【第284話】在宅仕事
「ふんふふーん」
私はキッチンでココアを用意して、リビングの方に移動する。そこの机の上には、事務所から借りている液タブとノートパソコンがある。作業用BGM代わりにテレビをつけて、これで私の家での仕事風景の完成だ。冬には机がコタツになったりするけど、あるものは大して変わらない。
時たまに、祐樹が一緒に隣で描いてたりするけど、今日は祐樹は家にいない。まぁ、赤崎君や木村君と遊びに行っただけなんだけど。
この家一人だと結構広く感じるんだよね。実際広いんだけど。あと大きい家具も置いてないって言うのも大きいと思う。
ーーータタンッ
パソコンからチャットアプリの通知の音が聞こえる。さっき作監に送った原画の返答だろうか。メッセージを開くとやっぱり作画の返答だった。今回もリテイクなしか。順調かな。確認ありがとうございますっと、メッセージを送っておく。この人も返答早いんだよね。
「さてと、次のカットはっと」
リンのキャラか。まぁ今回のアニメも半数のキャラがリンの声なんだけど。リンが居るからか、声優の数が問題なくなったからって一つのアニメに出てくるキャラが増えすぎてる気もするけど、まぁ原作も結構キャラの多い感じだったし多くなるか。
「よし」
多分2時間もあればこのカット終わるでしょ。
*
ーーーブブブ
大学でマナーモードにしたままだったスマホが机の上で震える。表示されている名前を見てみると、事務所の電話からかかってきている。電話でかかってくるのは珍しいかな? いつもはパソコンのチャットアプリで通話もできるからそっちで来るんだけど。
「はい。飯島です」
事務所相手だから、遥斗の声で電話に出る。
『あれ? これ遥ちゃんの電話じゃなかったっけ?』
おぉっと。この声はVoiceResearcherの方のプロデューサーさんだ。私達が大学生ということも考慮して色々スケジュールとか考えてくれる人で、30代前半の優しいお姉さんだ。
「あーあー、すみません。どうかしましたか?」
地声に戻す。事務所からだったら遥斗の声で出ちゃった。
『えっ? あっ!! そっか、遥ちゃんって遥斗くんだったっけ』
まぁある程度の事務所の人達には私達の事は知られてるから、プロデューサーさんが知っていてもおかしくはない。
「はい。それでどうしましたか?」
『今度の収録なんだけどね~~』
メモメモ・・・ペンタブで書いたらいっか。新規作成してっと。
*
「じゃぁ佑樹には、私から伝えておきます」
『お願いねー』
そう言って、電話は切れる。次の収録の予定日のスケジュール合わせの電話だった。佑樹のアテレコのスケジュールとも問題なさそうだったから、大丈夫だと思う。
「ふー」
何度も電話してるけどやっぱり仕事の電話って緊張する。遥斗としての電話だったらあんまり緊張しないんだけどなぁ。
ーーータタンッ
次はパソコンのチャットアプリだ。差出人は鈴木さんというかお義母さんだ。内容としては、原画班の一人が急病で原画作業が遅れてるから、その分を任せられないかって依頼だった。正直まだ余裕はある。冬の祭典用の原稿も順調だし問題ないかな。大丈夫ですよーと送り返したら、カットの詳細が来た。うん。余裕だね。
用意したココアもなくなったし、次は生姜湯を飲もうかな。結構好きなんだよね。
*
「あっ、こんな時間か」
ふと、時間を見てみると、前に時計を見たときから3時間経っていた。太陽も結構傾いている。洗濯物入れておかないと。
よっこらしょと、立ち上がってベランダにいく。そこには祐樹が朝に干していった洗濯物が少しだけ吹く風になびいている。ベランダの壁に隠れる部分には私達の下着が別に干されている。私は別に上に一緒に干してもいいんだけど、防犯のためと祐樹は言ってた。
洗濯物を取り込んで、畳んでおく。こうやって畳むのも佑樹と暮らし始めてから覚えたんだよねぇー。一緒に暮らすまでは本当に小学校の宿題としてお母さんのお手伝いをする的な事でしか洗濯物を畳んだことはなかった。
「佑樹いつ帰ってくるんだっけ」
夕飯の材料は買って帰るって言ってたから、そんなに遅くはないと思うんだけど。あっ、でもご飯は炊いておこうかな。私もご飯なら炊けるし。ずっと料理は祐樹に任せてるけど、私もちょっとは出来るようにはならないとなぁーとは思ってるんだけどね。子供と一緒にご飯作ったりっていう夢が無い訳じゃない。
*
ーーーピンポーン
米を洗って水の量をちゃんと量ってから炊飯器にセット、炊きあがり時間のセットをしたところで、インターホンが鳴った。何か通販で買った記憶もないんだけど、なんだろうか?
玄関の扉を開けると、そこには少しにやにやとしている早乙女さんがいた。
「やっほ。新曲持ってきたよー」
「メッセでいいのに」
たまに早乙女さんは持ってくるけど、家にいなかったらどうするつもりだったんだろう? というかそのにやにやとした笑顔は何・・・? ちょっと気になるんだけど。
「今日は、さっき商店街ですずっちと会って聞いてきたけどね」
「へぇ、佑樹今商店街いるんだ」
だったらそろそろ帰ってくるかな? と私が祐樹の帰る時間を考えていると、早乙女さんがさらににやにやとした笑みを浮かべた。いったい何・・・? 私が祐樹の帰りを待っているのがそんなにおかしいかな。
「いーやっなんでもない。
あっ新曲CDに焼いてきたから聞いといてねー」
プロデューサーの許可はもらってるから!! と早乙女さんは、私がその笑みの理由を聞く前に、玄関からも上がらずに出ていく。
「あっ、うん。わかった。いつもありがと」
私のパソコンにはCDドライブついてないし、佑樹のパソコンあとで借りないと。
それにしても早乙女さんのあの笑顔は何だったんだろう。
*
ーーーガチャバタン
「ただいまー」
あっ、佑樹が帰ってきた。
「おかえりー」
晩ご飯なにかなー




