【第26話】春休み2
『それでは開場です』
パチパチパチと会場のあちこちから拍手が聞こえてくる。わたしも拍手する。
「よがったぁぁぁ・・・間に合ったぁぁぁ・・・」
遥斗がギリギリに届いたダンボール箱を撫でている。中身は新刊。
「刷り立てのこの匂いが好き」
「分かる」
いい匂いだよね。
*
「こんにちはっ!!」
声をかけてきたのは、とある魔法少女のコスプレをした子だ。この子は親のサークル参加についてきている子で、本人も完全なヲタである。レイヤー名はツバサ。確か中学三年生とか言ってた気がする。
「遥斗さん。前回の本さいっこうでした!!今日も新刊出しているって聞いてますけど、ありますか?」
「あー、あるよ。はい」
といいながら遥斗が渡したのは、毎回遥斗が用意している腐作品だ。
遥斗は毎回2冊新冊を用意できればする。一冊は女装者が出てくるけどNL物、もう一冊は男の娘×男といった腐物だ。
流石に丸々違うのは余裕がなくて作れないために大筋は2冊とも同じだ。
その腐物を渡したことでも分かるようにツバサちゃんは腐っている。
「そういや、高校受験終わったんだっけ?」
「はいっ!!これで男子校ともおさらばですっ!!」
・・・そう。ツバサちゃんはれっきとした男である。メイクもせずにこれは反則だと思う可愛さだ。
小学校の頃から女装はしていて、少し男っぽくなってほしかった両親が男子校にいれたが腐に走ってしまったのだ。
血かしらねぇ。とはツバサちゃんのお母さんの言葉だ。
「でも、男子校ってこういうのないのか?」
そういって遥斗がめくったページは学校の空き教室で抱き合う男同士が描かれているページだ。
「あー、無くはないんですけど、それが普通になっちゃってる感じで、特別って感じがしないんです」
やっぱり共学で女子とも付き合える中での男子同士の禁断の愛っていうのがいいんですっ!!と力説された。
分からなくもないけど・・・
*
じゃー他にも挨拶してきます―と離れていったツバサちゃんを見送って、ノベルティのセット作りを手伝う。
「そういや近藤君とアカネちゃんでケーキバイキング行ったんだって?」
「どこから?」
まだ伝えてないと思うんだけど。
「早乙女さんからリークされた」
こんな画像とともにね~。と遥斗のスマホの画面にはわたし達がケーキバイキングの列に並んでいる写真だ。
うん?そういや、早乙女さんにまだなんでわたしが佑樹だと気がついたか聞いてない。バレンタインに手紙を貰ったきりだ。
「そういや、早乙女さんにバレてんのか?」
「んー、バレてる。でもなぜバレたのかさっぱりわからない」
本当に、早乙女さんは本当に分からない。早乙女さんの前ではボロを出した覚えはないんだが。
「まぁ、飯島さんの名前は本部の方で確認できるし?」
急に声をかけられた。
声が聞こえた方を見ると、ロングの黒髪で赤縁眼鏡をかけた女性がそこにいた。確か検本を持っていった人だったと思う。
「それにしても二人共よく化けてるねぇ」
え?誰?と遥斗と顔を見合わせていると、「あぁ」と何かに気がついた女性が眼鏡を外して少し前髪を持ち上げる。その下からは、茶髪の髪が見える。
「あっ!?」
遥斗が何か気がついた。
「早乙女さん!?」
「いぐざくとりー」
えっ!?
早乙女さん!?なんで!?
「あたしの本性はこっちだからね」
にしし。と笑う早乙女さん。
えーと、つまりは・・・早乙女さんはイベントの運営側の人?
「そそ。だから遥斗さんの本名も知ってるし、学園祭で飯島が遥斗さんだと気がついたし。
リンさんはまぁ勘かな。あたしこれでもコスプレの人たち見分けるの得意だし」
でも、あの時まで確信は一切なかったよーと早乙女さん。
あの時というのはバレンタインで目があったときのことだろう。
「で、忘れる前にはい。検本の返却でーす」
「あっどうも。でも、なんで今?」
教えてくれたの?と少し遥さんを出しながら遥斗が聞く。
「あたしの話題になってたし、あたしだってヲタ話したいし!!」
派手に高校デビューしちゃったからヲタ話しにくいったらありゃしない!!と自業自得なんだけどね。とすぐ落ちこんだ早乙女さん。
「あはは。学校じゃなかったらヲタ話は付き合うよ」
「まじ!?」
「まじまじ」
わたしも付き合いますよぉー。




