【第210話】ドームライブ
「はーい。皆さん。こんにちはー!!」
まずは悠里としてステージに立つ。今回のステージはなんとドームでのライブイベント。
うちの事務所に所属するアイドルとか歌手が合同でするライブイベントで値段もこの規模のイベントにしてはお手頃ということもあって結構な観客が入っている。ただ昼から夜までの長丁場だからいろいろ大変だ。
謎なんですけど、今回のライブイベントは司会は声優が持ち回りで司会するらしい。あと、声優の人たちもCDを出していたりするから歌う場合もある。姉さんと伊佐美さんは歌う方でも出ます。
ちなみにですが、わたしとしての司会の担当は二番手。一番最初の司会は姉さんと伊佐美さんがやってました。
「「「悠里さーん!!」」」
わたしに向かって声がかかる。わたしも有名になったってことでいいのかな? というかさっきの声、木村君の女声の方が聞こえた気がする。もしかして木村君来てるんですかね? あと女装してたりします? ちょっと人が多くているかどうか分からないんですけど。
*
わたしの司会の時間が終わって楽屋に戻ってくる。今回は完全にうちの事務所のイベントだから、わたしの楽屋はわたしのことを知っている人たちの楽屋でまとめてもらった。近藤の時みたいに、わたしが入った楽屋から別人が出てきて気が付かれるというのを防ぐためですね。声優陣には知られてますけど、アイドルとか歌手には知られていないので。まぁわたしからは特に言ってませんけど、調整しておいたからと社長から言われました。
「おつかれー」
「お疲れ様です!!」
わたしの楽屋に帰ってきたら、遥さんと梨花ちゃんがいた。まぁ元々梨花ちゃんが今回来るというのは聞いていたから居る事自体は問題ないけど、なんでわたしの楽屋にいるんですか? VoiceResearchersの楽屋は横ですよね? 鍵は遥さんに渡してましたけど。なくすと面倒なので、楽屋に居ると言っていたので渡しておいたんです。
「あの二人がなんか大学の課題やってて居辛くて・・・」
あー、他の人が勉強してたら居辛いですよね
「あ、あの悠里さんってあの悠里さんですよねっ!!」
梨花ちゃんが興奮した感じでわたしに聞いてくる。あれ? 梨花ちゃんに教えたことなかったっけ?
「梨花ちゃん分からない?」
「その声ってリンお姉ちゃん!?」
声で気がついてくれるんですね。
「正解」
でも、本当に言ったことなかったっけ?
*
「うわっ、うわぁー」
梨花ちゃんがメイクしている俺を見ながら声を上げている。
「変わりすぎっ!!」
何それ、可愛いからイケメンまでいけるの!? と梨花ちゃんはリンの写真と、悠里の写真をスマホで表示しながら今の俺と比較している。その中に俺の素がないのは・・・まぁ俺の写真なんて俺のアルバムか遥さんと一緒に撮ったプリクラとかばかりだから、梨花ちゃんは持ってないだろうしな。
「こんな感じかな?」
VoiceResearchersとして出ているすーさんとしてのメイクが終わって梨花ちゃんにしっかりと向き合うと、梨花ちゃんは口をあんぐりと開けてこっちを見ている。そんなに驚くようなことかな?
「だって、だって!! 別人なんだもん!!」
そうは言っても、俺の素とリンだって結構別人だと思うんだけど。
「それはなんかもう慣れたの!!」
そういうものだと納得したの!! でも、これは違うっ!! と梨花ちゃんは頭をかきむしりながら混乱している。
「うー、意味わかんない」
「梨花そろそろ受け入れよ?」
「うー」
*
「そういや、遥さんは梨花ちゃんにステージに出たときの映像って見せたことないの?」
一応何度かこの姿でステージには出てるから映像はあるはずだけど。見せてたら梨花ちゃんもこの姿が俺だって分かってるんじゃないかな?
「お姉ちゃん見せてくれないの」
「だって恥ずかしいし!! 佑樹みたいに慣れてないんだもん!!」
あー恥ずかしがるのは始めの頃だけだけどな。俺はもう慣れた。
「佑樹は家族全員関係者じゃん」
まぁな。
確かに全員関係者ってことで慣れるのが早かったってのは自覚してる。
*
「おう。お疲れさま」
「おつー」
VoiceResearchersの楽屋に移動すると、近藤と柊さんが一生懸命にパソコンに打ち込んでいた。きっと大学の課題をやってるんだろう。
「お客さんってどんな感じだった?」
近藤が客層を聞いてきた。
「意外とサブカルも知ってる人が多かった感じだな。悠里のこと知ってる人多かったし」
「なるほど」
これを聞いて何が変わるんだろうか? なにか話題を持ってきて話すようなことはないと思うんだけど。
「悠里さんのこと知ってる人だったら同じ両声類ってことで俺らのことも知ってる可能性は高いからな。誰にも知られてない状態でステージに立ってもあんまり盛り上がらねぇし」
近藤が真面目そうなこと言ってる。でも、客層外れてたらどうしようもないよな・・・




