【第263話】イベント
伊佐美さん達との温泉旅行から無事に帰ってきて、次の週にイベントにやってきた。いや、まぁイベントがあるのは知ってたけど、遥斗がサークル参加を今回はしないといってたからスルー気味だった。来た理由としては、正直暇だったからだけど。
一応イベントだし、いつも通りのリンと遥斗という組み合わせで来ている。
「二人とも一週間ぶり!!」
あっ、先生一週間ぶりですね。久しぶりと言っても、前会った時はわたし達、素の姿でしたけどね。今日は先生も含めて素の格好のままじゃないけど。わたし達はいつものだし、先生もイベントにはメイクとウィッグで姿を変えている。
「今日はサークル参加?」
「そうそう。先週までに入稿は済ませてたからね!!」
と先生はサムズアップしながらいってくる。やっぱり先生はイベント会場の方がイキイキしてる。先週に旅館で会ったときは、何というか元気がない感じだった。一応伊佐美さんと話している間は楽しんでそうだったけど、呼ばれて帰っていくときは本当に嫌そうだったし。
*
「でさー相手の人とは帰りまで一緒だった訳よ」
なぜか先生のブースまで引きずり込まれて先週の先生のお見合いの話を聞かされる。まぁめぼしい物は見た後だからいいんだけど。
「前に振りしたので落ち着かなかった?」
前にわたしが先生の彼氏の振りしたのは無駄だったんだろうか?
「半年は、大人しかったのよ。でもあの時以外で連れて行かなかったこともあって、別れたと思われて何度かお見合いさせられてるのよ」
あーもう放っておいてよ。と先生は溜め息を吐く。何度も親が決めた見合いをするのは面倒そうなのは分かる。親の面子っていうのもあるから、簡単には断れないと思うし。まぁ想像できるだけで実際親からお見合いだなんだって言われたことはないけど。
「面倒くさそうですね・・・」
遥斗も同じように思ったのかそうこぼした。
「そう!! 面倒なの!! 面倒なのよ!!」
先生相当鬱憤が溜まってますね。何回お見合いさせられたんだろうか。
「私は漫画描いていたい!!」
いや、そこは元生徒として、教師と言って欲しかったですねぇ・・・
*
「ん?」
先生と別れて遥斗とイベント会場を回っていると、明らかに場違いなスーツの人がいた。スーツだけなら、主催者がスーツだったりもするけど一般参加者でスーツは見ない。それだけで浮いているし、あと雰囲気が違う。わたしたちとは違う世界の人だ。雰囲気が違う。ブースを構えるサークル参加者も場違いなその男性をチラチラと見ている。わたしも周りにつられるようにその男性を見ていると、顔が見えた。
「あの人・・・」
「リン知り合い?」
いや、えーと・・・言えるのは・・・
「見た事あるだけ」
あっちでと、遥斗にだけ聞こえるように伝えておく。流石に裸で会った相手だとは言えない。
会ったのは、先週の温泉旅館の露天風呂で、えーと、名前はなんて言ってたっけ覚えてない。確か先生のお父さんが名前を言っていたと思うんだけど。それから少しキョロキョロとするスーツの男性をちらちらと見ていると、
「すみません。少しお時間よろしいでしょうか」
スーツの男性がわたし達に話しかけてきた。いや、何で? わたし達より近くに人いたんですけど?
「はい?」
「なんでしょうか?」
ちょっと話しかけてくるのは予想してなかったから上擦ってしまった気がする。遥斗は予想していたのかしらないけど、何時もより低い声で答えた。
「この女性見てませんか?」
ここに居ると聞いてきたのですが。と言ってスマホを見せてきた。そこに映し出されているのは先生の写真だ。わたしも見覚えがある。というかこれ高校の時の卒業アルバムに載ってた写真だ。どこから手に入れたのかは知らないけど、わたし達の時の写真じゃない? 毎回先生が同じ感じで写ってたら分からないけど。
「・・・見てないですね」
少し考えるそぶりをした後、遥斗が答える。わたしも首を横に振っておく。ここにいるのは高校教師の華岡先生じゃないですからね。
「そうですか。お手数おかけしました」
そういってスーツの男性は移動していった。なんで先生探してるんですかね。
*
「はぁ!? マジ!? 来てたの!?」
少し他回ってから、先生の所に帰ってきて、さっきあった先生のお見合い相手の人のことを伝えたら頭を押さえながら言った。
「何故来たかわかりますか?」
遥斗が聞いた。確かにわたしも気になる。一応さっき移動中に遥斗には先生のお見合い相手だったというのは伝えている。移動していった男性を見る感じだと本を求めてた感じじゃなかったし・・・
「あいつストーカーよ。学校の前で待ち伏せしてるし、家の前にだっていたわ」
うわっ、まじですか。ストーカーというと大崎さんを思い出すけど、男がやってると一気に犯罪臭がする。
「しかも、親公認っていうね」
あーもう嫌だ。と先生は机に突っ伏す。親公認ってこれまた面倒な・・・
*
「くそっ!! なんで誰もしらねぇんだよ!! 使えねぇっ!!」
わたしと遥斗が今日はアフターもしないから会場から出るために移動していると物陰からそんな声が聞こえてきた。この声って先生のお見合い相手の声ですよね。
ふむ・・・第一印象的には紳士的だったんですけど、先生からのストーカー情報とこの悪態・・・思ったより屑?
「あのオタクと結婚したら華岡先生に取り入れるのに!!」
ほほぅ。ありきたりですけど、先生のお父さんは議員さんですからね。取り入ることで何かしら旨味があるんでしょう。わたしとしては良く分からない世界ですけど。
「どうする?」
「先生に報告」
とりあえず先生に報告して注意を促しておけばいいんじゃないかな。
「使えないオタクがっ!! きもいんだよ!! 人が下手に出てるっていうのによっ!!」
ドンッと壁でも蹴ったんだろうか鈍い音が聞こえてくる。物にまであたってるし・・・あと、ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「遥斗録音」
「もうしてるよ」
流石遥斗。準備がいい。
「こほん」
作るのは先生の声。これでもオンもオフも知ってるから声真似はできる。さて何を言うかだけど・・・
「聞き捨てられませんね」
「っ!?」
姿は出さずに声だけで。まぁ姿はリンの姿のままですから。
「華岡さん!? あなたはこんなところにいる人ではないんですっ!! 貴女はこんな低俗なところにいるべき人ではありませんっ!! さぁ帰りましょう!!」
さっきの言葉聞かれてないとでも思ってるんですかね。あとさらりとイベント会場を低俗とか言ったし。
「貴方が父に取り入ろうとしていること、私たちの事を拒絶する物言い。父に報告させて頂きます」
聞こえてなかったとでも思っていますか? と問いかけてみる。
「社会の屑を屑といって何が悪い!!」
取り繕うこともなく素を出した。短気すぎてよく今までぼろを出さなかったか心配になるぐらいだ。
「録音させてもらいましたので、それでは」
「待てっ!!」
男は先生が逃げて行ったと思っているのか、わたしたちをスルーして会場のほうへ走っていった。
こほんと小さくして先生の声真似をやめる。遥斗に視線を向けると指でオッケーマーク。しっかり録音できたんだろう。華岡先生に渡しに行きますか。
声真似による別人の混乱というか騙された感じを書きたかった。ただ相手が小物すぎた。




