【第222話】教育実習4
「あっ来た来た。鈴木君こっちこっち」
土日に大学のほうの家に帰って、色々準備してから次の週。高校に向かうと、華岡先生が駐車場でスマホ片手に迎えてくれた。
まぁこの土日に会ってたから、先にこの時間に行くというのは教えていた。土日は土日で遥斗の参加するイベントについて行っていて、そこで華岡先生とは会ったからな。
「一応、ここに通ってたんで、道案内は必要ないんですけど」
「まーそれはわかってるんだけど、私のさぼる時間ができるからね」
ほらっと見せられたスマホにはソシャゲの画面。なるほど、迎えに行くという口実でゲームする時間を作ったな。多分ゲームはともかくさぼろうとするのはばれてると思う。だって、俺がここ出身だってほかの先生だって知ってるんだから、気が付かれてるんじゃないかな。
「やっぱ気が付かれてると思う?」
「気が付かれてると思いますよ?」
わざわざ迎えに来る必要はないからな。
「えーと、お話のところすみません。これから二週間お願いします」
俺と華岡先生が親しげに話しているのを見ていた赤崎が言ってきた。あぁ、そうだった俺達、教育実習に来たんだった。
*
「それで、わざわざなんで迎えに来たんですか?」
俺は職員室に移動する間に華岡先生に聞いてみる。駐車場では、さぼりとか言っていたけど、それだけで華岡先生は動かないはず。口では面倒くさいとかサボりたいとか言っているけど、華岡先生はやることはやる。その点では俺は信用している。
「やっぱりバレちゃう?」
「何年付き合ってると思ってるんですか」
高校を卒業してからも付き合いがあるんだから、結構長いですよ? 俺達。
「そういやもう6年は付き合いあるのか」
「そうですねぇー」
ここ1,2年はリンとして会うことがほとんどだけど。
「で、どうしたんです?」
「あーと・・・今回鈴木君に入ってもらううちのクラスに男性恐怖症がいるから、ちょっと先に情報共有をね」
ふむ。それだったら、昨日会った時にでも・・・って赤崎がいなかったか。
「前にあいさつに来た時に教えてもらってもよかったのでは?」
「夏休み中にまぁ・・・うん。まぁ色々あったらしくてね。学校には来れてるんだけど、結構男を怖がってるみたいで」
先生は言葉を濁したものの、きっとあのエロ同人誌みたいな感じのがあったんだと思う。
「てなわけで鈴木君はあっちでいかない?」
あっちとは・・・?
「ほら、文化祭でやってた里奈だっけ?」
教育実習で女装しろと言いますか?
*
「ひっ!?」
おぉ・・・これは重症か。俺が席の隣を歩くだけで男性恐怖症と教えてもらった女子から声が上がった。華岡先生に目線を向けると頷いたから、そこから離れる。見た目は美人系、ちらりと体に目線を向けると、まぁエロ同人誌みたいになった理由が分からなくもない。出るところがしっかり出ていて胸が物凄く大きい。離れるとまだ落ち着いた様子。華岡先生はスルーして授業を進める。華岡先生も慣れてるな。
しかし、横を通るだけでこれだけ怖がっているのに、学校来れてるって結構奇跡な気がする。
*
「相当きてるでしょ?」
「ですね。よく学校まで来れてるものだと思います」
華岡先生と職員室でコーヒーを飲みながら話す。赤崎は体育の授業に参加しにいった。授業をするんじゃなくて参加だ。何かクラスを等分しても休みの人の関係で競技ができなかったから運動できそうな赤崎が呼ばれた。まぁ俺見た目ひょろいから呼ばれなかったんだと思う。服はこんなこともあろうかとという感じで華岡先生のロッカーからジャージが出てきた。
「実際何されたんですか?」
「レイプ」
わぁ・・・まじですか。病院とか行ったほうがいいレベルだと思いますけどね。俺専門家じゃないから分からないけど。
「しかも複数人によるね・・・ちなみに逮捕されてるから」
しかも親族とかいうおまけつき。と華岡先生は肩を竦める。たまにあるエロ同人誌シチュだけど、実際あったらきつい。
「でさ、克服に協力してくれない?」
流石に見てられないから。と華岡先生は顔の前で手を合わせてくる。
「まぁ出来ることなら手伝います」
流石に横を通っただけで声を上げるレベルの男性恐怖症は少しでもいいから克服してもらいたいし。
*
「じゃぁこれっ!!」
と華岡先生が取り出したのは、高校の女子の制服。ウィッグ付き。というかなんでそれが職員室のコート掛けにしれっとかけられていたのか俺は聞きたい。事前に用意してたんだとは思うけど。
「じゃぁでなんでそれ出てくるんですか」
まぁなんとなくわかるけど。
「まずは女装した男子から慣れていってもらおうってね」
よくあるシチュでしょ? と華岡先生は目をキラキラとさせながら言ってくる。多分この人、目の前で同人誌シチュの再現が出来ることに興奮してるんだと思う。だって俺の女装なんて見慣れたものだろうし。
「そこから芽生える恋っ!!」
「それはないから」
俺、遥さんがいるんだからな。




