【第291話】告白
視線をそのままに、ベランダの近くにある棚に手を伸ばして、あの箱を手に取る。
食後のデザートのケーキを二人で食べた後にお手洗いに遥さんが行った隙に、キッチンの買い物袋から移動させておいたあの箱だ。棚に置いてある俺達二人が写った写真を飾っているフォトフレームの裏に隠しておいた。
「あっ車の窓にもう積もってる」
外を真剣に見ていた遥さんが街頭で停められている車のフロントガラスに雪が積もっているのを見つけたらしい。どの車だろう? 俺には見えないけど・・・まぁ積もってきているってことでいいだろう。もしかしたら明日は電車止まってるかもしれない。
ひらひらと舞うように降る雪を目で追っている遥さんを横目に俺は今までの事を思い出す。
そういえばあの時も・・・と思ったけど、俺たちが出会ったときは雪なんか降ってなかった。というか、遥さんと雪の思い出ってそもそもあんまり雪降らないから、そこまでない。
クリスマスが俺たちの始まりだったんだよな。それまでは、両方が性別を偽っているという後ろめたさから、そこまで距離は近くなかった。仲は良かったけど、あくまで、息の合う友達と言った感じだった。付き合い始めて何が変わったかというとやっぱり距離感だろう。明らかに距離が近くなった。
クリスマスに遥斗から、本を受け取るついでに漫画のネームを確認してほしいって言われて、その漫画のネームが俺達の事を描いたネームだったんだよなぁ・・・そこから遥さんから告白されて、付き合い始めた。
そのあとも、学校だと色々面倒になると思って関係を隠しながら付き合って、思い返してみると、デートするのはリンと遥斗っていう組み合わせのほうが多い気がする。
そのまま、特に喧嘩することもなく、居心地良いから大学では同棲して、今ここにいる。
*
「うんうん。雪見て、イメージ沸いてきた!!」
よしよし。と遥さんがパソコンの前に戻っていく。イメージが消えないようにか、さっと移動して自分のパソコンの前に戻ろうとする遥さんの腕を掴もうとした。が、やっぱりやめた。遥さんの今のイメージを消すわけにはいかない。
遥さんに見えないように化粧ケースを隠しながら自分の定位置に座る。ケースは炬燵布団の中に隠す。俺の向かいで遥さんがペンタブに向かって一心不乱に描いている。やっぱり早い。
その様子を見ながら、俺もパソコンで調べる。えっと、どうやって指輪って渡したらいいんだろうか・・・意外とサプライズを求めてないって言うしなぁ。正直断られないっていう自信だけはある。ただ良い渡し方が分からない。
「あっそうそう。冬の祭典終わったらどうする?」
絵を描きながら遥さんが聞いてくる。
「どうするとは?」
「帰る?」
実家にと言うことだろう。
「どうするかなぁ」
仕事のために頻繁に帰ってるから正月だからとわざわざ実家に帰る必要もないんだよなぁ。事務所でもよくあうし、離れて暮らしてるという感覚はあんまりない。
「私は今年は帰ろうかなー部屋の整理しておいたほうがいいだろうし」
「同人誌がいっぱいか」
「そうだねー。こっちに置けない分を家に置いてるからねー」
出ていった人の部屋が倉庫になるっていうのはよくあるけど、私の場合自分で倉庫にしてるし。レンタル倉庫借りようかな・・・と遥さんは頭を押さえながら言う。そんなに一杯荷物があるのか。
「祐樹の部屋はどうなってるの?」
「俺の部屋は、倉庫にはなってないな」
家族で同人誌は共有してて、本用の部屋があるから自分専用以外の本はそっちに片付けてるから自分の部屋に大量に本が溜まっているわけじゃない。リン用の服は結構あるけど。
「部屋があるっていいなぁー」
「引っ越すなら人数より部屋数多いところにしたいよなぁ」
「うんうん。一つは書庫だよね」
「俺らならそうなりそうだなぁ」
うん。やっぱり部屋は一つは本で埋め尽くされそうだ。
「まぁ絶対子供は18になるまで入れさせれないけどね」
あー、確かに。絶対R18だらけになるだろうしなぁ。子供は入れられないな。
「あっ、そろそろお風呂ためるね」
「おぅ」
遥さんが時計を見て炬燵から出て風呂場に行った。
*
「・・・ゆ・・・き、ゆうき、佑樹」
遥さんの声が聞こえてきて、俺は目を覚ました。遥さんがためた風呂に先に入らせてもらって、風呂から上がって炬燵に入ってテレビを見ているうちに、ついうたた寝してしまったみたいだ。目を開けると風呂あがりで体から湯気を出している遥さんが俺の横にいた。少し色っぽいが正直見慣れてる。
「おはよ。寝るなら布団行ってね。炬燵だと風邪ひくよ。私じゃちょっと祐樹を持ち上げるのは無理だからね」
「ん」
まだ寝ないけど。いやだってさ、まだ指輪を渡せてないわけで。 とりあえず目頭を左手で摘まむ。ちょっとは眠気が飛んでくれるといいんだけど。と何度かつまんで手を下すところで左の薬指に何か嵌っているのが見えた。
「えっ」
俺は手を回して左の薬指にはまっている指輪を見る。少しリングを捩じったようなデザインでシルバーリングにメレダイヤモンドがアシンメトリーに埋め込まれていて、センターにはダイヤモンドが埋め込まれている。これ俺が買ったやつじゃない。え? どういうことだ? と俺がおそらく俺に指輪を嵌めたであろう遥さんを見ると、遥さんはしてやったりというニヤリとした顔をしていた。そして遥さんが口を開いた。
「ねぇ祐樹結婚しよ?」
プロットからいつのまにか外れました。
プロットだとちゃんと祐樹が雪を背景にしてプロポーズしてたのに・・・




