【第319話】歌番組
「リンちゃん。遥斗君。今度歌番組出演決まったから、よろしくな」
総務部の部屋に一旦出社してパソコンを立ち上げたところで社長がやってきてプリントアウトしたであろうメールを渡された。歌番組・・・あぁ、この前飲みに行ったときに近藤が言っていた奴ですかね。
「VoiceReseacher?」
「そうそう。前々から調整してて条件あったから出演お願いね」
「いよいよテレビですか・・・」
遥斗が社長にわたされたメールを見ながら呟く。この調整に近藤は行ってたんですかね。というか条件ってなんですか。
「メールに書いてるから目を通しておいてね。一応二人のアドレスにも転送はしておいたから」
「ん。わかった」
「分かりました」
まぁ事務所に所属したからには、いつかはテレビに出ると思ってましたし、驚きはない。というかあまり実感はないけどドラマにもわたしは出たことあった。
「じゃぁ伝えたからな。当日はよろしくー」
と社長は総務部の部屋から出て行った。
「テレビだってさ」
「まぁいつかは来ると思ってたでしょ?」
「まぁな。驚きはないかなぁ」
いよいよ俺もテレビ出演かぁ。と遥斗が遠い目をしながらいう。まぁ遥斗はどちらかというと裏方ですからね。
「まぁ姿違うし気楽に」
「そうする」
実際VoiceReseacherとして出す姿はわたしも遥斗も普段の恰好じゃないんですから、やらかしたって普段の生活には全く影響はないっていうのは利点だと思いますよ。まぁやらかさないのが一番ですけどね。
*
「よし、じゃぁメイクするかな」
近藤が机の上に鏡を取り出して、姿勢を正す。今いるここは某テレビ局の楽屋。今日歌番組の収録があり、そのために俺達はやって来ていた。人数もいるからからそれなりに広い楽屋を割り当ててくれている。靴を脱いで上がれる和室でテレビと冷蔵庫、机に、座椅子と座布団がいくつかといった感じの部屋だ。何度かこのテレビ局には守山さんと一緒に来ているけど、こういったタイプの楽屋は初めてだ。
「私は出ておいたほうがいい?」
そういうのは、このVoiceReseacherの楽屋に遊びに来ている守山さんだ。守山さんはドラマの撮影があってこのテレビ局にいたらしい。もう撮影自体はひと段落ついて、守山さんの撮影はしばらくないってことでこっちに来たようだ。
「別に居てくれてもいいよ?」
そういいながらメイク道具を取り出してファンデーションを塗っていく近藤。既に女声になっている。気合い入れるの早いな。もう何年もやっていることだからかメイクの手際もいい。明らかに昔と比べて手の速度が上がっている。昔は恐る恐るって感じだったし、慣れって凄いな。
「じゃぁ見てるわ」
こう変わっていくの見るの楽しいし。と守山さんが近藤のメイクの様子を見れる位置を陣取った。
「でも、もっとメイクうまい人達にやってもらってるんじゃない? 私たちの見てても微妙じゃない?」
柊さんが守山さんに聞く。守山さんには専属のメイクって人はいないけど、メイクが本職の人たちがメイクをしてくれているはずだし、上手な人たちのメイクを見ているはず。
「そこに本職を超えるメイク技術を持つ男の娘声優っていうのがいるんだけど」
なんか俺を指さして言われた。他のみんなもあーって感じで頷かないで欲しい。
「いやいや、さすがに本職にはかなわないって」
「本職が認めてるんだけどなぁ」
守山さんが俺の肩に手をぽんとおいて諦めな。といった感じで言ってくる。そうはいってもやっぱりお金貰ってやってる人と同じレベルとは言えない。
「あっじゃぁ私が出したら言えるってことだよね」
最近、遊ぶ暇なくて貯まりにたまってて使い道探してたんだよねー。と守山さんが言うけど、
「お金貰うならもっと勉強してからだな」
あくまでメイクは独学だから技術が足らないところも多いだろうし。
「その向上心も大事だけど今の技術でも十分だって」
そうなのかなぁ・・・
「じゃぁ、仕上げは鈴木頼む」
はいはい。テレビ用に少し調整しますよ。
ほら、テレビ用メイクが出来るとか、素人じゃないよね。さらっとやるよね。私のメイクもお願いねー。とか女子三人が言ってるけど、聞こえません。
*
「テレビ初登場、VoiceReseacherの皆さんです」
そういって司会進行の人が俺達を呼んでくれる。周りにはあまり興味のない俺でも知っている歌手やアイドルが多くいて、俺達がここにいていいのかと不安にかられてしまうが、それは表には出さない。ここを目指す人だっているし、出ている人が不安がっていたらダメだろう。
「はい。初めまして、VoiceReseacherです。リーダーの希です」
「千里でーす、よろしくなー」
「すーさんです。よろしくー」
「ハルでーす。よろしくねー」
ちなみに近藤、柊さん、俺、遥さんだ。前二人が性別と逆の声で俺と遥さんがそのままの声。あんまり目立ちたくないということで俺と遥さんは後から自己紹介としている。
後ろの方から可愛いとかかっこいいとか声が聞こえてくる。誰に対しての言葉か分からないから反応はしないけど、タイミング的に俺達に向けての言葉だろうとは思う。
「君たちはいろんな声で歌うんだよね?」
「はい。私達は全員、男声や女声を使って歌を歌っています」
それぞれの声の説明で近藤が声を変える。その変声にスタジオ中がざわめく。ここ打ち合わせしてないんだけど、皆素直に驚いてくれる。近藤も声の差は凄いからなぁ・・・
「凄く違うな」
「ありがとうございます。私も声は教えてもらったんですよね」
「へぇ、ぜひ教えてもらいたいな。使い道ないと思うけど」
「あはは。一緒に歌でもどうですか?」
「出来たらお願いしようかな。あっ、そういえば新曲なんだって?」
「あっ、はい。私達動画サイトからデビューしたんですけど、その時から曲を作ってくれている人が今回も曲を作ってくれました」
「だから今までの曲でストーリーがあったんだな」
「聞いてくれたんですね」
「色々な人におすすめされて聞いたんだけど、いいね。あれ」
近藤と司会者の人が話している。いやよくもまぁ、話が続くよなぁ。基本的に近藤が今回は話すということだったけど、近藤もよく緊張せずに話せてるなぁ。
「君たちって性別どっちなの?」
「えっと、ご想像にお任せします」
「見た目通りだと皆思っちゃうんじゃない?」
「あはは。見た目通りかもしれませんし、違うかもしれません。ご想像にお任せしますね」
「教えてくれそうにないですね。新曲歌ってもらいましょう」
ちょっと性別の話をどっちか分からない感じで新曲の方へつなげられる。さて、歌いますか。今日は録画じゃなくて生歌なんですよね。
*
「ねぇねぇ鈴木君、今度私主題歌歌うことになったんだけど、歌自信ないから替え玉してくれない?」
収録が終わって、楽屋に戻ってきたらまた楽屋にやってきた守山さんにそういわれた。
「替え玉って・・・どっかで歌うときがあったらばれると思うんだが」
「あー、あるかもしれないわね・・・」
何か心当たりがあるらしい守山さんが腕を組みながら頷く。どういったタイミングで歌うのか良く分からないんですが。
「今日鈴木君たちが出てたやつに出る可能性もあるのよねぇ・・・」
なるほど。その可能性もあるのか。
「じゃぁ、今度歌が分かったら、守山さんの声でサンプル作ろうか?」
「ほんとっ!?」
「下手でも文句言うなよ」
「大丈夫でしょー、私よりうまいって」
さぁ、分からんよ。
ちょっと体調崩してました。




