【第275話】サイズ合わせ
「これどうやって着るんだ?」
「これってこう着るんだったよな」
「どうよ。俺イケてね?」
「メイド服で何言ってんだか」
大学の男子更衣室で、数人の同じ学部の男達がメイド服に着替えている。俺も今から着替えようと手にはメイド服を持っている。今日は文化祭でするメイド喫茶のメイド服のサイズ合わせだ。
去年は別の学部がするからうちはコスプレ撮影会をしたけど、今年はうちがメイド喫茶をするとのこと。何年もやってるからか、今年からは参加する全員分のメイド服がいつの間にかできていた。よほどサイズが合わない人を除いてメイド服を着ることになっている。俺は自分のサイズもわかってるから合わないってことはないだろうけど。
ただ、一つ不思議に思うのが・・・
「うちの学部で女装を拒否する人いないんだよなぁ・・・」
とついポツリとつぶやいたら、
「それ鈴木が言ったらダメだろ」
「うちの筆頭が何を言ってるんだか」
「鈴木がいるからやるんだよ」
意外と皆に聞かれていた。
「なんで俺がいるからやるんだよ」
「いや、だってさ鈴木がいたら、見れないものにはならないだろ?」
鈴木のメイク術は特殊メイクレベルだからなーと言われる。
「いや、無理なものは無理だからな?」
流石に骨格はどうしようもないんだよなぁ・・・一定の角度からしか見ないんだったら影つけたりで何とかは出来るんじゃないかなぁ? 俺はそんなメイクした経験はないけどさ。
*
俺が着替えようと服を脱ごうとすると視線を感じる。いったいどこから? となるまでもなく視線の元は周りにいるメイド服の男達からだ。
「なんだ?」
下着姿で聞いてみる。今日はちゃんとTシャツにトランクスだ。リンの時はキャミソールとかだけど、今日は違う。たまに無意識でキャミソール持ってたりすることもあるけど、まだ間違えて着るということはしてない。
「なんでもない!! 続けて」
続けてって・・・ただの野郎の着替えなんだけどな。
「そういやさ、女子からこんなの渡されたんだが、誰か使うか?」
実は一緒に更衣室にいた赤崎が鞄の中から何かを取り出す。それは水色や緑、青といったカラフルなブラジャーだ。まぁコスプレ用の少し派手目のブラじゃないかな。パッドまで入ってる。
ただ赤崎の鞄からそれが出てくるのは、なんか犯罪臭がする。こう皆が女装してるときでなかったら、通報ものだな。
「どうする?」
「お前が付けろよ」
「お前こそ付けろよ」
と、他の男子が言い争っている間に俺は水色のを取る。やっぱりスカートの時はないと落ち着かないんだよな。パッドはもう少し小さいのがいいんだけど、本番の時は持ってくるかな。
「鈴木は普通に選ぶよな」
「いやだってさ、あるなら付けた方がよくないか?」
ペッタンコもそれはそれで需要あるけど、メイドはそれなりにあった方がいいと思うのは俺だけだろうか。
「いや、自分で付けるって事を考えろよ」
・・・あー、俺そういった感覚多分麻痺してるからなぁ。
さてと、ブラ付けるにはシャツは一度脱がないとな。と俺はシャツを脱ぐ。
「鈴木・・・お前その日焼け跡って・・・」
横に来ていた赤崎に背中を見て言われる。
あぁ、水着の跡か。前遥さんと海に行ったときには日焼け止め塗ってたけど、事務所のバーベキューでは日焼け止め届く範囲だけ塗った感じだから、背中は薄くしか塗れてなかったんだよなぁ。
「お前ビキニ着れるのか・・・?」
んー・・・
「ご想像にお任せします」
里奈用の声で赤崎に答える。
「着たんだな?」
「ふふ」
「ぐっ、急に違和感なくなりやがった!!」
まだ着替えてませんがね。
*
「やっぱり里奈さんおかしいって」
メイド服着て集合場所となっていた講義室に帰ってくると女子に言われた。
「というか皆、わたしのこの姿の名前覚えてるんだ」
「そりゃぁ、それだけインパクトあったらねぇ」「だよねぇ」
というかステージ立って、あれだけ大立ち回りして覚えられないはずないじゃんと言われる。いやまぁ、そうか。一度、この姿で文化祭のステージ立ちましたね。
「そういえば、今年もKB18が来るとか言ってたっけ?」
「里奈さん何か聞いてる?」
それ、わたしよりファンの人たちのほうが詳しいんじゃないですかね。向こうからの逆オファーがあったっていうのはリンとしては知ってますけど。
「何も聞いてないかな?」
「何か知ってそう!!」
「そういう人って大体何か持ってるよね!!」
ほらほら。吐きなさいよー。と二人の女子に絡まれる。いや、わたしこれでも男・・・いや、まぁ二人がいいならいいですけど。
「んー、まだ秘密かなー」
確定じゃないからね。と言っておく。
「やっぱ情報持ってんじゃん!!」
「情報源が気になるところだけど?」
「というか、公表したら文化祭酷いことにならない?」
ただですら人が多いうちの文化祭に、KB18目当てのファンも来るんだよ? わたしとしては遠慮したいかな。
「あー、確かに人多くなりそう」
「うんうん。うちの学生だけでもファン結構いるもんねー」
二人もわかってくれたらしい。
「鈴木が普通に混じってて違和感ねぇな」
「あいつ生まれる性別間違えたんじゃね?」
「言えてる」
赤崎達、それ聞こえてるからな? 突っ込みはしないけど。
休日出勤と、深夜残業のダブルパンチ食らってました・・・




