【第27話】春休み3
わたしは今日は何時もと違うウィッグを被って電車に揺られている。
ウィッグはウェーブのかかった肩ぐらいの茶髪。服もいつものクール系のではなく白のロングスカートとゆるふわ系の服。
今日の目的地は、執事喫茶。
短期バイトとして遥斗が入っているという情報を声優筋から貰ったから、隠れて見に来た。
彼氏くん執事喫茶にいたよーと写真付きで教えられた。
流石にバイト何してる?と聞いてはぐらかされたのに、見に行ってばったりというのはどっちも気まずいから別人になる。
折角の遥斗の執事姿は見ないと!!文化祭だとそんなに真剣に遥さんを見てた訳じゃないし。
「お帰りなさいませ。お嬢様」
目的地である執事喫茶に入るとまず爽やか系イケメンに迎え入れられた。
おぉ・・・イケメン。
椅子を引いてくれて、そこに座る。
今日のわたしの設定は執事喫茶に初めてきたゆるふわ系女子だ。
「えーと、おすすめってなんですか?」
正直執事喫茶は初めてだ。ゆるふわ演技以前にさっぱり何があるのか分かってない。
「それでしたら、こちらのパンケーキがお勧めでございます」
「じゃぁそれでお願いします」
ふんわりと笑いながらお願いする。ちょっ、執事さん。なんで顔赤くしてるんですか!?慣れてますよねっ!?
「失礼致しました。お飲み物はいかが致しましょうか」
「カフェオレお願いします」
どうにか正気に戻った執事さんにメニューにかかれていたカフェオレを注文して、一旦執事さんがはけた時に店を見回す。
テーブルの数は6。執事の数は4人。その中に遥斗らしき人物はいない。
一応シフトと思われる時間を見計らってきたつもりだったんだけど、よみ間違えた?
「お待たせ致しました。パンケーキとカフェオレになります」
「ありがとー」
いた。わたしの対応をしていたさわやか系イケメンに変わってスタッフルームから出てきたのは、スラリとした執事服を着こなした遥斗だった。
他のイケメン風執事に負けず劣らずかっこいい。
「何かありましたら、お申し付け下さい」
「はーい」
パンケーキも美味しそう。
いただきまーす。
*
「で、リンはなんで来たの?」
ぐふっ。バレてるの!?
ロングスカートで膝は隠したし、メイクもウィッグもいつもと違うのに。
「そりゃ、彼女ですし。見分けれるって」
その彼女はどっちにかかるのでしょうか。わたしか遥さんか。両方?
「気になったから見に来た」
あと、執事喫茶に来てみたかったってのもある。
「あと、ここ執事喫茶だけど、半分執事女子だから」
は!?それっぽいの居なかったけど!?
「まぁ注射してる人もいるし、気付きにくいかな。今は俺だけだけど」
そんな業界もあるんだなぁ・・・
*
「あっリン!!いいところに!!」
はい?遥斗とパロメロの新曲を聞きにライブハウスに来たら、姉さんに捕まった。
腕を掴まれてそのまま裏へ連れて行かれる。
あっ遥斗なんでわたしに手を振ってるんですかねぇ!!
「えっ?えっ?」
そしてそのままパロメロの楽屋に。
「「リンさん(ちゃん)!?」」
・・・あれ?ナギサさん声変わりました?なんかだみ声なんですけど。
「ナギサが風邪ひいちゃってて声出ないからリン。あんたが代わりに声出して」
「は?」
「だから、あんたが代わりにMCやって。曲は口パクだから問題ないけど、MCはどうにもならないから」
お願いっ!!と姉さんに拝まれる。
「お願い。悠里」
うぐっ、ここで声優名出してきますか。そしてパロメロの二人もこっち見て固まってるし。
二人にはそのこと言ってなかったのに!!
「えっ!?リンさん悠里さんなんですか!?」
「設定男の娘って言ってたのまじで男の娘だったの!?」
録画で見てもふっつうに女の子だったのに!!と二人がえーっとこちらをまじまじと見てくる。
あれでも男よりのメイクのつもりなんですけど。
「で、やってくれる?これ台本なんだけど」
「・・・アドリブはしないで」
やってやろうではないですか。折角の新曲発表でだみ声っていうのもファンに申し訳ないし。
ナギサさんの声は・・・
「あー、あ~、これでどう?」
「ばっちし!!さっすが人間変声機」
パロメロの二人がぎょっとしてこっちを見ている。
二人共わたしが色々声変えれるのは知ってると思うんですけど。
あと、置き去りにした遥斗に連絡してもいいですかね。
*
『みんなー今日は来てくれてありがとー!!』
ステージの裏でアカネさんと合わせながらナギサさんの声で台詞を言っていく。マイクを通してスピーカーから声がでて観客席に響き渡っていく。
いつもは台本は結構無視しているらしいけど、今日ばかりは台本通りにお願いします・・・わたし、アドリブ無理です。
『じゃぁ今日は新曲の発表いっくよー』
うおぉぉぉぉと観客席が盛り上がる。ごめんなさい。今の声、わたしです、いくつかアカネさんとの掛け合いの台詞を離して・・・曲が始まって一段落。
あの・・・スタッフの人達もわたしをぎょっとしながら見ないてもらえますか?説明しましたよね。
「すっげぇ・・・」
スタッフの人達がナギサさんの声を出して、ナギサさんの口調を真似ながら話しているわたしを見て一言。
その言葉に他のスタッフも頷いている。
一応、声変えるのはわたしの得意分野ですし?
『ありがとうございましたー!!』
ステージから降りてきた二人とハイタッチ。
「ありがどぉぉぉ」
早く風邪治してくださいね。




