【第22話】バレンタイン2
「二人ともストップ!!」
二人をわたしは止める。
「「リン(さん)!?」」
「心配だから見に来た」
わたしが見に来なかったらこのまま惨事が続いていたか、梨花ちゃんが切れていたかもしれない。
「二人共、レシピ見た?」
頷く二人。
「湯煎と言う言葉は?」
「見たけどわかんなかったから無視した」
「湯煎ってお湯ぶち込むんじゃねぇのか?」
はぁ。梨花ちゃん。この二人無理だわ。
「えっリンお姉ちゃんが、梨花の希望だったのに!?」
「調べる気もない人に教えるのは時間のムダ」
「えっリンちょっと待って!!教えてっ!!」
「お願いします!!リンさん!!」
早乙女さんは知らないからいいけど、遥さんあなたあげる予定の彼氏に作り方聞こうとしてるんですけど、いいんですか。
「とりあえずお湯の入ったチョコは分量次第で固まらない」
だから冷凍庫に入れてるチョコはだして。流石にボウルに直接お湯をぶち込んだのはもう無理だろう。
ホットチョコレートにでもしようか。
遥さんが削っていた鍋をもらって、牛乳を投入して火にかける。あとは失敗したチョコをぶち込んでおく。
「梨花ちゃん。このレシピを見てもレシピ通りにしないメシマズ二人にレシピの大事さを教えるから手伝って」
「うんっ!!わかった!!」
さて、叩き直すよこの二人を。
*
わたしは洗い物をしながら、ソファーに座って体から魂の出ている二人を見る。
その二人の前に置かれている袋に入った数個のトリュフチョコを見てはぁと息を吐いた。
なんであんな簡単なものを作るのにこっちを何度ハラハラさせられたか・・・
「大変だった」
「ほんとーに・・・お姉ちゃんなんであんなに不器用なんだろう・・・」
本当にまだ遥さんだけならまだましだったけど、まさか早乙女さんも遥さんと同レベルだとは思わなかった。
「でも、よかったの?」
「ん?」
「リンお姉ちゃんが貰う予定のものじゃなかったのかなって」
二人に聞こえないようにわたしの近くまで来て小さな声で話してくれる梨花ちゃん。本当に小学生なのにしっかりしてる。
「まぁー変なものを渡されるよりはいい」
「そういう考え方もあるかー」
「まぁわたし達の関係って少し特殊だから」
少し・・・?と梨花ちゃんは頭を傾けているが、まぁ少しだと思うよ。
ちゃんとわたし達は自分たちの性別は認識してるし。
「まぁお姉ちゃん達がいいならいっか」
*
「はいっ」
「ありがとう」
バレンタイン当日。いつものように屋上に集まった時に遥さんからチョコを渡された。
模様入りの透明な袋にラッピングされたそれは四角に切られたチョコブラウニーだ。
「・・・あれ?」
俺が一緒に作ったのは、スポンジも使わない簡単なトリュフチョコだったはず。
「梨花に手伝ってもらって頑張ったの」
本当の事を言うと8割梨花に作ってもらったんだけど・・・と遥さんは目線を逸らしながら言った。
多分梨花ちゃんのことだ。「梨花が手伝ったとは言わないように」とか言ってそうだが、遥さんは自分の腕を分かっているからか、自白したんだろう。
「今食べていい?」
「うん」
袋を開けて一つ食べてみる。
「おいしい」
「そうっ?ありがとう!!梨花に味見は絶対するって言われたから何度もしたけど口に合うか分からなかったから・・・」
「いや、おいしいよ。ありがとう」
本当においしい。大事に食べよう。
おっと、忘れるところだった。
「俺からも、はい」
「えっ」
同じような袋に入った生チョコを渡す。昨日作った奴だ。生クリームが無くて慌てて買いに行ったのは秘密だ。
「いつもの感謝を込めてってね」
リンの声に変えて言う。
まぁ近くに近藤達もいることだし、一瞬だけど。
*
授業が終わり放課後、『どよ~ん』というSEがつきそうな人が数か所で机に突っ伏していた。
一番暗い雰囲気の発生源は山崎君。
明らかに自分貰えませんでしたオーラが出て、周囲の空気を暗くしている。
そんな山崎君に近づく一人の影。長い茶髪を揺らしながら山崎君に近づいた。
「貰えなかったオーラだしてんじゃないわよ。鬱陶しい!!」
「んだと、モテない男子の気持ちが分かんねぇからそんなこと言えんだよ!!」
「モテるモテないが男のすべてじゃないでしょ」
近づいたのは早乙女さんだ。
「んっ、あげるわよ」
早乙女さんの手には模様入りの透明な袋に入ったトリュフチョコがある。
「えっ」
「だから、あげるって言ってんのよ。いらないの!!」
「い、いりますっ!!欲しいですっ!!」
「なら受け取りなさい!!」
・・・早乙女さんリアルでツンデレってあんまり需要ないですよ。
*
帰ろうと思いカバンを開けると、そこには見覚えのない包みが入っていた。
遥さんのチョコを入れた時にはなかったから・・・午後の授業中に入れられた?
移動教室があって一度だけカバンから離れた記憶はある。
俺はカバンの中で包みを確認してみる。模様入り透明袋に入ったトリュフチョコだ。
横に小さな手紙が・・・カバンから取り出して机の下で広げる。
『日曜日はありがと』
!?
山崎から離れて帰宅準備をしている早乙女さんを見ると、目があった。
俺がチョコに気がついたときからこっちを見ていたのかもしれない。
『ひみつね』
早乙女さんは唇の動きだけでそう伝えてきた。
何処でわかったのか聞きたいところだけど、まぁいいか。