【第260話】温泉旅行4
「なるほどなー、親戚の結婚式と言われて呼ばれたのに、実際は見合いやったんや」
「そうなのよ!! ひどいと思わないですか!?」
「騙されたんかーひどいなー」
「それに中々一人にさせてくれないし、脱衣所に忘れ物したって言ってここにきてるし」
露天風呂を上がって部屋に帰ってくると、遥さん、伊佐美さんと何故か華岡先生が部屋にいた。女より男の方が遅いのはまぁ俺達が二人で温泉卓球して、汗かいたから二回目の露天風呂に入ってたからだろうけど。一応メッセージは送っておいたけど、既読ついてなかった。まぁ俺たちソシャゲのイベント時を除いて、そんなにずっとスマホ握っているわけじゃないし。
「何故先生がここに?」
アカネ君が聞いた。まぁアカネ君はさっき露天風呂の方であった人が先生のお父さんだとは知らないから、そういった反応になるのは分かる。俺は知ってたから、ここに華岡先生がいるのも予想はついてたけど、俺達の部屋にいるとは思わなかった。
「見合いから逃げてきたのよ」
「結婚なんて自由にしたらええやんねぇー」
「そうそう!! いさみんもわかります?」
「わかるわー、うちも一時期うるさかったけんなー」
軽く俺らへの説明をしてすぐに伊佐美さんとの会話に戻る先生。この二人って前から知り合いだったっけ? 昔からの知り合いと言ってもいいぐらい仲良さげなんだが。
「いさみんも言われたことあるんですか?」
「あるある!! うちもはよ孫見せろーって言ってきてめんどかったわ。最近は言われんようになったんやけどな」
「諦めたんですか?」
「相手連れてっただけやでー」
「そうですかー・・・ってえぇ!? いさみん彼氏いるんですか!?」
「おるよー」
勝手に二人で話が進んでいく。俺らが入る間がないな。遥さんも少し話に入れないのか、全員分のお茶を淹れ始めた。
「いいですねー、どっかの同棲組は見せつけるように私の前でいちゃつくし!!」
ちらりと先生が俺と遥さんに視線を向ける。そんなにいちゃついてたっけ? 俺の記憶上、いちゃついた覚えはないんだが・・・?
「確かに体に触れるっていういちゃつきじゃないんだけど、なんか雰囲気が!!」
二人して信頼しあってるって何年付き添った夫婦なのよ!! と酔ってもないのに先生は少し荒れながら言ってくる。そうは言われても・・・
「はい」
先生への返答に困っていると、お茶を淹れていた遥さんがお茶を渡してくれる。
「ありがと」
「ほらっそこぉっ!! 彼氏いない歴=年齢の私には効くのよ!!」
ただお茶受け取っただけで何いってんだ。この教師。こんなのどこでも見れる光景だと思うんですが。
「わかるわぁ!! 二人とも行動じゃなくて雰囲気なんよね!!」
もう熟年夫婦みたいな!! と伊佐美さんも俺達を見ながら言ってくる。この二人何を言ってるんだろうか。
*
「ところで、今日は何の集まりなの?」
ようやく愚痴を言い終わった先生が、俺達の面子を見て聞いてきた。
「えーと・・・」
俺と遥さん、伊佐美さんの関係はいいとして、アカネ君はどうしよう?
「うちの彼氏やでー」
「えっ!?」
先生が伊佐美さんとアカネ君を交互に見て、言葉をやっと呑み込めたのか固まった。まぁ分からなくもない。
「うちはアカネ君と付き合っとります」
わざわざ伊佐美さんは先生に向かって再度説明する。いや、絶対反応見て楽しんでるよな。先生固まって動かないけど。
「えっえっむぐっ!?」
さらに声を上げる前に先生の口を押さえる。流石に大声はダメだろう。
「まぁせなわけで、今回はダブルデート改めダブルお泊りや」
「なんで、なんでもさい人のほうが相手ができるのか!! 鈴木君はリンちゃんの時に会ったっていうのは知ってるけど!!」
「あー、先生、僕も出会った時は女装してましたよ?」
「あら? そうなの? じゃぁ女装する人が彼女ができるのね・・・」
・・・先生、今アカネ君が女装していたっていうのをスルーしたな。あっ、やばっとアカネ君が失言に気が付いたのか一瞬顔が引きつったけど、多分先生は気が付いてない?
*
―――ブブブ
誰かのスマホが鳴った、って先生のスマホか。画面に映る名前を見て嫌そうな顔になる。ちらりと見えた感じだったら母親か。確かに今の状況だったら出たくないよな。無理やりお見合いさせられて逃げてる状況だし。
「出たくない・・・」
「あー、せやなー」
こう結婚しろとか言われたことないから、先生たちが電話に出るのが嫌がるのは理屈では分かるけど、経験はない。
―――ブブブ
まだ鳴り続けている。
「仕方ない・・・」
と先生がスマホを手に取ってスワイプする。
『どこにいるの? 早く帰ってきなさい』
うん。電話先の声がこっちにも聞こえてくる。横で聞いているだけでも、相手が少し怒り気味というのを感じる。まぁお見合い中ってことであれば、相手を待たせてるってことになるからな。
「えっと、元生徒と話してる」
『元生徒なんか放っておいて、アナタの相手のほうが大事よ』
だから早く帰ってきなさい。と言って電話を向こうから切られた。
「きっつっ!!」
同じように聞こえていたであろう伊佐美さんがいう。確かにきつそうだった。前先生の恋人として会った時はそんなにきつく感じなかったんだけど。
「ねぇ鈴木君また相手やってくれない?」
「この状況でするのはもう手遅れじゃないですかね」
「飯島さんっ!!」
「私は無理ですっ!!」
仕方ない。と先生は立ちあがって、部屋から出ていこうとする。
「仕方ない全力で嫌われてくるわ」
嫌われに行くんだ・・・
全然話が進んでません。




