。

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