【第238話】帰省2
「祐樹君、手際良いわね」
キッチンで米寿をお祝いするために、奥様方とイトコの女性陣に交じって料理をしていると奥さんの一人から言われた。まぁ交じった理由は母さんに連れ込まれたからだけど、家のサイズだけあってキッチンも広い。今ここに婆ちゃんと爺ちゃん二人で住んでるらしいけど、明らかにオーバースペックな気がする。
「まぁそれなりに作ってるんで」
一応二人暮らしで料理担当してるからな。手抜きはするけど、一緒に食べる人がいるから作れるときはちゃんと作ってるし。料理下手ではないと思う。やっぱり一緒に食べる人がいるっていうのは最高のスパイスな気がする。たまに友達付き合いの関係で一人で食べる時もあるけど、なんか寂しく感じるしな。
「祐樹の作るご飯おいしいからね」
私が保証する!! と母さんがテンション高めにいいながら野菜を洗っている。確か、父さんも母さんも仕事で忙しいから料理始めたんだったかなぁ・・・
「作ってもらってるんですか?」
「私たちが仕事でいないときは大体作ってもらってるわー」
えっ?仕事休みでも作ってたような気が・・・ちょっと見栄張った? 張らなくても一応母さんだって料理下手なわけじゃないんだから・・・俺の料理だってレシピ見て覚えたのもあるけど基礎は母さんだし。
*
「ねぇ佑樹君。肌触らせてもらっていい?」
横で下味をつけていた俺のイトコにあたる絵里奈に急に言われた。絵里奈はうーん・・・派手でもないけど地味でもない感じの俺と同じ大学生だ。
というか肌触りたいって・・・なんで? というか今俺普通に素の恰好だから男の恰好なんだけど、男の肌に触りたいってどういうこと?
「横で見てたんだけど、男とは思えないその肌何!!」
この距離でも分かるし!! と絵里奈はぐぬぬといいながら、俺の顔に手を伸ばしてくる。ちょっと今包丁持ってるから待ってほしいんだけど。
「絶対後で触るから!! 触らせてもらうから!!」
はいはい。分かったから、今は待って。
*
「おぉぉぉぉ」
絵里奈が俺の頬を撫でたり突いたりして、その感触を確かめて声をあげた。俺としてはまぁ減るものじゃないし触るのはいいけど、ン何この状況・・・
「きめ細かいし、手触りも最高!! 何したらこうなるの!?」
そう聞いてきながらも絵里奈は俺の頬から手を放そうとはしない。何? そんなに手触りいい? 毎日触ってるからよく分からないんだけど。少しずつ変わるような変化は毎日見てるとわからないんだよなぁ・・・
「何してるの?」
絶対なにかスキンケアしてるでしょ。と聞かれる。少なくとも手を放してくれないと話しにくいんですが・・・目で訴えたら触るのを止めてくれた。
「何してるかって・・・」
あれ? 化粧水とかでスキンケアしてるのって男子として言っていいものなんだろうか? いや、スキンケアする男子ぐらいいるか。
「えーと、福袋で買った化粧水を風呂上りにつけてるぐらいかな」
あと、日焼け止め? まぁ日焼けしても良いといえばいいんだけど、シミとかできやすくなるから日焼け止めは常備してる。というか今年福袋のコスメ、家に帰ってからでも残ってるかな? 初売りの時はまだ家に帰ってないんだけど。
「福袋って・・・化粧水以外のは?」
「えー使ってない?」
アイブロウとかも一緒に入ってたけど・・・リンとしては使うけど、俺としては使わないから・・・うん。芸能人以外で化粧水以外のコスメを使う男子はあんまりいないと思うし。言葉を濁しておく。
「ふーん・・・ねぇちょっと眼鏡外さない?」
「なんで?」
何を急に? あと眼鏡外すとリンって言われるから外したくない。だって絵里奈は姉さんの結婚式の時に、リンを見てるはずだから気が付かれる可能性がある。
「なんかどっかで見たことある気がするのよね・・・」
んーと、俺の顔を睨むように見てくる絵里奈。
「気のせいじゃねぇかなぁー」
気のせい。気のせい。
*
「んーお水ほしー」
お婆ちゃんの米寿祝いについてはつつがなく終わり、後片付けをしていると、玲奈ちゃんがキッチンにやってきて、飲み物を欲した。米寿祝いを兼ねた晩御飯のときはお婆ちゃんの近くにいて、それまでは元々けん叔父さんが使っていた部屋で長距離移動の疲れで昼寝をしていたらしい。まだ俺はここに来てから会ってない。
「あっ、リンお姉ちゃん!!」
「えっ?」
嘘・・・なんで? ちゃんと俺メイクもしてないし、眼鏡外してないよ?
間に合わなかった。。。




